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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第二話 衝撃!明かされる組織の野望
23/64

―chapter6 雷との戦い―1/2

 時計の短針が零時から一時を指し示そうとした頃。俺は夜の街を当てもなく駆けていた。イエローを連れ攫ったニョルズを探すためだ。

 ニョルズは五大幹部の中でもナンバー3の実力者、いち戦闘員の俺が挑んでも到底勝ち目はない。仮に銀子に戦闘を任せても、格下の銀子では難しいかもしれない。どうしても負けることが……。

「――って、弱気になんな自分! 勝ち目を潰していくよりも、まずは勝ち目を見つけないとだろ!」

 マイナスに思考が寄りかけた自分に活を入れる。

 守るって約束でも任務でも引き受けたんだから、貫かないと男じゃないだろ。まずは、ニョルズを見つけないことには始まらない。

 俺は広い公園を探す途中で足を止める。

「ニョルズが何処にいるのかを考えないと。それに問題は見つけた後だ。どうすれば俺はアイツからイエローを奪還できる?」

 俺とピンクとシニードリンの三人で手を組む? でもそれじゃ、手分けして探している意味がない。

 ところで、やけに周りが静かだ。てっきり捺香のことだから探しに出た後、すぐさまJUNASに連絡が行っていると思ったのに深夜のひっそりとした住宅街に人影が増える様子はない。

 あれから結構な間、夜の町を徘徊しているのに、すれ違う隊員は未だ人っ子一人いなかった。お陰で、戦闘員の恰好をしていても隠れながら町中を歩く必要が無いのだけれど。

 慌てていたから連絡を忘れていた? いや、銀子じゃあるまいし、あのしっかりした捺香が連絡を取っていないとは考えづらい。でも家を出たときに話も聞かずに出て行ったし。でも最悪な可能性としてはもしかして……。

 逃走中のニョルズに倒されたのではないのだろうか?

 ――ふと嫌な考えが頭の中をよぎってしまうが、その考えを振り払うように強く頭を抑えつけ首を振る。

 バカなことを考えるな! 今から気を落としてもいいことはない。

 トンッ。

 と。

 不意に後ろから肩を叩かれる。

「――よくここにいるのが分かったね」

 振り向くと、そこにはニョルズが立っていた。

 え? どゆこと!? そんないきなりの登場だと、流石に覚悟できないんですけど。

「ゴメン。テイク2で」

「仕方ないな。ちょっと待ってろ。そこの茂みに隠れ……許すか!」

 ノリツッコミをしてくれるのか。どうでもいいことだったけど感激した。あわよくば、ここで引いてくれたのなら、もっとよかったのに……。

「すんません。リテイクでいいですか?」

「だったら分かっ……同じことだぁぁぁああ!」

 今度は切り返しを早くして緩急をつけてきた。ただの大幹部だと思っていたらニョルズ、できるな。

 もしかして、ツッコミ気質なのか。俺の周りはいつもボケばかりでつっこんでばかりだったから、逆につっこまれるって新鮮だ。

「お前……、泣いているのか」

「ええ、新しい感動に少々」

 変な目で見られた気がするがそんなの関係ない。ワザとらしいフリに期待以上の返しがもらえる。ボケるって、こういうことなのか。

 ――ダダダダダダダダダダダダダダダダ。

「おや?」

 静かな公園に向かって近づく騒がしい騒音。

「居た! やっぱりあくじだ!」

 いや、俺なんかじゃなくてニョルズを探していろよ。たまたま俺を探したのでも正解だったけど。

「あの迷いのない足並み。どうして、ここに僕が居ると分かって真っ直ぐ向かって来れたんだ?」

 いえいえ、あんたを尋ねてやってきたんじゃないですよこいつは。そして、あの華麗なツッコミはどうした? やっぱりボケなのか? 加えて天然なのか?

「ひとえに愛の力だよ!」

 お前はお前で、この状況下に小っ恥ずかしいことをこの場で言わない。あと、その返しは合っているようで合っていないから。そんな返しだと……。

「愛だと……。!? まさかシニードリン。お前、僕の事を愛しているのか?」

 あーあ、勘違いしちゃったよ。

「ウワキモイユルシテマジカンベンコノゴミクズブタオマエノコトアイシテイルトカアリエナインダケドソレナラヘドロニムカッテアイヲササヤイタホウガマダマシ……」

 銀子は三秒の間に十は罵詈雑言を吐く勢いで、死んだ魚のよう濁った瞳でもって、ありとあらゆる言葉を尽くしてニョルズをけなし始めた。

 これはキツイ。悪意を向けられていない自分が聞いてもそう思うのだから間違いない。これは特殊な性癖にでも完全に目覚め切らない限り、精神がガリガリ削られる。

「ハァハァ、もっと! モアー! プリィィィズ!」

 どうやらニョルズは、すでに開眼しきっていたらしく、もっと激しいものを懇願なさっていた。

「どうしようあくじ。同僚だけど、あいつ怖い」

 特殊性癖を目の当たりにしてさっきまでの威勢が消沈し、罵倒を止めてすぐさま俺の後ろに隠れる銀子。怖がってるけど銀子、お前も十分、特殊な部類に入ると思うよ。

「山田アクジめぇ。そうやって美少女を誑かして自分の周りを囲いやがって。だからお前のことが俺は大っ嫌いなんだ!」

「俺はそんなこと……無くもあるのか」

 ニョルズが俺を嫌う理由。それはメッチャ私怨だった。しかし、美少女を誑かして囲うってそんなこと――あるかな。無論、誑かしてなんてないし、美少女を囲ってなどいないけど、必ずしもイエスと首を縦には触れないのが現状だ。

