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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第二話 衝撃!明かされる組織の野望
18/64

―chapter3 悪の組織見学―1/2

 俺はイエローを連れて、地下にある暗く長い廊下を歩いていた。

「ねぇ、どこに連れて行くの?」

「最初に言っただろ? 攫った人たちの所だよ。……じゃ、納得しないよな?」

「そうだよ。別に答える義務はないよ」

 イエローが俺に聞きたいことはそうではない。文字通り、俺が連れて行くところが何処なのかという話だろう。

 攫われた人達が何処に居るか分かった方が助ける時に便利だからだろうからな。

「普通なら教えてやれない所だが、教えても大したことないしな。教えてやるよ。第一区だ……と言えば分かるだろ?」

 通称第一区。正式な名称は、政府警戒指定第一区。それは、アトスが世に出て間もないころ、征服活動の一環として最初に占拠に成功した土地だ。

 俺たちアトスは土地を占拠するなり、邪魔をされないうちに、堅牢な高壁と上空は電磁バリアで早々に土地を囲った。堅い守りもそうだが、悪の本拠地の一つとしても機能している為、政府もそう易々とは手が出せないで奪還できていないのが現状だ。

 周囲や上空、果ては地下に至るまで、徹底されているほど入口が無い為外部からの侵入経路が無い。壁は勿論の事、電磁波の影響で上空からの撮影でも内部の様子が窺えないため、詳細は謎に包まれている。のが世間の感想だ。

「大したことないって……。第一区は組織でもトップシークレットになっているんじゃないのか? それなのに、そんなところにボクを連れて行ってもいいの?」

確かに隠れてはいるが、バレたところでたいしたことはあまりないからな。

「平気だよ。それにこれから見せることが外部の者に伝わったところで、変化なんて起こそうにも起こせないさ」

「大した自信だね? その自信はどこから来る?」

「来て見れば分かるさ」と俺はつぶやいて廊下の先を歩いて行く。その様子をイエローは黙ってみていた。

 ――やがて歩いていると廊下の向こう側から、廊下の照明とは別の日光が差し込んできた。そろそろ目的地に着くのが近いな。

 そのまま歩いて階段を上りきると、大きな広場に出る。

「ここは?」

 イエローが尋ねてくる。

「ここが、さっきから言っていた第一区だよ」

 出てきた広場外側からは、外壁[五十メートル]より低いビルや工場が建ち並んでいる。その建ち並ぶ建物の中には喧騒が聞こえて来るものもあり、活気が窺える。

「まずはこの建物からだ!」

 おれはイエローを引っ張ってとりあえず目の前にあった建物へと入った。


「山田アクジさまですね。話はもらっています。確認のちょっとカードをお借りしますよ」

 俺は持っていた戦闘員の隊員証を受付嬢に渡した。建物に入ってすぐに受付に寄って建物の見学の許可を貰うためだ。

「――はい、いいですよ。これが各部屋に行ける電子キーです」

 確認がすんなり済み出入りの許可を貰う。

 改めて建物奥へと入っていく。

「ここはなにをする建物なの」

 そうかそうか。気になるのか……。悪の組織に入ることなんてないもんな、興味が出ることは仕方ない。

 知らざあ言ってきかせやしょう。

「ふふ、よくぞ聞いてくれた。ここは悪の組織の秘密の生産工場……さ」

 俺は少し言い含んで、意地悪くイエローの質問に返答する。

 度重なることに、とっくになれてしまったイエローは一言「そう」と聞き流された。

 つまんない奴だなあ。そこはもうちょっとリアクションを返すべきだろ。「ここでアトスのどんな恐ろしい計画が進められているというんだ」とかさ。

 本当に今更な事なんだが、イエローにとって敵なのに俺がなれなれし過ぎるんだろうか。敵なのにいちいち世話を焼いたり、一晩一緒に遊び明かしたり、服を買ってあげたり。

 ……思い返せば、本当に馴れ馴れしいなあ!? 自分。俺だって、アーマーズの奴らから急に親切にされたら気持ち悪い。

 考えてもみろ、イエローは紛うことなきアトスの敵だ。イエローだって正義の味方だから、普通に接したり親切な態度には表では笑ったりして素直な対応だった。しかし、裏では「何コイツ。チョー気持ち悪いんだけど」とか思って、だいぶ気味悪がっていたのではないだろうか?

