01:31:52 仲間割れ
三人称視点
「それにしたって、ゲームねぇ……」
男はぼやくと、手の中にある端末を弄り、そして首に装着されている装置に触れた後、顔を顰めた。
「しょうがないじゃないですか、実際にここに書いてあるんですから」
「でもさぁ、なんていうの? こう、実感が湧かないんだよねぇ」
「それは……」
「もしかしてさ、本気で信じてる? ありえる? まぁ確かにオレらみたいななぁんの共通点もない奴ら同士がこ~んな広い空間に閉じ込められてるっつうのは、そりゃあびっくりしたけども。それでも、『ゲームだからルールや指示に従いなさい』で、『ハイそうですか』っていうのもなんだかねぇ」
「それであなたは、どうしたいということですか?」
「うんまぁ、さ。オレっちとしては証拠を見たいんだよ。そしたら、まぁその気になれる。オレもさすがに命は惜しいし? だから、生き残るためにあなた達に協力するともなれば、そりゃあ協力するよ? だから、証拠。頂戴?」
男の言っていることは無理難題であった。
これがゲームだからといってルール全てに従うわけにはいかない。
だからこそ、このゲームが本物であるという証拠が欲しいという。
それはつまり、実際に目の前でルールを違反をした人間が死ぬ瞬間を見たいということだった。
その男の提案に、もう一人、黙っていた女性が声を荒げる。
「そ、そんなの許されませんわ!」
荒れていても言葉遣いは一般的な女性としてはやや変わっている……いわゆるお嬢様な喋り方。
その言葉遣いだけに非ず、着ている服、身に着けている装飾具。それらは、目利きの利くものが視ればとても一般人が手を出せるだけの物ではないというのがわかる物たち。
しかしこの場においてそんなものはなんでもなく、閉鎖された空間においてはだからどうしたということになるのだが。それ自体、その女性もわかっていた。
その女性の言葉に、男はつまらなそうな顔をしている。
「つってもさぁ、これが本当に真実かどうかなんてわかんないんだよ?」
「それでも。いま私たちがここに閉じ込められているということに変わりないでしょう! それに加えて、その証拠を得るために、人を殺めるなどと、人道に反することですわ!」
「はぁ……そりゃね。オレだってこんなことはしたくないよ」
「でしたら――」
「だが、オレは何よりもまず自分の命が優先なんだ。そのために誰を犠牲にしようが、関係ないね。そうだろ、桔梗さん? あんた否定はしてるけど、同じ考えのはずだ」
「………………」
「そ、それでもあなたは大人なのですか! 桔梗!」
「おいおい、伊菜穂ちゃん。そういうこと言うなよ。人間はさ、誰だってまず自分の命を優先するの。しないやつは、相当な甘ちゃんか、只の自己犠牲野郎さ」
「くっ……! なら私、あなた達とはいられません! 失礼させていただきます」
「だいじょーぶ? 伊菜穂ちゃん」
「ご心配なく、それと、私の事を気安く名前で呼ばないでください、函部楽重」
「つれないねぇ。鈴白伊菜穂ちゃん」
「ふんっ。では、今度こそ失礼させてもらいます。斧寺さんも、運がよければまたお会いしましょう。それでは」
伊菜穂と呼ばれた少女憤慨したままに部屋を出ていき、残されたのは函部楽重という男と、斧寺桔梗という女性だけになった。
ただ、楽重少し残念そうな顔しているのに対し、桔梗は終始うつむいているだけだった。
「あ~あ。出て行っちゃった。どうします、桔梗さん?」
「しばらく待ってから、散策をしましょう。そうしないと、ルールの通りなら残り時間が49時間になった時に、右足が使えなくなってしまう。足を使えなくなるのは、このよくもわからないゲームで生き残るためには必須なんだから、どうにかして解除しないと」
「それもそうですね。それに、伊菜穂ちゃん……おっと、鈴白さんが寂しくなって戻ってくるかもしれませんしね? くくっ」
「はぁ……」
まったくこの空気の読め無さというか、お気楽すぎるというか、緊張感のない楽重に、桔梗は溜息を吐く事しかできなかった。
開示ルール
・1:『貴方の両手足、首には特殊な装置が仕掛けられている。これに負荷を与え、尚忠告を無視した場合、首に装着されている装置が爆発する』
・2:『制限時間は97時間。残り時間は端末の最初の画面に表示されている』
・3:『ルールは全部で12存在する。上記に加えて、端末ごとにランダムで3つ加えられている』
・4:『この装置にはそれぞれ制限時間が設けられており、右足:49:00:00、左手:37:00:00、右手:25:00:00、左足:13:00:00、首:01:00:00。までに装置を解除できなければ、両手足には神経性の毒による四肢の自由の拘束。首の装置は爆発する』
・5:『開始から2時間の戦闘を禁じる。もし正当防衛以外の戦闘を行った場合、首の装置を爆発させる』
・7:『このゲームで97時間生存した者は勝者となり、50億円を山分けする』
・8:『ジョーカーが存在する。これは1~13の数字全てに偽装が可能。偽装しているときはその番号のルールを確認することが出来る。ジョーカーは一度番号を変えると六時間の間番号を変更できない。なお、この端末によっての装置の解除は最初の持ち主の身に適応される』
・9:『端末にはそれぞれ、A、2、3、4、5、6、7、8、9、10、J、Q、K、の数字が画面に記載されている』
・11:『装置の解除には、解除条件の入力されているチップをインストールした後、条件を満たすことで解除できる』
・12:『この空間内において、己の良心が許す限りは何を行おうと構わない』