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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第二話 衝撃!明かされる組織の野望
20/64

―chapter4 誰か忘れてる……―1/2

「あくじ、あくじ、あくじ、あーくーじ! あくじの銀子がただいまやって来たよ~! おっひさー!」

 遠くの通路からこっちの通路までを凄まじい速度で走って俺に突っ込む影が迫っていた。

「おい、銀子。廊下を走るんじゃない! 走ったらお前は……」

 転ぶぞ! と喚起しようとしたタイミングでだ。

 ――ツルン!

「「あっ!」」

 銀子が通路にたまたま落ちていた紙屑を、たまたま踏んづけて足を滑らし盛大に転んだ。

 足元が滑ることによって制動力を失った運動エネルギーは、地から足が少し浮いた状態で弾丸のように真っ直ぐに俺へと向かっていき……。

「あくじ、ゴ『グワハッ!』メーン!」

 俺に向かって飛び込んできた来た頭は、見事に俺を鳩尾を貫いて悶絶させることに成功し、それによって圧迫された臓器から酸っぱいものが出口を求めて食道せり上がり……。

「ウボァァァァ!」

 

 ――主人公オート中(婉曲表現)。

 

「お前には、あれほどいつもいつも言っているだろ。廊下で走るなと!」

 胃の内容物を全部出し終えた俺は、銀子を廊下に正座させて長々と説教をしていた。

 上下関係? 知るか! 今の俺は、銀子の幼馴染兼世話役の山田アクジとして接しているんだ。

「ゴメンなさい。大総統の命令で、しばらくアクジと離れて行動していたから、会えた時が嬉しくてつい……」

 足を綺麗に畳んで正座をして落ち込んでいる銀子の姿は、ちゃんと反省していることが見える。

「……まあ反省もしていることだし、この位でもういいか。時間を見れば結構立っているし」

 持っていた携帯端末の時計機能で時間を見ると、アナログ表記で示された時間は説教開始から分針が半周していた。

「今日も今日で、もうそろそろ定時の時間がそろそろ来るな。変える支度を始めないとな」

「定時なんてあるの!?」

 あるよ、それぐらい。泊まりとか夜勤の仕事が来ることもあるけど。

 既に何度目かしれない、イエローの驚き。彼女は、順調にツッコミ属性に目覚めつつあるようだ。

「じゃあ、帰ろっか。イエローを連れてあくじの家に。今日はそのことをあくじに伝えとけって大総統に言われていたからね」

 銀子は自然にそれこそ気軽に、例えるなら「帰りに少しだけコンビニ寄って行こうぜ」みたいなノリでトンデモナイことを聞かされた。

「へ!?」

 なんなのその嫌がらせ。正義の味方を悪の戦闘員の実家にご招待とは、いったい、誰がどう得するのだろうか。

 嫌すぎるだろ! 誰にとっても精心衛生上よろしくない雰囲気が醸し出されることは、目に映って嫌でしかたない。

 今日一日中は俺がイエローを驚かしにかかっていたのだが。今度は俺が驚かされるターンに入ってしまった。

「とっくに、あくじのお家の人たちに話は通してあるから心配しなくていいよ」

 オカシイ。俺も立派な山田家の人間なのだけど、そんなことは一つも聞いていない。俺だって当事者になるのだからその話は聞いていないとへんだよな?

 てか、話しが通してあるということは、逆に考えると親父と母さんはこの話を引き受けたんだよな? 何、考えているんだあの二人は……。

「普通に考えてもみろよ。ただの戦闘員と言えども、悪の組織の一員の住家がバレでもしたら大問題だろうが」

 家の親が賛同していようが、俺は断固として拒否してやる。

「その時は、バレたらさっさと引越せばいいだけでしょ。その時は手当と補償が出るし。みんな当たり前に使っている制度でしょうが」

 畜生。この時ばかりは、行き届いた組織の制度がとても憎く感じる。

「ちょっとの間、あくじの家にイエローを預けるだけなんだからウダウダしない。移動中は目隠しで、たいていの事は済むよ」

 いつも俺が嫌がる時に限って、銀子は驚異的な押しの強さを俺に対して発揮させる。こういったところは苦手だ。

「それよりも見てみろ! あまりの急な展開に、この中で一番状思考が置いてけ堀になっているイエローを」

 先ほどから、驚きっぱなしの一日に精神を鍛えられたと思っていたイエローが、表情を不安で暗くしたり、俺と一緒で嫌そうにしたり、赤くなったりしてとても困っている。……ん? 赤くなるようなことがあったか?