「おい、どうした? ボクよりも深刻そうな顔で思いつめて。らしくもない」

「ゴメンサイ、キモクテ、ゴメンナサイ」

「……? 本当にどうかしたのか」

 思い悩んだ人間を気遣う、正義の味方らしい模範解答だ。でも本当は気味悪く思っているのだろう。

 イエローの瞳は間違いなく、人を怪しむ目だ。

「あい、大丈夫なのか? お前、ボクまで心配にさせてどうするんだ!」

 その言葉に俺は現実に引き戻された。そうだよ、イエローは大事な護衛対象でもあったんだった。

 気持ち悪く思われている云々は、この際忘れておこう。そうしよう。

 よし、気分を入れかえて――よしっ!

「大丈夫さ! お前が不安がることなんかはこの先にはなにもないさ! あははは」

「……キモい」

 ハートに重いブローが突き刺さる。入れ替えるものを間違えたか?

「はぁ……。こっちだよ」

「うん、丁度よくなった」

 何がちょうどいいのかは分からないが、イエローの不安は消えてくれたようだ。これで……よかったのかな。

「それで、連れて行く場所はどこなのさ」

 おおっと、通り過ぎかけていた。思い悩んでいる間にずいぶんと歩いていたようだ。

「ここだ、ここ。危うく通り過ぎかけていた」

 俺は左手にあった鉄扉の方を向いて、扉横にある電子ロックに受付から貰った電子キーを通す。

 ピピーと電子音が鳴って、扉がゆっくりと開きだす。

「入れ。そして、見て驚くがいい! これが悪の生産工場だ!」

 イエローを促して扉の向こうに入り、続いて、追うようにイエローも入る。

 扉の先は体育館ほどの広さ空間だった。その広い空間にいくかのの大きな機械があって生産ラインを組んでいる。この生産ラインではある物を生産しており、世の人々を惑わしている。

「……嘘でしょ!? 何でこんなところに!?」

「残念だけど、これが真実だ」

 イエローは、そのある物をみて驚愕の声を漏らしていた。無理もない、これはあるい界隈の者達にとって有名な垂涎の品だしな。出所は明かされていなかったから、よもやここで生産が行われていたとは思うまい。

「そんな……だってあれは――ゴクッ」

 驚きで言い淀んでいたイエローは、唾を飲み込んで一気に言い放った。

「どうしてこんな所で、まったり堂の『特濃ミルクプリン』が作られているんだよ!」

 まったり堂――それは、某有名お菓子メーカーのブランドシリーズ。徹底的にこだわった材料選びと確かな味、そして一日生産数が1万個という希少さから、世のスイーツ好きの女子たちからは神聖視されるほどの人気を誇っている。「特濃ミルクプリン」の他、「完熟ミックスゼリー」や「キイチゴノケイキ」などの商品いずれも大人気である。

 最近は、特別な日にあげる友人へのプレゼント目的が流行っている。

「どうしてこんなところにか……それはウチが全部作っているからだ」

 どんな組織であっても先立つものは必要。それは悪の組織であろうが変わることはない。その為、アトスは資金調達の一環として様々な事業を秘密裏に展開している。

「だってあれは、身元がはっきりとしている大企業から発売されているもので……」

「ウチは下請けだからな。製造所名を伏せさせてもらってその会社で発売していることになっているんだよ。もちろん、取引先にはウチの名前は隠しているから、本当の事を知らないのも無理はない。言っておくが、俺たちはここで作られたという痕跡を残していないから訴えても無駄だぜ」

「こんなものを作って一体なにをしでかすつもりなんだ……まさか! このお菓子達に怪しい薬を入れて、全国の人たちに人体実験をするつもり!?」

「するかバカ! そんなことしたら味が落ちるだろ! それに商売はなあ、お客様との信頼関係が大事なんだ。どうして、今までに気づきあげてきた信用をぶち壊すようなことをしないといけないんだ! せっかく軌道に乗り始めた事業だって言うのに……」

『悪銭身に付かず』――不正な手段で手に入れたものは、すぐ離れていってしまうしリスクも高い。だったら、どうすればいいのか?

