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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第二話 衝撃!明かされる組織の野望
19/64

―chapter3 悪の組織見学―2/2

「次も、見たらきっと驚くぞ」

 あれからもう一、二件の施設を回って、はや数時間。だが、俺とイエローの組織見学は続いていた。

「もう十分すぎるくらいにカルチャーショックは受けたから、これ以上驚くことなんかもうないよ」

 働いている人は、皆いい人で、俺たちに声をかけてくれた。中には、お土産を持たせてくれたところもあった。

 会う人みんな良い人達だったとはいえ、敵である組織の人間から貰ったのだからその心中は複雑なものだろう。

 イエローは抱いていた組織のギャップの違いに、驚いたり、悩んだりして、すでに心が麻痺してというよりも疲れて反応が薄くなっていた。

「絶対驚くね。なんてったって次は、攫われた人たちのいる所を回るんだから」

「やっとか。みんな元気なんだろうな?」

「ああ元気だぜ。元気すぎて有り余っているくらいにな」

 そこで俺は第一区の中でも一際巨大な建物へと入った。

 この建物、高さ六十メートルあるが、実はそれ以上に地下が深い。俺たちの目的地はその地下の方だった。

 この地下、深さは百二十メートルもあるが、実は地下一階までしかない。

 それはなぜなのかって? 聞きたいか?

「それは……コレを秘密裏に作っている為さ!」

「こ、コレは……!」

 建物の地下に作られた巨大空間。思わず、真下から真上にまで首を向けてけてしまうほどの巨大な物体がそこで製作されていた。

「凄いだろう。巨大超合金ロボット『魔械機神アストロダアム』――全長百メートル、一〇〇〇万馬力を誇る人型ロボット。これが俺たちの計画の一端だ!」

「名前ダサ」

「ダサいんじゃない、ダサ格好いいんだよ! 分からないかなぁ、そういう男の子の心理が。あのトゲトゲとかいい感じだろ?」

「ボク、女の子だし全然」

 ですよねー。言っている途中でそうじゃなかなって気付いたよ畜生! 男っぽいからそういうの好きかなって、ボクっ子に騙されていたよ!

「あっ、あそこにいるのは、失踪していたはずの丸原重工元社長の加江田泰蔵さん。それにあそこにいるのも同じく失踪した、魚田川エレクトロニクス元会長の原近俊彦さんじゃないか! お前たち……攫ってきたお年寄り達に無理やりこんな悪の手伝いなんかさせて、どういうつもりだ!」

「そうだな。本人達に直接聞いてみるのがいいんじゃないか? おーい!」

「へっ?」

 ポカンとしたイエローを尻目に、おれは二人に大声を送って呼ぶのを試みる。

「何か困ったことが起きたのかい?」

「どうしたんだい。戦闘員君」

 俺の呼びかけに、二人はすんなり応じて駆けつけてくれた。先に呼びかけてくれた方が泰蔵さんで、後者が俊彦さんだ。二人とも、初めにここに来たときとはオドオドしていたのだけど、今や活き活きとした表情でここで従事している。

「いや、俺の隣でぽかんとしているいるコイツにここでの作業の説明をお願いできますか?」

「えらいべっぴんさんをつれているじゃねえか、お前さんのコレかい?」

 からかう気満々の下心ありな顔で、小指を立てる俊彦さん。

「変な勘繰りは止してくださいよ。こっちは、ただの仕事で連れて回っているだけなんですから。変な勘繰りされるとどちらも迷惑ですよ」

 散々からかいはしましたけど、俺はともかくイエローは敵と一緒にそんな風に勘違いたらきっと屈辱だろう。こういうところで優しい俺は、キッパリと否定してあげた。

「ギャウン!」

 ペキリと何かの折れる音とが頭の中に響いたが気のせいだろう。ついでに、イエローの変な声も聞こえたような気がしたが、あんな声はイエローが出すわけないしこれもきっと気のせいだろう。

「すまねえな。脱線しちまったな。ええと……俺たちがここでやっていることだよな。それは見ての通り、この巨大ロボットを作っているのさ」

「まさか私たちが生きている間に巨大ロボットを作れる日が来るなんて思ってもみませんでしたな。泰蔵さん」

「ええ、俺もそう思っているんですよ俊彦さん」

「おじいさんたち! あなた達は自分が何をしているか知っているんですか!? あなた達を攫った世界征服を目論む悪の組織に手をかしているんですよ。これがどういうことか分かっているでしょ!」

