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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第三話 開園!謎のランドの正体とは?
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―chapter3 黄泉先案内の降射負折<よみさきあんないのフリーフォール>―

 ここは世界征服を目論む悪の結社「アストラル」の本拠地。

 平和な現代の表舞台に突如として現れたこの組織は、第三の人類「怪人」を生み出し、瞬く間に世界の半分を自らの勢力図と化してしまう。

 悪の組織に抵抗する人類が生み出した正義の組織「ジャティス」の隊員である君は、その悪の本拠地へと潜入捜査を任されることとなった。

 敵地の潜入するという、非常に危険を帯びた任務だ。成功率は限りなくゼロに近い。

 だがしかしだ。この任務が成功すれば、彼らに奪われた平和な世界を取り戻すことができるのは間違いない。

 君は過酷な訓練と修羅場を潜り抜けてきた優秀な戦士。必ず生きて任務を果たしてくれると信じている。

 幸運を祈る。


「――だとさ。よく見れば、アトラクションにもそれぞれにストーリーがちゃんと付いてる……」

「へぇ〜、なんだか面白そうですね。できることなら全部のアトラクションを巡ってみたくなります」

 入園直後、配られたパンフレットを開くと、そんなAJWのバックグラウンドストーリーがあったので、捺香に読んで聞かせていた。

 幾ら建設に携わったといっても、それは初期の方でまだ此処が更地だったころの話で、完成を見るのは今日が初になる。

 関わっているにも関わらず、パンフレットを読んでいるのは、そういうことだ。

「ねぇ。何処のアトラクションから行こうか? 何だっていいよ」 

「だったら、最初はアレにしましょう。アレに!」

 捺香が指を指したのは、フリーフォールと呼ばれる垂直に自由落下する絶叫系のマシン。

 園内のどこからでも目立ちそうな高さを誇っている。

 パンフレットに目を落とすと地上68メートルとのこと。結構高い。

「アソコは止めといた方がいいんじゃないかなぁ」

 仮にも悪の組織が運営する遊園地。ただ、高いだけじゃ終わらない気がするんだ。

「アクジさん。もしかして怖いんですか?」

「そんなんじゃないんだけどさー」

 別に、怖がっている訳じゃない。そんなこと言ったら、正義の味方に吹っ飛ばされた時の方が万倍も怖い体験だろうよ。

「あのフリーフォールに乗りたい?」

「はい、スッゴク。私、スピード感のある乗り物って大好きなんです。特にフリーフォールは、落下している間のふわふわした感じが大好きで」

 そんなお目々をキラキラとさせないで下さい。断れないから。

 結局、俺は捺香の誘いを断り切れずにずるずると、アトラクションのふもとまで来てしまった。

「うわあ、さすがにこれは……やや怖いですね」

 乗り気だった捺香の足取りがやや鈍る。

 アトラクション名、黄泉先案内の降射負折<よみさきあんないのフリーフォール>。

 入り口としてアトラクションの前には城門の様なものが建てられており、その先には重厚さが感じられる石造り風の塔が経っている。アソコが乗り物部分であるようだ。

 城門は巨大な山羊らしき動物達の骸骨で飾られており、その先で見える床や壁一面には、血文字らしきもので埋め尽くされている。

 さらには所々に、猫や人の形をしたシミがあるのが嫌な感じだ。

「なんでもこの一帯のエリアは、アストラル内で発生したカルト宗教集団『スカルトップ』の陣地って設定らしいよ。それで狂気を感じさせる設定を持つアトラクションが多いみたいだとさ。

 このアトラクションの説明も、『この、黄泉先案内の降射負折<よみさきあんないのフリーフォール>はスカルトップの生贄の祭壇である』って書いてあるよ」

 パンフレット片手に、俺は捺香にこのアトラクションを簡単に説明しつつ入り口をくぐり、乗り口へと一歩、また一歩と進んで行く。

 乗り物に辿り着くまでの間、視線を地図とアトラクションを覚えようとパンフレットにやったり、それだと捺香をほったらかしにして悪いのでパンフレットを見せてどんな所がなのかを話しながら順番を待つ。