 俺たちアトスが行き着いたのは、正攻法で、真っ当な商売を行うことだった。商売に関して一切不正な事はしていないので、勿論、足がつくことはないので恐れることがない。

「この工場の売店で、まったり堂のお菓子が売られているんだけど、あとで買おうか?」

「いや……、いい」

 アトスが真面目な事業をしていたことが、彼女には余程のショックだったようで、イエローは頭を押さえていた。

「あっ! あの人、もうフラフラじゃないか! 人をこんなになるまでこき使うなんて、流石は悪の組織だね」

 イエローが、生産ラインで死んだような眼をしながら商品の選別作業をしている工場員を、目聡く見つけるなり皮肉る。

 あっ、あの人は……。俺はイエローを連れてくる前に、下見に来たときにあって知っている人だった。確かあの人は。

「イエロー、あの人は無理やり働いているんじゃなくて……」

 俺がイエローにその人のフォローを入れようとしたときの事だった。

 その人が選別で、明らかにプリンが型崩れしてしまっているアウトレット品を、正規のラインに残してしまった。

 すぐに別の人が気づいてくれたのでそのプリンはそのまま回収されたのだが、上司の人が間違えてしまった人を叱りにやってきた。


『バッッッキャロォォォォォォーー!!』


 空間中に響く怒声が耳に入ってきた。耳が数秒ジーンとするほどの声量だ。

「お~コワイ。あんなあんなボロボロになるまで使っておいて、それでミスしたら大声で人を怒鳴る。ブラック企業も真っ青だよ」

 イエローの皮肉はここで止まることになる。

『お前もういい加減に休め。お前さんこの所進んで残業ばかり引き受けてずっと働きづめじゃないか。そりゃあ、残業手当もちゃんとつけているけど、いい加減働き過ぎだ! ちっとは休め」

「あれ?」

 思っていた言葉とよっぽど違ったのだろう。イエローはキツネにつままれたようになっていた。

 工場員と上司の会話は続いていく。

『この位、平気っすよ。俺、結婚して子供もできたばっかで、これからお金がかかるから、まだ若くて体力の稼げるうちに多少の無茶をしてでも稼がないと』

『だから、馬鹿野郎って言うんだよ、お前は。そうじゃないだろ! 子供ができたばっかりならなら、父親が早く子供のもとにかえってやって元気な顔を見せてやんないといけないだろうがよ!』

『そうだそうだ!』『家の八つに娘なんて、もうパパ嫌いって言うんだぞ』『俺なんて出張や転属が多いから、子供二人からたまに忘れられるんだ。……あの時は泣いたよ』

『帰ってやれ!』

『へ?』

『今すぐ帰って、愛しい奥さんを子供にお前の姿を見せて安心させてやるんだ。心配はするな! キチンと定時通りに帰ったことにするし、後の事は俺たちが責任を持つ。いいよな? お前たち!』

『『『『オオ―ッ!!!』』』』

『みんな……ありがとう! 俺、今から家に帰ってくるよ!』

 工場員の人はそのまま帰っていった。

「いい話だなー……って、どうしたんだ?」

「な、なんというホワイト企業……アトスのくせに……アトスのくせに……」

 つい目の前で起こったドラマのような出来事に、俺は少しジンときてしまった。良い現場だ。一方、イエローが壁の方を見て何やらぶつくさ言っていた。変なやつだ。 

「どうだ、悪の組織の恐るべき活動の一端を知って、さぞかし驚きだろう?」

「ああ、別の意味でね……」

 イエローは、先ほどよりも痛そうに頭をかかえていた。頭痛薬、いるか?

自分でちょうどいい区切りどころがなく、やや長くなってすみません。量的にはchapte1よりも多いです。

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