―chapter0 プロローグ―
「ぐうううわぁぁぁぁぁぁぁああああ」
正義の味方――鎧装戦隊アーマーズらの攻撃を受け、怪人タートルタイガーの痛酷の叫びを上げる。
「なんてこと! 今回の怪人は、紛れもなく今までで最強だったはず……。こんなはずではない、負けるはずがない。なぜなのよ!」
最初にアーマーズと対峙した時の形成が、まるっきり嘘だったかのように入れ替わり、悪の組織アトスの女幹部である「冽氷」の魔女シニードリンは狼狽した 虎の獰猛さと亀の頑丈さ、この両者を併せ持って作られた怪人タートルタイガーは、アーマーズらをあと一歩で勝利できるほどまでに追いつめた。
ところが、偶然近くにあったペットショップから持ち出されてきたネコ科の弱点マタタビを嗅がされ、タートルタイガーは酩酊状態に陥りひっくりかえってしまった。
逆転されたのはそこから。タートルタイガーは甲羅で背がとても重く、重心の問題で足では起き上がれず、手では甲羅が邪魔して後ろに手が回せずにもがくだけ。
起き上がることのできなくなったタートルタイガーは、その無防備な状態になっているところを突かれて、あっという間にアーマーズに叩かれた。
「こうなったらこの私が――」
動けなくなったタートルタイガーをサポートすべく、近くで指示をとばしていたシニードリンが、アーマーズの前に立ち、愛用の武器ウェザーウィップを手に取るが……。
「ウェポンセット、ファイナルモード。発射――マキシマムブラスト」
既に時遅く、アーマーズらの武器を合体させた巨銃から放たれる必殺技「マキシマムブラスト」が、シニードリンとタートルタイガー両名に向けて放たれる。
――解説しよう。
マキシマムブラストとは、アーマーズ達の兵装を合体させた巨銃「ブレイジングブラスター」内で生成されたドッジボール大の超高温のプラズマ火球を敵へ向かって放ち……、
「ちょ、ちょいま、待ち、待って。まだ私の攻撃が……ってたんまたんまたんま! ストップ、ストーーップ!」
―― ドッッッゴォォォォォオオオン! ――
着弾と同時に爆発し、その場に膨大な量のプラズマと衝撃波をまき散らすアーマーズの最終にして必勝の大技なのである。
爆破の煙を風がさらった後には、シニードリンとタートルタイガー、二人が真っ黒こげになって目を回している姿があった。
「「「「やったぜ! 正義の大勝利だ!」」」」
アーマーズの四人は声を揃えて今日もまた、高らかに正義の勝利を喜ぶのだった。
――それからしばらく後のこと。
夢はでっかく世界征服――悪の結社「アトス」では、終わった戦いの反省会が行われていた。
その場には、アトスの最高実力者の大総統と、先ほどアーマーズに敗北を喫したシニードリンと他四人の幹部が会していた。
「――で、シニードリン。君はいったいこれで何度目の負けだい?」
大総統は、悪い子を諭すような口調で、目の前の正座させている幹部――シニードリンに話す。
シニードリンはアーマーズに敗北した後、戦闘員らにタートルタイガーと共に回収されていて無事だった。
「過去九度の出撃中。きゅう……度目です」
実に苦々しい面持で戦歴を話すシニードリン。
「だから言っただろう? お前みたいな、幹部の中でも最弱のオマエが出る幕じゃないと。閣下、次はこの『猛火』にお任せを」
シニードリンを見下して発言するのは、アトスが誇る五人の大幹部の一人、「猛火」の将軍ブロア。
「ブロア――勝手に誰がお前に発言を許したっけ?」
「ひぃ……。出過ぎた真似をしました」
血の気が幹部一多いブロアを、声から滲み出たスゴみ一つで黙らせる大総統。
大総統は地位もさることながら、その実力も組織トップ。故に、絶対に逆らって無事ではすまない為、畏怖の対象にされている。
「まあ、奴らに勝てなかったことは良いよ。第一、私たちは未だにアーマーズには勝ててないんだから」
これには、先ほど諭されたブロアだけでは無く、他人事のように見ていた他の幹部たちも委縮する。
「でもさあ……さすがに九回目で戦果無しはマズイよねー」
「おっしゃる通りで……」
これまた苦々しい面持で話すシニードリン。彼女の顔は、反省会が始まってからずっと下がりっぱなしだ。
大総統の言うとおり。これまで他の幹部連中は、アーマーズに負けこそしているものの、彼女と同じ出撃回数までに、何かしらの成果を持って帰ってきている。
「けれども私も鬼じゃない。チャンスは残している。次は十回目でキリもいいし、今度の出撃で戦果を得ること。君は思う存分本気を出して戦うといい。もしも駄目だった時は……分かっているよね?」
口調こそ明るいものの、笑っていない眼で視線を送る大総統。首の前を手刀で横一文字を切ってジェスチャーしてみせる。
「ハイ、ワカリマシタ」
大総統から後が無いことを告げられたシニードリンは、すっかり声は震え、体は凍りついてしまっていた。
本来は1話一挙掲載の予定でしたが、話の一部一部が長文だと次また読むとき栞が挿める関係上、また読み始めるとき、どこからか読みづらいので小分けで掲載することにしました。
その分1話分での掲載ペースは速いと思います。1話1話は一度作ってからの掲載で発表は遅れますが。
chapter1は明日公開予定です。ちょっと待ってね。