 そうこうしているうちに、もうすぐで俺たちの番という所になった。

「次の人ー! ……って後ろの女性の方はお連れ様でしょうか?」

「はい、そうですけど」

「申し訳ありませんが、乗り物のお席が一つしか空いてございませんので、次の回にさせて頂ますがよろしいですか?」

「分かりました。いいですよ」

 次の番になったところで、係員に進入禁止のチェーンで締め切られてしまう。

 所で乗り物は目前ではあるのだけど、侵入できなくなった部分から少し先を行ったところで曲がり角になっており、アトラクションの様子がどうなっているのか全く見えない。

「そう言えば捺香、妙じゃないか? 並んでいてここまでくる間に悲鳴が全然聞こえない」

「はい、私も気になっていました。どうしたんでしょうか?」

 俺達が疑問を抱えながら待っていると、やがて係員がやってきてチェーンが外される。

「お待たせしました。順番です」

 少し先に言ったところにいた係員の誘導に促され、俺達はいよいよ搭乗することになった。

 それは例えるなら、ギロチン台だった。

 乗り込む座席はシルバーを基調としたカラーリングで、横一列に縦は右上がりな座席の並びはギロチンの刃を彷彿とさせる。

 そして、ギロチン台の周囲には作り物の髑髏が、幾つも転がる様にして置かれていた。

 一気に不安がまして来ていた。

 アトスの戦闘員として現場の手伝いに向かわされた時は、ここら辺の担当では無かったので詳細は知らない。

 携わった範囲で答えられるとするのなら、普通じゃない事なら十分に分かった。

 だって、何故か溶岩が建材として運ばれてきたことあったんだぜ? 普通じゃないって。

 あと、ビルの解体とかで使うような重さ2トンの鉄球とかが運び込まれたり、水素ロケットエンジン、プルトニウム、TNTなど、他にも到底遊園地で扱うようなものではないものが多数見かけることがあった。

 どこで使っているの?

「座りましたか? 安全バーを降ろしますね」

 案内に従い座ると、安全バーが降りてきてガッチリと体が固定される。

 昇りを告げるアラームが鳴って、俺達を乗せてコンベアでゆっくりと吊り上げられていく。

 そしてそのまま暫く上ること数秒間、ガコンと小さく揺れて昇るのを止める。

 園内で高い部類に入る場所はJAWの景色が一望することができた。

 景色の向こうには埋立地と海との境界がハッキリと見え、そこから潮風が運ばれてくる。しょっぱいな。

 しかし、65メートルって意外と……。

 俺は登り切った地点から改めて下を眺める。

 高っ! あの動いている小さいのが人か!? まるで米粒じゃないか。

 舐めてた。高さ65メートル舐めてわ。どうせ、高層ビルからの景色と同じぐらいにしか考えていなかった。

 しかし、いざこれから落下するという前提で、しかも、もろにムキ出し状態で吊り上げれている状態だとまるで違った。

 段々と無性に怖くなってきたぞ。俺って高所恐怖症だったっけ?

 5、4、3……。

 タワーの天辺から降り降りるカウントコールに緊張。

 やめっ、ちょっと止めれ!?

 蒼くなっているであろう俺の顔を隣に向けると、捺香はノリノリで一緒になってカウントしている。

「結構高いけど、怖くないの」

 できるだけ震え声が出そうなのを堪えて、素朴な疑問を聞いてみた。

「ううん。ちっとも! これからワクワクするよね」

 朗らかな笑顔で返されちまったよ。

 くそう、せめて同じくビクついている同志を発見して心の平穏を保つ作戦は失敗か。

 2、1…………0!

 無情なカウントゼロと同時に俺たちの体は浮遊感に包まれる。

 重力加速度を受けてグングンと加速しながら落下していき、景色は遠望から近傍へと映り変わってゆく。

 軽い緊張でかいていた少しだけの汗が、下から上へと流れていくのを肌で感じた。

「キャー……え?」

 開始直後はノリで悲鳴を上げる捺香の声は暫くして止んだ。

 その理由は同席の俺にもよく分かる。

 一体何が起こっているのか?

