―chapter1 主人公、戦闘員山田アクジ―
「うわぁ~ん。助けてよ~、あくじぃ~」
「やめろ引っ付くな! 仕事できないから」
机の上に山と積まれた書類を片づけつつ、俺――山田アクジは、幼馴染でかつ上司の銀子に付きまとわれていた。
さっきから、やたらと腕やら首やにくっついてくる銀子――白谷銀子は、女幹部としての名前を『冽氷』の魔女シニードリンと呼ばれている。
俺の親父が大幹部だった銀子の親父の部下だった関係と歳が近いのがあって、互いの両親が遊び相手にと、昔からよく会っていた。
今でこそ幹部なんて、大層豪胆な役をやっているけど、昔は犬とか毛虫とかによく泣かされては、よく俺のもとにやってきていた。
それを追い払ったり処理したりして、泣き止まない銀子をなだめることがあの頃の俺のほぼ恒例行事と化していた。
そうやって散々世話を焼いたせいか、今では銀子にすっかり懐かれてしまった。おかげで「俺=銀子の面倒」と周囲ではそのような数式が出来上がってしまった。
「はいはい、今度はなんですかー? G? 犬? HENTAI? ゴキブリが出たなら丸めた週刊誌、犬にはみかん、変質者には防犯ブザーな」
「ちょ、ちょっと何? その人の話も聞かないてきとーな応対は。どれも違うよ! あと、みかんが駄目なものは猫で、犬が駄目なものはネギとかだからね」
さすがだな。俺のさらっと混ぜたネタを回収するとは。
※ちなみに、猫は柑橘系の皮とかに含まれる成分「リモネン」が有毒になるそうです。試すなよ?
「この三つじゃなかったら何なんだよ? このお前の泣きつく原因トップ3以外で?」
この三つに泣き出す奴を幹部に置いて、本当に大丈夫だったのだろうか上は?
「昔の私じゃないんだから。それ位じゃ泣かないよ。そうじゃなくて後が無いんだよ! 後が!」
「あー、そういや、お前のとこの部隊負けてばっかだったもんな。こないだの出撃も見事に負けだったな」
他の幹部の部隊も負けてはいるが、彼女のは負けが違う。他の幹部は、アーマーズらとは少なからず痛み分けしている部分があるが……
「お前の所はいつも、いまどきでも珍しい程の清々しい負けっぷりだよな。アハハハ」
高圧的な態度で挑みかかって戦闘開始。始めこそ余裕な態度をとるものの、最後にはいつも逆転されて完敗。真っ黒こげになって本部に帰還。ホントお約束事を押さえた良いテンプレートだよ。
「ひ、他人事みたいに笑うなー!」
だってさー、他人事だもん。本当に。戦闘事ばかりのおまえと違って、こっちはデスクワークが主な仕事だからな。
いやー愉快痛快。他人の不幸は蜜の味ってね。ハハハッ、あーおもしれぇ。――ってあれ?
「さっきから人をおちょくってぇー。――こっちは真面目に話そうとして来ているのに。フフフフフ」
「ゴメンすまん悪かった許してください分かりましたからこの通り。だから、そのハイライトの消えた瞳で鞭を振り下そうとしないで、声のトーンおとさないで、ごめんなさいごめんなさい!! な? ちゃんと話を聞くからさ」
怖いって。いつの間に、こちら側にも凍えるような冷気が伝わってくるその鞭を握りしめていたんですか?
「よかった。ちゃんと聞いてくれるんだね」
ヤンデレ発症していた顔が綻んでもとの笑顔へと戻る銀子。
あたりにパッと華が咲いたようなその笑顔は、我が幼馴染ながらちょっとかわいいと思ってしまう。
「あっと、話が脱線していたよ。今度の出撃に、あくじを連れて行く事決めたからよろしくね」
え?
「あと、大総統が『自分の不始末は自分でつけろ! でも一人で相手は厳しいだろうから、もう一人ぐらいなら許してあげる』って言っていたから、他に出撃する人はいないよ」
え? なにそれ? 無理ゲー?
てことは何? お前と俺。二人だけの戦力であの正義の味方達と戦えと?
「べつに勝たなくてもいいんだよ? ただ戦って何かしらの成果を出せばいいから。でもそんなこと関係ないか、あくじなら一捻りで殺ってくれるよね」
「お前は、何故いち組織の下っ端戦闘員の俺を過大評価しているんだ。第一、俺は書類整理が本業だ!」
そう、俺は組織でも戦闘員という下っ端だ。アトスの最高戦力である大幹部から頼りにされるほど強くはない。
役職名こそ戦闘と名がついているものの、実際には書類整理や資金調達、武器庫の管理に研究・開発の助手など多岐にわたる業務がある。戦闘員は主に組織の雑務を一手に担う重要な存在なのだ。
一応は誰でも戦えるように訓練は受けているものの、だからといって必ずしも戦うのがうまいとは限らない。俺たち戦闘員は怪人たちと違って、戦闘員は常人の十倍の力を有している他には、+αの能力がない。おまけにその力だって、アーマーズや怪人たちの方がよっぽど優れたものを有している。
「大丈夫でしょそのくらい。戦闘訓練は受けていて、一通り戦えるでしょ? それとあんたの上司からも、その上からも許可はとっているから。はい、辞令書」
そういって銀子の差し出してきた辞令書には、『山田アクジを、本日をもって事務課からシニードリン出撃部隊へ転属する。 by大総統』と毛筆の流暢な文字で書きつづられてある。
「さーて、新しい出撃のパートナーも決まったし、これからみっちり鍛えるよー!」
二年間慣れ親しんだ職場からドナドナ連行されていく俺を、上司の部長[既婚者]はGJのポーズで独りごちてうんうん頷いて見送り、他の仲間[独身]たちは『けっ、このリア充が』『俺なんて、あとちょっとで魔法使いなるんだぞ』『イチャイチャしやがって』『ク・タ・バ・レ』と殺気ムンムンで送られた。
お待たせしました。chapter1でした。まだまだ起承転結の「起」の部分ですが温かく見守ってやってください。
またchapter2で。ノシ