―chapter0 事の始まり〜捕らわれたイエロー〜―
深夜、月明かりもない闇夜に暗躍する複数の影があった。
その影達は老人介護施設に侵入すると、目をつけていたある部屋の前で止まる。
影の一人が部屋へと入り、寝ている老人の首元に鉤爪を押し当て脅す。
「芝原源蔵だな? 今から我々とともについてきてもらおう。いいな?」
当てられた鉤爪の冷たさで目を冷ました老人は、小さく頷かされる。
「よしっ、撤収だ!」
来ていた影全員でお年寄りを抱えると、首尾よく組まれた逃走ルートを通る。
施設を出る所でのことだ……。
「そこまでだ『アトス』! この所多発していた高齢者失踪事件の犯人は、やはりお前たちだったのか。今すぐその人を離して、大人しく投降しろ!」
対怪人専門の組織『JUNAS』の五人の精鋭、正義の味方『鎧装戦隊アーマーズ』。その五人中の二人――レッドとイエローがいた。
彼らは、多発していた事件の背景には、世界征服を企む悪の組織『アトス』の影があると踏んで、分担して複数の施設に前々から張り込んでいた。
「まずい。とっととずらかれ!」
影の正体であったアトスの戦闘員達は、アーマーズの姿を見ると逃走ルートを急遽変更して踵をかえして走り出した。
「追え! 逃がすな」
戦闘に関してはアーマーズの方が圧倒的に強いが、逃げ足に関しては経験値が悪の側に分がある。要は逃げ慣れているので逃げ足は異様に早いのである。
「くっそ。ちょこまか逃げなんかして」
距離がなかなか縮まら無いことに痺れを切らしたイエローが、戦闘員たちへ銃を向けた。
「よせっ、被害者に当たったらどうするんだ」
冷静なレッドがイエローを叱り、イエローは取り出してた銃を下げる。
その後も戦闘員とアーマーズの逃亡と追跡は着かず離れずの距離で進んでいく。
「何かが臭いな、深追いはやめておこうイエロー」
追跡劇を一時間ほど続けた頃、戦闘員たちの行動に怪しさを感じ取ったレッドが、追いかける足を止め、追跡も止める事を提案する。
「何を言っているんだよレッド。ここで追いかけないと、連れ去られたおじさんを取り返せなくなるよ」
イエローの言っていることはもっともである。未だ連れ去られた老人たちの行方には、全く情報が無い。ここで止めておかなくては帰ってくる可能性は低い。
「奴らの行動は怪しいんだ。もうかれこれ一時間は経つのに、奴らに助けが来るようすは一向にない。そして、それはこちらも同じことだ。さっきから他の仲間に連絡を送っているのに返事がない」
レッドの感は当たっていた。実際、戦闘員たちはアーマーズを追い込むような作戦を持っていたし、他の仲間と連絡がつかないのは同じく施設を狙ったアトスと激しい交戦中だったからだ。
「それならボクだけでも……」
「止せイエロー! これ以上の深追いは危険だ。敵は何を考えているか分からない」
「大丈夫だって、このくらい。相手は戦闘員だし、何かあっても負けないから。それにあの時の恨みを存分に晴らしたいし」
イエローは依然に戦った時にあったある事で、戦闘員を執拗に狙うようになっていた。アトスと戦闘に戦闘になった時など、強敵の五対一で戦った怪人が軽傷で、イエローと戦った戦闘員多くが怪人よりもダメージが深かった。
おかげで、戦闘員たちの間では戦いたくない敵一位はイエローであり、多くのアトスの戦闘員から恐れられてしまっているに至る。今ではイエローを避けて、戦闘員たちの多くがイエローよりも強敵のブラックやグリーンに殺到していくほどだ。
「それでも駄目だ! 俺たちの一人にでも何かがあれば平和を守れるのは――ってイエロー。行くな!」
レッドの静止も聞かず、イエローは一人アトスの追跡を続けた。
「さあ、追いつめたよ。さあ、覚悟してよ。フフフフフ」
脅える戦闘員たちを前に、イエローは正義の味方らしくない邪悪を含んだ声で薄ら笑う。
「てってめぇ、俺たちよりも悪人っぽいじゃないか」「そうだそうだ」「悪そうな顔しやがって……マスクで顔見えないけど」
「何を言っているんだ? ボクは正義の味方さ」
「お前みたいな正義の味方がいてたまるか! この老人がどうなってもいいのか」「そうだそうだこのAAAカップが」「この貧乳めが!」
イエローはマスクの下で青筋を立てる。
「――それで? 人質なんて、ボクが、君達が泣くまで、殴るのを、止めない、理由にならないよ」
「「「(こいつ、本気だー!)」」」
イエローから某名作漫画のセリフ調に淡々と死刑宣告を告げられた戦闘員。
「それは――困るな。私の配下にそんなことをしてもらっては」
「しまっ――!?」
夜の闇の中、不意に背後から表された気配にイエローは対処ができなかった。背後からの強い衝撃による攻撃に、イエローは満足なガードが出来ずに昏倒させられた。
「助かりました。『腐土』ミョルズ様」
イエローを襲ったのはアトスの誇る五大幹部の一人『腐土』不死者ミュルトンだった。
彼は気絶しているイエローを一瞥した。
「大総統様にいい手土産ができた。おい、お前たち!」
手下の戦闘員を引き連れてきていたミュルトンは、老人を運んでいる戦闘員とは別に、後から来た戦闘員たちにイエローの搬送を頼んだのだった。
「ノンヒ」のたった三文字で簡単に見つかる当作品。二か月ぶりの第二話をお送りします。この二カ月の間、作品のお気に入り人数が増えたり減ったり減ったりで、読者の皆様方には、心配をずいぶんとさせてしまっていたようです。
第二話までの間に出した番外編は楽しんでいただけたのでしょうか。番外編はシリーズのリンクから飛べるようになっております。本編とは別に作ってあったので、気付かずに本編しか読んでいない人もいるんではないでしょうか。
謝辞はこのくらいで、次回は明日の夜九時更新予定です。お楽しみに。