 途中、色々なことですっかり飽きれていたイエローだったが、ここにきて、再び正義感に目覚めて二人を諭す。

「分かっている」「分かっているよ」

 二人の返事は実にあっさりしたものだった。

「分かっているならどうして!?」

 イエローには、二人がどうしてアトスに加担しているのか分からないのだろう。

 無理もないかな。二人とも世間では立派な人物で通っているからな。

「もう、帰りたくなんだよ」

「ええっ!?」

 それはイエローにとって衝撃的だったはずだ。この二人はここに無理矢理連れてこられたはずなのだから。実際あっているし。

「帰れば、遺産が欲しいから早く死んでくれと毎日願っている娘や息子夫婦に……」

「儂の椅子が欲しいだけで、老害だと言って追い出そうとした上役が待っている会社」

「「そんな所に誰が帰りたいと思う?」」

「そ、それは……」

 正義の味方でもってしても、介入し辛い身内の事情に言い淀んでしまうイエロー。

「で、でもだからといって、悪の組織でこんな凶悪なロボットを作ってもいいんですか? あなた達の作ったロボットが、世界征服の為に悪用されて世界を破壊するんですよ!」

「は? 破壊? 何でそんなことしなきゃいけないのさ。言っておくが、こんなロボット作ったって実際に使われることなんて想定していないからな」

「だって、アトスは世界征服を企んでいるんだから、このロボットを襲撃に使って破壊活動を企んでいるんでしょ?」

 それは、失礼な勘違いだ。俺たちアトスは「世界征服」が目的なのであって、「世界破壊」することは目的じゃない。

「お前たちアトスだって、このロボットと同様に巨大な機動兵器を持っているけど、滅多に使わないだろ?」

『機装合身ヨロイオー』って名前だっけかな。過去の記録でも五回しか起動したことが無いからよく思い出せない。

「そうだよ。町中での戦闘だったりした場合は、戦闘があった区域の建物や土地が使い物にならなくなって、また利用できるようになるまでずいぶんかかるからね」

「それと一緒だよ。どうしていずれ征服する予定の場所を、使いものにならなくしなきゃいけないんだよ。理由がないだろ」

「だったら何の為に?」

 よくぞ、聞いてくれました。

「完全に趣味。夢があっていいだろう?」

「本気で言っている?」

「本気の本気。女のお前には分からないだろうな。巨大人型ロボット――これは男のロマンなんだ!」

「そうじゃ!」「よく言った若いの!」

 おじいさん二人は、やんややんやと褒め称えてくれる。よせやい、照れるじゃないか。

 ちなみに計画の発案者は、大総統だったりする。いつも通りの平常運航、今日もアトスは平和です。

「泰蔵さん、俊彦さん。俺たちはこれで」

 俺は二人に頭を下げて、別れを告げる。

「じゃあの。頑張れよ若いの」

「また気が向いたら来て見なさい」

 二人は、俺たちに向けて手を振ってくれた。

「攫ってきた人たちの元気な顔が見れてよかったろ? 次で最後だ」

 俺はイエローを連れて、次の施設へ向かう。


「最後は、どこに連れて行ってくれるの?」

「まあ、黙ってついてこいよ。分かるから」

 たどり着いたのは真っ白な8階建ての病院のような建物。実の所見学先はこの施設がメインだったりする。

 俺とイエローは自動ドアを潜る。


『いらっしゃい』


 クラッカーや色とりどりの紙テープ、果てはロケット風船が飛び交う。施設の入り口で俺たちは、たくさんのお年寄りたちに盛大に迎えられた。

「こっちこっち」と、俺たちはお年寄りたちに誘導されて、広い空間とそこに用意されたテーブルの上についた。

「ここに要る人たち、みんなお年寄りたち?」

「よく見て見ろよ。お前もよーく知っているはずの顔が、混じっているはずだぜ」

 俺は、迎えてくれたお年寄りたちよりもさらに後ろの方に控えている数人を指でさして示してやる。

「あれは! ゲソラムにタートルタイガーにデススコップやサーベルポンプまで……、全部ボクたちアーマーズが今までに倒してきた怪人たちじゃないか。何でここに」

 あれはだな……。

「ここ――老人介護施設『阿戸巣壮』で働く介護士代わりの要員だけど何か? 介護って、力仕事多いから力持ちの怪人は都合がいいんだよ。怪人だって、戦うばかりが仕事じゃないしさ」