「ゴメン。廊下の向こうからあくじの顔が目に飛び込んできて、イエローがいたことに気づいてなかったよ。――で、どこにいるの?」

 俺はシニードリンの突進に驚いて、俺たちから少し後ろの方で距離を取って立っているイエローを指さす。

「ああ、あれがイえ…………あぁ! なんてこと」

「どうしたんだ銀子!? さっきまで元気だったお前が、急に悲愴な声を漏らして四つん這いになるなんて……。お腹の具合が悪くでもなったのか?」

「ううん、そうじゃない。ただ、負けたような気がするだけ」

 心なしか目には見えないはずなのに、シニードリンの周りに幾本も縦に青筋が引かれているかのように見えた。

 どういうことで出てきたのか知らないが、シニードリンは「胸で勝っているからまだ平気だと思ったのに」と、心の平穏を取り戻すまで暫く呟き続けていた。


「このところずっと組織内での話しばっかりだったから、ろくに話にも上ってこなかったよ、ここは」

 ここにきてメタな発言をするなよ。扱い所の難しいネタなんだぞ。

「しかし久しぶりと言えば、誰か忘れているような……」

 そう言われれば、ここ数日の間誰かをおなざりにしているような気がする。誰の事だっけかな。

 なんとなくだ。本当になんとなくなのだけど、自然と俺の首は銀子の方を向きだし……。

「えっ、私!? 私じゃないよ!? ちゃんと出番はいくつもあったもん! 第一、タイトルの『アンヒロイン』て私のことだって作者が言ってたし……もしかしてアンで否定しているのはヒロインじゃないからなの? てっきり、正義の味方じゃない広いんだからそうなんだと……」

「そんなことないよきっと。ほ、ほら、今回出番が少ないのは、きっとメイン回を貰えるための伏線だって!」

 これはいけない。銀子が急に一人寂しく哀愁を漂わせ始めたので、俺は一人慌ただしく銀子の機嫌を取り持とうと動く。

「そんなことは絶対にない。あくじとの別行動の理由は、そんなこととは関係ありそうになかったもん」

 そういえば、特に必要ないと思ってそのまま聞いていなかったけど、別行動をとってまで大総統に何を頼まれたのだろうか。

「ところで、銀子。ここ数日、大総統に頼まれて何をやっていたんだ? そして、なにが起こった?」

「どうせ、私なんか――……えっ? 私が数日間なにをしていたかって?」

 落ち込んで地面にしゃがみこんで『の』の字を書いていた銀子に、ここ数日の行動を尋ねてみる。

 そもそも、今回イエローを俺の家に預ける話なんてあまりに急な話だし。イエローを組織内から連れ出す際は、滅多に使われなくて人気がない通路ばかりを選んでこっそり抜け出てくるような感じだったし。

 どうも気にかかることがいくつも出てくる。

「……いいけど。――その前に。私、大丈夫だよね?」

「ああ、大丈夫だ」

「何が?」――かはよくは分からないけど、ここでなにかしら返事を返しておかないといけない気がしたのでそう答えた。

「ありがとう。私、もう少し頑張れる気がしてきたよ」

 はたして、俺は銀子の元気を取り戻すことには成功したようで、沈んでいた銀子の表情に明かりがさした。

「実はここだけの話しなんだけど……」

 明るさの戻った銀子は急に眉根を寄せて真剣な表情を作り、俺の耳元に口を寄せてこっそりとその内容を伝えた。

「されがさ、イエローの監視の件なんだけど、ただの戦闘員に任せたことに不満を持っていた輩がいるらしくて、私が傍にいたんじゃ警戒して尻尾を出さないから、隠れてその動向をこっそり探っていたの」

「でも今回の決定って、大総統が決めたことだろ? そのことに意見できる奴がいたのか?」

 聞かされた衝撃的なことに、思わず大声を上げそうになったのだが、こっそり聞かされていることを思い出して慌てて手で声を抑える。

「それが、いたらしいのよ。それで今回の話にの話に繋がるんだけど、結局見つからなかって。それでも怪しいからって、一旦イエローを別の場所に移して、組織内の動きを警戒することにしたんだってさ」

「それがどうなったら、その別の場所とやらに俺の家に選ばれたんだ?」

 イエローの監視の件に不満を持っているのなら、俺が不満の対象になっていてもおかしくない。そもそも、大総統に逆らえる人間は到底考えられないことを考えると俺に矛先が向くのは当然だと思える。家がマークされていてもおかしくない。加えて、家に帰る際は人目を気にせずに堂々と帰っていたけど、それに関しても大丈夫なのだろうか。

「ここなら。例え分かっていたとしても、迂闊うかつには手が出せない場所だからね。ある種の安全地帯なんだよ」

 それってどういう意味なのだろうか。家の親父は元戦闘員で、母さんはそれを尻に敷く一家の真の大黒柱ではあるものの、争いごとに関してはどちらも頼りがいがあるとは思えない。

『でも、銀子が一緒に居ることだし、何とかなるでしょう』なんて呑気に考えていると……。

「ルカちゃんじゃない! 無事だったんだね」

「「あっ! 忘れていたのを思い出した」」

 不意に家の玄関から聞こえてきた捺香の声に、俺と銀貨の二人は顔を見合わせ、ここにきて今回完全に空気だった人物が誰だったのかを思い出した。


今回は悪の組織が主な舞台だったので、捺香の登場はだいぶ後回しになっておりました。出番の早かった割に、彼女の運用が少ないのは仕様です。

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