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47:51:23 失態

三人称視点。



 「いや、まいったまいった。マジ、ほんと人間見かけによらないわ」

 「見かけに騙される方が悪いのよ。でも、その分役得だったでしょ?」


 床はコンクリートではなく、真っ赤な絨毯。

 さらにその部屋は他の部屋と比べて圧倒的に清潔感があり、さらには調理場やシャワー室まである。

 調度品にはベッドを始めとして、革製のソファ、イス、さらには大型のモニタまで存在している。

 ここまで来るわかることだが、この部屋は他の部屋と意味が違っている。


 ――『発砲禁止エリア』


 文字通り、銃器の扱いを禁止とするエリアの事である。

 これは部屋に入ろうとした瞬間に端末によって知らされるので、知らない者はゲーム終了まで知らない部屋となる可能性のある部屋だ。

 そしてその部屋に、楽重と萌香はいた。

 楽重は疲労困憊と云った様子であり、萌香は言葉こそ軽口なものだが、全身に掻いた汗は相当な疲れとなっていることがわかる。

 しかも、楽重は下半身に何も身に着けておらず、萌香は全身に何も身に着けておらず、本来身に着けている服は絨毯に脱ぎ捨てられていた。


 「つーか、朝までヤる必要あった?」

 「あら、楽しくなかった?」

 「ぜーんぜん。新たな境地に達してるかもしれない」


 男子の下半身が丸出しで、女子が生まれたままの姿であれば、それは情事の行われた話だ。

 そこに無理やりだとか脅迫だとかの概念は存在していない。

 というよりも、お互いが売り言葉に買い言葉の末、このような事態になったのだ。

 その結果、夜から朝までコースにはっちゃけ、最後は楽重がギブアップしたことで終了した。


 「んー、汗かいてベトベト……。シャワー、先に頂くわよ」

 「どうぞー」

 「あら、一緒に入るとか言わない?」

 「さすがにもう1回戦は無理だね」

 「そ。お先」


 ベッドから萌香が降りると、服を拾うことなく、そのままの姿でシャワー室へと入っていき、部屋には楽重一人が残された。

 楽重は、尻餅をつくように座っていた状態から、四肢を投げ出して天井を見上げる。


 「はー、疲れたー」


 溜息一つ。

 さすがに体力の限界であり、体に力は入らない。


 「んー、いま何時どれぐらいだ?」


 しかし時間は気になる。

 なので、疲れた身体に鞭打ちベッドから這い出ると、自分の荷物の置かれている場所にあるところへと向かう。

 そして、目的の物である端末を手に取った。

 電源を入れ、画面が表示される。時間は右上に表示されるので、そこを確認すればオッケーだ。


 ――『47:57:09』


 「げ、やばっ!?」


 それは、あと数分もすれば48時。つまり、ゲーム2日目が終了する。

 そのことに楽重は焦った。なぜなら楽重の右足にはまだ装置が装着されている。

 そして、右足の装置は48時間目を迎えると同時に解除できていなければ解除失敗となり、ペナルティとなる。彼はまだ解除できていなかった。


 「えーえーと、あー、そうだ条件!」


 端末を焦りながらも操作していき、右足の解除条件を確認する。


 ――『1分間コサック』


 つまりはコサックダンスしろとのことだった。


 「なにそれ!? いや、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!」


 確認してツッコミを入れると同時に、彼は記憶にあるコサック的な何かの踊りを始める。

 しかし何とも言えない構図。

 彼は未だにパンツもズボンも穿いておらず、下半身はブラブラだ。

 その状態で、屈伸状態からの脚の交互の出し入れ。無論腕も組む。


 「ふっ、はっ、ほっ、なっ、くっ、たっ、とっ!!!」


 既に体は限界ではあるが、ここで右足を解除できなければ右足がどうなることか知ったことではない。解除できるのであれば、してみせる。

 無我夢中に、全力で、限界を突破して。

 何も考えず、楽重は踊る。


 ――『おめでとうございます! 『R Leg』の解除条件を達成しました!』


 「うっし、早く早く!」


 そして端末が派手な音をまき散らすのには脇目も振らず、端末を手にすると素早く装置へとつなげた。


 ――ガチャ


 機械的な音が一つだけ発生し、そうすると、装置は割れて楽重の右足から外れたのだった。

 この時の時間、『47:59:38』。間一髪であった。


 「何してんの?」

 「えーと……いつから?」

 「1分前」


 かけられた声は、萌香の声。

 しとどに髪が濡れ、幼き体であるはずなのにそこには見た目の歳ではありえない色気が存在している。

 しかし、彼女のその瞳は冷たいの一言に尽きた。

 そんなことはどうでもいい。

 楽重にはそんなことがどうでもいい。


 「見てた?」

 「ばっちり」

 「………………」


 彼の中で何かが折れる音がした。

 文字に表わすと、『orz』。完全にやらかしてしまった。

 下半身放り出して、奇行ダンス。他人が見ればどころか、親類が見ても警察クラス。

 一応若者としての常識的な考えを持っているからこそ、キツイ。


 「いやいや、落ち込まないでよ。どちらかっていうとそれを見せられたわたしのほうが辛いわよ」

 「おわっ……た」

 「散々人に下半身見せつけぶつけてやらせてたくせに……」


 真っ白になっている楽重に対して、萌香は呆れた口調に表情。当の本人でないのだから、まぁ当然かもしれない。


 「ほらほら、いつまでも落ち込んでないでシャワー浴びてきたら?」

 「……はい」

 「大丈夫だから。わたししか見てないんだから。ね、ほら、シャワーまで手つないであげるわよ」


 まだまともに動けない楽重の手を引いて、萌香はシャワー室に彼を入れる。

 それから数秒して、シャワーの音が発生した。


 「のわぁあああああああああああああああああああ!!!」

 「やれやれね……」


 そんなシャワーの音を掻き消す咆哮が、響き渡る。

 結局楽重が立ち直れたのは、一時間はあとになったのだった。



・コサックダンス――文字通りには「コッサクがするダンス」なのだが、大体では「腰を低くして腕を組み、足を高く上げて踊る独特のダンス」という意味となる。実のところこのコサックのするダンスには他にも色々なスタイルが存在する。ウクライナ語で「ホパーク」とも。男性が主体となっている踊り。実はモンゴル軍の武術を変化した結果生まれた舞踊らしい。

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