32:51:19 嘘
主人公視点
「あとどんぐらいだ~?」
「にきろ」
「そんなに歩くん?」
「(こくこく)」
手を繋ぎ、隣にいる少女と歩き続ける。
かれこれどれほど歩いたかとすれば、八キロぐらいだろう。ちなみに、このキロは『グラム』ではなく、『キロメートル』である。
それもこれも、来るべき装置の制限時間までに解除をしなければならないわけで……
「あー、スズ」
「?」
「ちょっと俺のポケットから端末取り出してもらえるか?」
「うん」
現状、手を放すわけにはいかず、さらには癖で端末を左ポケットに入れてしまったせいで、右手だと上手くとることが出来ない。さらに、五秒以上立ち止まると今までの苦労が泡になるので、結局スズに取ってもらうことにした。
「んー」
「ぬっ、ふっ、くっ……!」
あれですね。
人とに自分のポケットまさぐられると、覚悟があってもキツイデスネ。
「はい」
「ん……? おお、さんきゅ」
「ん」
どうにかスズに端末を取り出してもらい、そのお礼として頭を撫でてから受け取る。
片手での操作も別段出来は無くは無いのだが、普段使っているのが左手であることで、少し違和感を覚えながらも目的の画面を表示させる。
――『十キロ歩き続ける。なお、三秒以上立ち止まればやり直しとなる』
そこには、右足を解除するための条件。
これを解除するために、何時間もかけて歩いていたのだ。ひたすらに。
さらに画面を変えて、もう一つの場所に目を通す。
――『対象と一秒以上接触した状態で六時間過ごす。場所は問わない』
というのは、左手の条件だ。
そして最後の現状手に入れている条件。
――『偶数番号端末を所持しているプレイヤー二名、および奇数番号端末を所持しているプレイヤーの死亡。手段は問わない。なお、これをインストールする前に該当するプレイヤーが死んでいた場合、これは数えられない』
これに関しては、スズの端末にインストールされている『Player Counter』によって死亡者が三人おり、俺がこの条件を手に入れたのとスズに機能が使いされたのは同じ時間帯であるため、これまでのは計算されない。
そうなると残りプレイヤー数が十一人。俺を除いて十人。なので、奇数は最悪四人。偶数は三人いるということだ。
確か、三条が『K』で、芹宮が『A』。峰垣は『J』で、忠邦が『4』だったか。
「そんで、スズが『10』……」
「?」
見事に、俺の知っている奴らがぴったし揃ってるな。
だが、それでも残りは俺の知らないプレイヤーたちは奇数だけでも『3』、『5』、『7』、『9』。偶数は『2』、『6』、『8』、『Q』が残ってる。ま、知ってるやつを殺すよりは、知らん奴を殺す方が後腐れなくて楽か。
「ケイちゃん」
「どうした、スズ」
「ケイちゃん、スズ、殺す?」
「………………」
握りしめられた手は、力を込めていないはずなのに、とてもがっちりと固定された。
そして、上目づかいで見上げるスズの表情は、相変わらず変化しているように見えないのだが、その言葉は俺の何かに大きく動揺を与えた。
「……ばーか、なに言ってんだ」
「んぎゅ」
端末を持った手で、柔らかくスズの頭を押す。
スズは目を反射的に閉じて、小突かれたことで頭が後ろにのけ反る。
「殺す理由はないさ。俺に、スズを殺す理由は無い」
「うん」
優しい言葉を。
安心できる笑みを。
それでいいのだ。
スズは、前を向く。
すまないな、嘘を吐いて。
俺はうそつきだからな。
俺は人殺しだからな。
自分の命の為なら、誰であろうと殺す。
自分の自由の為なら、どんなことでもする。
ただいまは、俺の選択肢の中に、スズやあいつ等を殺すだけの重要性が無いだけなんだよ。
だから、もしこのままゲームが進行して、最悪の場合、俺は……この握った小さな手も、振り払うことを厭わない。
裏切り者と、罵られようと、恨まれようと、構わない。
俺という『人間』は、そうすることで、生きてきたのだから。
だからさ、最悪の選択肢が現れないように、してくれよ。
アイツならきっとやれるだろう。
『俺たち』を恨んでいるアイツなら。
芹宮碧という、己を殺すことも躊躇わないアイツなら。
「あと、いちきろ」
「そうか。よっし、それじゃあラストスパートと行こうぜ、スズ!」
「うん」
「ダッシュだ!」
もっとお互いが実感できるように、お互いに強く相手の手を握り、走る。
俺は前に、スズは後ろに。
小さな彼女は俺に引っ張られた状態で、今にも振り切れそうな手をしっかり握る。
この手もあと一二時間も経てば放すかもしれない。
一二時間で放さなくとも、いずれは放すことになる。
それどころか、どちらかが死ぬことで、放さざるおえなくなるかもしれない。
お互いがどちらかを殺して生きるために、放すのかもしれない。
それはそれだ。
今は手を繋ぎ、お互いに生きている。
俺とスズに重要なのは、それだけで、そのために行動する。
無垢な少女を汚すわけにはいかないという使命感から来るものだろうと、弱きものを助けようなどというくそッ垂れた正義感であろうとも、今の俺たちにはきっと、関係ないのだから。




