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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第一話 打倒!正義の味方
3/64

―chapter2 特訓という名で地獄と天国―

 ――朝、目覚ましはセットした通り午前六時半のベルを鳴らし、俺を起こしてくれる。

「……あとごふん」

 意識は完全に覚醒しているのに、肝心の身体は泥沼に浸かっているかのように重く、とても動かせない。

『さあ、走って走って! 強化人間ごときがフルマラソンをこなせないでどうするの?』

『馬鹿言うな! こんなの強化された人間でも苦しいわ!』

 あの日、俺は地獄がどのような所かを知った。

 腕立てと腹筋が各三千回、スクワット五千回、そしてフルマラソン一本で一セット。

 これを計四セット繰り返すのが、ただの準備運動。 本番はそれから。

 俺は準備運動でふらふらにされた体で、実戦形式の戦闘訓練を一日中シニードリンと行った。

『ほらほら、あくじはそんなことじゃ絶対へこたれないでしょ。本気出していくよ!』

 言っておくが、シニードリンは決して弱いわけでは無い。

 いち戦闘員相手に、謎の期待で本気でかかる大幹部。これがいかがなものか分かるだろうか?

 五分とは言ったものの、それでも辛いのでやっぱり目覚ましを七時にセットして二度寝を決行した。

 …………グー。

 …………グー。

 …………グー。

 …………グー。

 …………グー。 

 …………グー。

 …………グー。

 …………グー。

 …………グー。

 ………………。

 …………――。

 ……――――。

 ――――――。

 


「起っっっきろおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」



 二度寝していた俺を起こしたのは目覚ましではなく、フライングクロスチョップをかますジャージ姿の幼馴染というなんともアクロバティックなスチュエーションだった。

 ちなみに午前六時四三分。まだ十三分しか寝れてねえ。

「どうしてお前が朝の俺の部屋にいるんだよ!」

「だって朝のトレーニングがあるのに、いつまで待っても、あくじがちっとも来ないから私の方から来ちゃった」

 いや、朝練とか聞いてないぞ。

「まっ。朝起きたときの思いつきなんだけどね」

 知るかよ、そんなこと! 

 でも、こいつの思いつきは今に始まったことじゃないから諦めるとして。

「そうじゃなくて、朝の俺ん家は鍵がかかっていて入れないだろ? あと俺の部屋も」

 うちの家族はそろって朝に弱い、毎日六時半起きの俺が一番早く起きる始末なほどだ。

「ああ、そういうことね。それなら以前おばさんから、家と部屋の鍵を貰っていたから使っちゃった」

 銀子は尻ポケットから、俺の持っているものと遜色のない鍵を二本、俺の前に取り出してチャリチャリと揺らして見せた。

 母さん……。俺にプライバシーなんてものは無いんですか?

「それに、良いじゃん。これからしばらく一緒に暮らすんだし」

 なんだと! 聞いてないよ。

「昨日電話したらさ、あっさりおばさんとおじさんからOK貰っちゃった」

 母さん……。親父……。昨晩どうして二人がそわそわしながら俺を見ていたのか、ようやく合点がいったよ。彼女のいない息子に女の子がやってくる。絶対にあの二人なら喜ぶこと請け合いの話だ。

 俺は銀子にも、親父と母さんにも言いたいことは山ほど浮かんでくる。でも……まあいっか。お互い十七歳の男女ではあるけど、家は父さんも母さんいるし、一つ屋根の下でも別に問題ないだろう。

「今度の作戦は、二人一組、ツーマンセル! 息をピッタシ合わせるには寝食を共にするのが一番。というわけで、不束者ふつつかものですがご厄介になります」

 三つ指を立てたり、深々頭を下げてといたりと、妙に仰々しい挨拶だな。これじゃまるで、銀子がお嫁に来たみたいじゃないか。確かに泊まるからお世話になるったって、俺とおまえの仲じゃ行き過ぎもいいところだ。

「さあ、下に降りてさっさとご飯を食べて。一緒に汗を流すよ」

 銀子に、昨日に続いて再びドナドナ連行される俺。

「ちょっと待ってくれよ! それに、ご飯食べた後に、あんなハードな練習なんかしたら確実に吐瀉リバースする!!」

「またまたー。冗談なんか言っちゃって。さあ行くよっ!」

「だから、お前はいつも過大評価なんだよぉぉぉ」

 朝の開始早々から、俺は声が涸れそうだった。

 ――――。

「まずはちょっと軽めに、この山の向こうのその山の向こうのあの山を越えて往復しようか」 

 止めてくれ。


  *  *  *  *  * 


「う~ん。いい汗かいた! もう昼だし休憩にしようか」 

 東から顔を出した日が、高々と空の真上に昇った頃。銀子からやっと休憩が出た。

 俺たちは山での特訓を終えて、見晴らしのいい場所に来ていた。

「今日は、お弁当を作ってきているんだ。一緒にここで食べよう」

 俺はしんどいので、だんまりとしたままゆっくりと縦に頷く。

 実際のところ、本当にしんどかったのは、実は訓練じゃなかったりする。

 本当の原因は銀子にあった。

 俺が前にした、過去回想でちょっと感づいた人もいるかもしれないが、銀子は昔っからよくドジを踏んでしまう質だ。

 今日でもさっそく山へ入ったときだけで、野犬や猪の群れの中に突っ込む、スズメバチの巣があった木の洞に手を突っ込んでしまう、足を滑らせて崖から落ちかける、エトセトラエトセトラ……。とあって、さらには熊が出没など、銀子が俺に泣きつく事態が多発した。

 仮にも悪の女幹部が、蜂とか野犬とかそんなものを怖がるなと言いたいが、懸命に俺を頼ってくる銀子を放っては置けず、俺は彼女のドジのフォローに全力で回り、いつも通り普通以上に疲れた。

「今日もいろいろ大変なことが起こったけど、あくじのお陰で助かったよ。いつもありがとうね」

「いいよ。いつもやっていることだろ?」

「でもゴメンね。最近は私の我儘で、今までやっていた仕事が出来なかったり。こんなにしんどい特訓に、無理に付き合わせたりしちゃって。それに今日でも、こんなに迷惑ばっかり」

「迷惑なんて思っていないさ。俺はしたくて勝手に身体が動くんだから」

 これは本当の事だ。確かに面倒だとは思ってしまうこともある。俺だって銀子に泣きつきたくなりそうになった場面もあった。けれど、そんな苦労を乗り越え、銀子を守り通せたお陰で……。

「そっか。じゃ、これからもお願いします」

 俺へと眩しい笑顔を向ける銀子は、とても美しく見えて、もうこいつの笑顔なんて見慣れているはずなのに、いまだにこの笑顔に俺はにドキドキさせらてしまう。それでいつも、こんな綺麗な女の子のいい笑顔がもらえるんならイイや。と思ってしまう。

 俺はいつだってこの笑顔を守るために頑張ってこれたんだ。今更どんなことが降りかかろうと、投げ出そうなんて思わない。

「ところであくじ。ここって見晴らしは良いけど、いったいどこなのかな?」

 たとえ、銀子に先導されて特訓に向かった山で遭難中だったとしてもな!

 会話劇がメインなchapter2でした。次回はちゃんと2人とも下山しています。

 特に発表の場がないのでこの場で↓

 シニードリンの名前のモトネタ:「Snedronningen」雪の女王

 それではchapter3で。

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