 それは、地面到着が間近なのに一向に落下のブレーキがかかる様子がないからだ。

 このままだと、地面と激しい激突は必至。乗り物共々衝突のショックで俺達はバラバラになるだろう。

 まさかの故障か?

「オカーサーン!」

 隣で大声がしたかと思えば、捺香とは反対の方の隣の人が顔面蒼白でガタガタ震えながらバーを強く握りしめていた。

 騒ぎ声や喚き声、声なのかよく分からない声なども他から聞こえだして、おそらく隣の人と同様な顔をしているのだろうと思った。

 俺は、近づく地面を必死に見つめていると、地面に大穴が空いて大口を開けた。

 そこが見えない。とても深い穴だ。

「へ?」

 随分と間の抜けた声だったと自分でも思う。

 そして、フリーフォールは加速したたまま、穴へと吸い込まれるように俺達を乗せて止まることなく続いてゆく。

『それでは引き続いて、地上68メートル、地下300メートル。落差計368メートルのフリーフォールをお楽しみ下さい。Welcome to Hell』

 どうやらスピーカーが設置されていたらしい。座席の真後ろから、説明のアナウンスが流れてきた。

 368って……馬っ鹿じゃねぇの!

 高さ368メートルが、いかほどのものかよく分からない人の為の説明。

 落下して地面に着くまでに、約8.7秒程かかります。ちなみに最高時速は……ああ、考えるだけでも恐ろしい。

 ――てかさっきから妙に熱い! 蒸し蒸しする! おまけに腐った卵のような臭いがしてきた。 何なんだこれは?

『地獄名物。マグマ風呂をどうぞご堪能下さい』

「は・い・?」

 頭が一瞬理解を超えた。何をこいつは言ってんのだと。

 しかし、漂う熱気と硫黄臭、そして下を明るく照らすグツグツと煮えたぎるドロドロとした液体に、思考よりも先に本能が理解した。

 ――アレは、マグマだ。

 終点だからだろう。ブレーキがかかり始めて落下速度が徐々に落ち始める。

 しかし、眼下に広がるマグマの海に着くまでには歯止めがかからずに……。

 

 ――ザブーン!

 

 熱ぃ、アチャッアチィアチチチッ!

 座席の一部がマグマに浸かり、マグマの跳ね返りを受ける。

 さすがにマグマは本物ではなかったようで、熱いといっても四十五度ぐらいの熱湯風呂程度のものだったけど。

 ちなみに俺が座っているのは一番端っこの座席だったため、被害を最もこうむっていた。

「本物じゃなかったですけど、熱かったですし、アクジさん大丈夫ですか?」

「こここここここここれぐらいじゃ、平気。そっちこそ大丈夫だった?」

「落ち着いてくださいアクジさん」

 平静を務めようとしたけど、ひり出す声はガクブルしていた。

 だけど暑がりはしたものの、これくらい大したことはない。それよりも、肌の弱そうな捺香の方が心配だ。

 俺程でないにしろ、捺香も少なからずかかったんじゃないのか?

「私の方こそ心配ありません。今日は日差し対策に薄い長袖でしたから、殆ど直接には当たりませんでした」

 そっか、よかった。火傷したとかの心配はないようだ。

「それよりも、失礼かもしれませんけどさっきの熱がるアクジさんの姿。面白かったです」

「いやいや、俺の方は滑稽に見せる為のわざとだったしね。笑ってくれて全然構わないよ。むしろ笑って下さい」

 アトス新春恒例隠し芸大会のネタにと、熱湯風呂を練習した成果をこんなところで披露するときが来るとは思わなかった。

「そうだったんですか。だったら、アクジさん今までに見たことが無いくらいのへんな顔でしたよ。ふふ」

「…………」

 おかしいな。顔芸までは練習した覚えはないし、そんなことしたつもりはなかったんだけどな。

 捺香は楽しめているようだから、まっいいや。

 その後、アトラクション出口で乗った時の撮影写真が売られており、記念に買って帰った写真を見て銀子らに後で爆笑されるのだけど、それは先の話。

「なかなか刺激的なアトラクションでした。アクジさんもう一回」

 もうやめて!

実は遊園地のアトラクションってどんなのがあるかよく知らない。


また明後日に。

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