―chapter9 やっつけ仕事―
『――であるから、諸君らは吾輩の名をよく憶えておくように。いいか、絶対にだぞ!』
そんなに自分の名前を念押ししなくても、この場にいる人間全員を謎の力で閉じ込めているあたり十分に凄いのに、実に残念なやつだ。
この人、どうしてそんなことに執着しているのだろうか。まともに喋らせてもらえなかったとかでもあるのだろうか。
例えば自分が気持ちよく話している途中に、横槍でズブリとどてっ腹を貫かれるようなことをされたとか。
『ここに来て、ようやく私の見せ場が回って来た。これで私をコケにしていた連中もろとも仕返しをすることが出来る』
『耐え難いことに耐え、基をを窺うその臥薪嘗胆の心! 流石オレっちの兄貴だぜ!』
『さあ、恐怖しろここでお前たちは私の脅威を世間に広める贄となれ――んな、何だぁ!?』
ん? 音声の向こう側で何かあったのか。
ところであの声ってやっぱり昼間に会った二人組で間違いないよな。
「なあ捺香、あの声って昼間に会ったあの……って?」
いつの間にか俺の許を離れて捺香が消えていた。
* * * * *
――同時刻、JWA某所。
「いたぞー、あそこだ!」
「あの声、あの見た目間違いない。あいつだ!」
「イエローとピンク隊員、本日は休日にも関わらずご協力ありがとうございます」
「いいって、ここで手伝って解決しないと誰だって困るし」
「お前らはなんだ!?」
「我らはJUNAS所属の特務隊員だ。お前が報告に会った不審者兼首謀者だな観念しろ!」
「はっ! お前ら持っている玩具みたいな武器で……」
「撃てーっ!」
ピュピュピュン!
「――がは! ……何故だこの程度の攻撃、本来ならば痛くも痒くもないはず」
「何をごちゃごちゃと。相手にこちらの攻撃は効いているぞ。恐れずにいけ!」
「ぐはぁ! もしや結界をはった時にでも力を使い切ったとでもいうのか? しかし、その程度では私の力が切れるはずが……」
「ピンクあの技いくよ!」
「OK、息を合わせて行こうね」
「「止めだ」」
「チェンジプラズマハンマー、ライトニングモード!」
「チェンジトランスシャフト、スピアーモード!」
「「雷槍合体! ブリューナクジャベリン!!」」
「ぐああああ……ガク」
「兄貴ぃぃぃ! くそー、憶えていろよー」
「両隊員とも見事な手腕でした。ピンク隊員、お土産です」
「預かってくれてもどうもありがとう。それじゃあ私は待たせている人もいるから戻りますね」
「お疲れ様でしたピンク隊員。私達で事後処理は責任を持って引き受けますのどうぞ最後まで楽しんでください」
「それじゃ、僕も一緒に来たのを待たせているから戻るねバイバイ」
「イエロー隊員もお疲れ様でした」
* * * * *
あの名前は知らない顔見知りの声が途切れてしばらく経った。
空を覆っていた黒い霧は晴れたのだが、封鎖されていたときの混乱は冷め止まない。
自分の知らない所で何かが動いて解決したのはなんとなく察することができた、だがゲートは以前として閉じられたままで、まだ出られそうにない。その前に、捺香の姿が見えないから帰ろうにもかえれないんだけど。
「アクジさーん」
衆人の出す喧騒の中でも目立つ大声を上げて捺香が人ごみの中から顔を出していた。
捺香はそのまま人ごみをかき分けて行くと俺に向かって一直線へと進んできた。
「こっそり途中で抜け出してすみません。急な用事があって」
「いいよ、いいよ。俺はそんなこと聞かないからさ。女の子だから秘密ぐらいあって当然だよね」
女の子がデートをしている間にこっそり抜け出す急な用事なんて、俺には一つしか思い浮かばない。
女の子はれっきとした人間で、さすがの俺も妖精だなんて思っちゃいない。それを分かっている上で理由を聞こうだなんてデリカシーのないことはしない。
とはいえ、あの状況の中でとは大物な気がするけど。
「あ! やっ、……アクジさんそれは違っ……でも……はいそうです」
くそっ、考えが顔に出ていたのか、俺がなんとなく察してしまった空気を捺香に考えを気取られてしまった。
こういう時、察しの早い自分が恨めしい。もっと鈍感であれ。
「デリカシーなくてごめん」
こういう場合、触れないのが良い気がするけど、謝ることだって誠実さのアピールになる。
「私ホントにそんなんじゃ……でも、ホントのこととか私の正体とかも言えないし……もういいよ、許してあげる。気遣ってくれて嬉しかったよ」
顔を赤く染めながらも、捺香は許してくれた。悪い事をしてしまった。
この場合、俺は悪の戦闘員だから悪い事でいいのか? いや、俺の気分は良くないから良くないか。
「それよりも、ゲートはそろそろ開きますよ」
「なんでそんなことが……」
『えー、トラブルが少々発生しておりましたが、ただいま退場ゲートを開きます』
「ね?」
捺香が言った直ぐ後でアナウンスが入り、ゲートが開いて滞っていた人の流れが先の方で動き始めた。
捺香の帰ってきたタイミングがピッタリでゲートが開いたけど、これって偶然か。もしかして、急な用事って俺の勘違いで、本当に別件だったのだろうか。
どちらにせよ、聞かないと決めた時点で、用件を聞く気は放り投げた。分からなくたっていいか、隠し事なんて俺だってあるわけで。
「ま、そんな偶然で都合のいい事なんてある訳ないか」
海際を向くと、水平線の向こうへと日曜日の夕日が沈んでいく。
なにはともあれいろいろあったけど。今日は最後ら辺を除いて平和でよかった。
――悪の戦闘員がなにいってんだかね。