「あくじ、怖いからギュッとして、ギュッと。ねぇ」

 聞く前に、もう抱き着いているじゃん。

 戦闘員に頼る大幹部というレアな絵面が、端から見れば展開されていることだろう。

「あー! 見せびらかすつもりか山田アクジ! 喰らえお前用に開発した必殺技!」

 勘弁してください。俺ただの戦闘員なんで、専用じゃなくても普通に『必ず殺される』ような威力で十分アウトなんですけど。

「キャーコワーイ」

 そこっ! 棒読みで、可愛い子アピールなんていいから。

「エクスプロード・リアージュ!」

 邦訳すると「リア充爆発しろ!」ですね。ハイ、分かりました。

 ……じゃねぇっ!

「しゃがめ!」

 俺は、すぐさまシニードリンを抑えて姿勢を低くさせると、転がる様にして左へと移動しようとする。

「うおっ!」「きゃっ!」

 回避行動を行った直後、さっきまで立っていた場所に雷が落ちてそこが爆発。俺たちはその爆風に吹き飛ばされ、さらに左へと行かされる。

 雷で爆発って、いったいどういう原理だ?

「あの初撃をかわすとは、よけることには一流みたいだな」

 同じところに立ち続け一歩も動かないニョルズ。余裕の表れだろうか。

「アイシクル」

 倒れていた状態からすぐに立ち直り、シニードリンが今度は先制する。

 銀子が冷気を放つ鞭を大きく振り上げると、冷気を纏わりつかせた鞭に細かい氷柱がいくつも生成される。

「シューーーート!」

 振りかぶった鞭が勢いよく振り下ろされ、生成された無数の氷柱が鞭を離れ一斉にニョルズに向っていく。

 氷柱一つ一つのスピードは凄まじく、弾丸並みの速さを持っていて、ニョルズの立つ場所に着弾するなり、凄まじい砂埃が舞い上がる。

「やったの?」

 三メートルにも舞い上がった砂埃を見つめる銀子。

「いいや、……やってないよ」

 俺たちのすぐ背後から聞こえてくる声。いつの間に回り込んだんだ!?

「――だと思った。ほら、捕まえた」

「なんだと!?」

 銀子はニョルズの行動を呼んでいたらしく、声が聞こえていた時にはすでに、振っていた鞭がニョルズを捕えて拘束していた。

「僕の行動を先読みするとは中々の慧眼だ。――でもお前は、最初から戦う相手を間違えている」

「なんですって!」

 鞭に縛られて動けない状態になっても、余裕の表情を崩さないままのニョルズにシニードリンは動揺する。

「僕は雷だ。雷は速く、また形は無い。だからこの僕が本気を出せば、何者にも捉えられないし、捕えられない。よって――」

 鞭の内側からニョルズの姿がパッと掻き消え、パッとすぐ横に鞭から解け出た状態で再び現れる。何の抵抗も無くあの拘束から抜け出しやがった。

「このような戒めからは、簡単に抜け出せる」

 ニョルズは、鞭を地に食い込むほど強く足で踏みつける。いけない、あれじゃ鞭を使えない所か……。

「急いでその鞭を捨てるんだ!」

 俺はそう声をかけよるよりも早く……。

「コレ、利用させてもらうよ」

 ニョルズの放つ電撃が鞭を伝って流され、高圧の電流が銀子に迫る。

「キャァァァ!」

 鞭を手放す暇なく、そのまま銀子は感電してしまう。

「一応、軽ーく手加減したから大した別状はないけど、それでも痺れてしばらくは動けなくなっているはずさ。シニードリン。君はそこの戦闘員が、歯痒い思いでじっくり弄られていくのを観察しているといい」