「老人介護施設って……、ここは悪の組織だよな?」

「――? そうだけど。それがどうかした?」

 あたりまえのことを聞くやつだな。忘れていないと思うけど、ここはアトスが支配している直轄地だぞ。

「……。なんでもない」

 イエローは、しばらく何かを言いたげそうに口を開いたり閉じたりしていたが、急にどうでもいいような面持ちに代わり、俺に何かを聞くのを諦めた。

「イエローさん。あの時はお世話になりましたね。オレ、些細なヘマしてすっかり完敗でしたよ。アハハハ」

 後ろの方にいたタートルタイガーが、イエローの前に出てきて、負けたときの禍根など一切感じさせない朗らかな笑顔を見せる。一方、敵の怪人から笑顔を貰っても、向けられた本人であるイエローはどう反応していいのか分からずに微妙な表情を浮かべる。

「正義の味方さんがこんな所に来てくれると聞いて、みんな喜んでサプライズパーティーの準備をしていたんじゃよ。さあ、ゆっくりしてくだされ。私たちが心を込めて作った料理もありますよ」

 近くにいたおばあさんが、このにぎわっている状況の説明をしてくれる。

 俺は事前に大総統からはお年寄りたちへの慰安を兼ねた訪問だと聞いていたのだけど、これはドッキリするサプライズだった。

「イエローさん。ウチの孫がアーマーズの大ファンなんじゃが、サインをくれんかの」

「ええと、それは……」

「安心しろ、書いたサイン色紙はアトスのもつ裏ルートで責任もってきちんと孫の自宅にまで届けておくから! それとも、サイン色紙のことか? 安心しろ。そうなることは、あらかじめ予想しておいた。すでに、ペンと色紙は用意させてある」

「お前、妙な所にまでサービス精神旺盛だな」

 下調べは前日に済ませてあるんだ。死角は無い。

 こうして美味しい料理を食べたり、イエローがお年寄りたちにサインや励ましの言葉を送って元気づけたりして、老人介護施設の訪問は終了した。


 ――日はとっぷりと暮れて、時間は夜。

 俺とイエローは、軟禁部屋への帰路を歩いていた。

「俺たちが今進めている計画の目的だがな……」

 今日という最後に、無性に悪事のネタバラシをしたくなってイエローに口を開いた。ホントはバラさない方が良いに決まっているのだろうけど、そこは悪党の習性というか悲しき性。

「お年寄りを集めているにはもちろん訳がある」

「え……」

 イエローに数々の現状を見せてきたが、残念ながら百パーセントの善意でことが行われているわけではない。もちろん、裏のこともちゃんとある。

「世間ではお年寄りたちに対して年金問題だの、国民保険による治療費の問題だの、老害だの、冷や水だのといって問題ばかりを取り上げて煙たがっているけど、とんでもない! 老人たちは宝だ! 彼らは俺たち若者がどんなに頑張っても、決して得られないものを持っている。それは熟練した知識と経験だ。こればっかりは、どんな努力においても得られることはできないし、お年寄りに勝ることができない」

 勉強も技術も努力すれば上がる。しかし、長年によって累積された経験値や知識量というものはどうあがいたって、自分たちの何倍も生きている年配には勝てない。

「だから俺たちは老人たちを助ける代わりに、知識と経験から得たもの――『ノウハウ』を代わりにもらっているのさ」

「少しは見直したと思ったけど、やっぱり取り止めだ! この偽善者!」

 捕らわれてきたばかりの時のように、イエローが俺に激しく怒った。

 その後にゴミ屑、最低、下衆、悪玉と、あらゆる言葉を尽くして俺に一通り罵しったイエローは、今度はピタリと口を閉じる。

 俺とは口をきかないという現れなのだろうか、イエローは俺に怒鳴りきった後は、ずっと下向きで目を合わそうはせずにダンマリとした。

 無言の間ほど、気まずいと感じる空間はない。このままの空気が延々と続くかと思われた時だった。

「あくじあくじあくじあーくーじー! あくじのシニードリンがただいまやって来たよ! おっひさー!」

 雰囲気を打破する底抜けに明るい声が、歩いている通路のむこうから走る音と共に届いて聞こえてきた。

次回は今まで完璧に空気だったあのキャラが出てきます。次回は夜八時ごろの予定です。

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