「……」

 本当に痺れているらしく、銀子からの反応は一切ない。

「――何をボケっと突っ立っている?」

 倒れ伏しているシニードリンに少し気をやった瞬間、もう目前まで距離を詰めていた。

「しま……」

「遅い!」

「――ッ!」

 ニョルズが至近距離から雷化した右腕でパンチを繰り出し、俺の左肩を狙う。

 拳が左肩のに触れ、電撃が戦闘員のコスチュームを通り、弾けるような痛みが届く。

「まだ終わらないよ。お次は足だ!」

 今度はローッキクで右足の太腿を狙われる。左肩の時と同様の痛みが走り俺は立っていられなくなり片膝を立てる。

「まだ立てるだろ? 山田アクジ。電圧はかなりの高くしていたが、電流はかなり抑えていたはずだ。ダメージもまだ比較的軽いはずだ」

 勘弁してくれよ。マジで喰らった場所がすげえ痛むんだぞ。確かに痛みの割に、電気は通ってないから火傷の類はないけどこれでマシとか冗談にして置いてくれよ。

「立たないか。でもまあ関係ない。そっちが来ないなら僕から行くまでだ!」

 痛みで立てなくなっている俺を、背からニョルズの雷化した足が貫く。今度こそスーツ越しどころか、紛れもない肉体を通した直撃。俺に声を出す暇さえない激しい痛みが襲う。

「そらそらそらそらそらぁぁ!!」

 ニョルズは貫いた足を抜くともう片方の足で貫き、貫いたもう片方の足を抜くとさらにもう片方の足でと、情け容赦ないストンピングのラッシュを仕掛ける。

「――――」

 ニョルズの攻撃を受ける度、俺は次第に血反吐を吐きだし、内臓の火傷がじわりじわりにと広がるのを感じていく。徐々にダメージ蓄積され、深刻なものに変わっている証拠だ。

(いつもの俺だったら、ボロボロでももうちょっと恰好つけられたんだろうけど、今回はさすがに無理だ)

 薄れていく意識とぼやけていく視界の両方を感じながら、真っ暗な世界に旅立とうとした時にみえるものがあった。

 公園の照明が届かない真っ暗な影、その中によく目を凝らすと、縛って転がされていたイエローの姿を発見する。

 意識が戻っているらしく、身体の自由は聞かないものの、影の中からじっとこちらの様子を窺っている。

 暗いから、イエローが暗がりでどんな顔をしているのかなんて分からない。もしかしたら、悪同士潰し合ってればいいような顔だったのかもしれない。

 でも、一瞬だけ。ほんの一瞬だけ、顔にキラリと流れていくものを見た。見間違いかもしれないけど、あれは涙だ! なんで、イエローなんかが涙を流すのだろう? それが分からない。

 けれども、泣いている女の子をそのまま放って置ける事は俺には出来ない。

 身体を無理に立ち上がらせようとすると、痛いと悲鳴をあげる。まだ大丈夫だ。痛いことを感じられるうちは、まだ体が完全に駄目にはなっていない証拠だ。

 ふと、「負けるな!」とどこからともなく声が聞こえた気がした。おまけにその声は、ここ数日で沢山聞き覚えがあったものだった。

 聞こえてきた応援は本人のものか幻聴か、はたまた空耳か。今は真偽なんてどうだっていい。そんなの、後で確かめたっていいことだ。聞こえた気がしただけでも、十分に頑張れる。

 動いてくれ、俺の体。無茶した分なら後でタップリ甘えさせてやるから。大体、この場には女の子もいるんだ。例え見てなくたとしても、カッコイイことくらいしてえだろうがよ!

「お前……! どうしてこの僕を掴めるんだ!?」

 蹴り続けていたニョルズの足を掴み、それを支えに立ち上がる。その際に何故かニョルズの方は驚いていたが、こっちは知ったことじゃない。 

「まず一発だ!」

 足から肩へ、体の支えを掴み移し、ミョルズの顔面中央へ向けてヘッドバットをかます。

 ニョルズは、大きく後ろへとよろけて俺から離れる。支えが無くなって危うく俺はこけそうになったが、両ひざを抑えることで何とか立つことができた。

 初撃に受けた左肩が痛む、それと右腿もだ。このままだと、膝を支えいる手が外れてしまいそうだ。早く立たないと。

 右足に力が入らないので、体のバランスに気をつけながら、ゆらりと我ながら情けなくなるような立ち上がりをする。頼りないなあ。けど踏ん張れ!

「俺はなぁ! 護るってイエローのやつと約束したんだよ。俺自身が頼りなかろうと、相手が誰であろうともだ!」

『襲ってくる相手が、格上の怪人とかだったらどうするのさ』『絶対護る!』

 以前、俺がイエローにした約束。実はこの約束は、仕事か辞令とかじゃなくて完全に私情で結んだものだ。

 ここにくる数刻前まで忘れていたようなことを、いまさら約束を果たそうなんて都合のいい話しだと思う。

 でもな、俺は悪の人間なんだ。悪なんて本質は自分勝手なんだ。

 女の子や大切な人が不機嫌になったり、悲しんだり、泣いたり、苦しんだりするのを見るのは俺は嫌だから、全部自分の為にやっている。

 こういうのを偽善て言うんだろ? だったら偽善でおおいに結構。悪人の俺は善行を積むなんてことに興味は無い。

「さあ、かかって来い!」

 ニョルズに向かい戦闘の構えを見せつける。俺は自己満足の為にニョルズに立ち向かう。

 必死に耐えれば、そのうちにシニードリンが復帰してくれるはずだ。俺はその時までの時間稼ぎにさえなれればいい。

 かといってこの場で負けるなんて、意地でも嫌だけど。

根性で戦うキャラクターって大好きです。もっとも根性論だけじゃ、敵う方法なんて思いつかないですけど。

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