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29:14:48 覚悟

三人称視点



 芹宮碧は短気な性格である。


 「むっか、つ、くー!」


 ――ガン! ガン!! ガン!!!


 齢19とまだ若いこともからもそうだが、彼女自身は1年前の出来事以外では普通の女子高生であった。

 その中にいた友人たちからも、彼女はお淑やか系の女子ではなく、姉御肌系の強気で男勝りだと評されていた。

 彼女自身も自分ではそうだとわかっている。

 高校生の時には男にモテるのではなく、後輩の女子からラブレターを卒業までに二桁数貰ったのだから、それは周りの間では伝説にもなった。しかも中身に書かれているほとんどには『カッコいい』という類似する言葉がどこかに必ず混じっていたのだからなおさらだ。

 無論彼女はノーマルであるため、全ての返答は『NO!』で返したのだが、その返した方がまた男らしかったためか、振れば振るほどにラブレターも増え、最終的には秘密裏にファンクラブまでできていたのだから驚きの一言である。(ちなみに碧はこのことを卒業まで知らなかった)


 「明らかに、意図的な配置でこれは出来ているわ。しかも、階段自体にはさっさと進ませようとしてるし」


 だが、短気だからと言って常に状況に振り回されるということもない。

 キレるのも早いが、その分落ち着くのもまた早い。

 体を動かすことは得意だが、別に頭が悪いわけでもない。

 それが碧の評価である。

 今現在まで彼女は通路を遮るシャッターを人目も気にせずに思いっきりヤクザキックをかましており、スカートが翻ろうと関係なく蹴り飛ばしていた。

 ただ、それをしたところでどうにもならないことは結局わかっていたために、すぐに終わる。

 よって、次は別の手段へと移る。


 「ふんっ!」


 ――カラン、カラン


 ナックに仕舞われていた、一つの手榴弾。

 ピンを歯で豪快に引っこ抜き、シャッターの手前に落ちる様にした。

 そして、あとは自分が巻き込まれないように離れて隠れる。


 ――ドォン!


 強烈な爆裂音が響き渡り、砕けたコンクリの破片が彼女の足元を転がっていく。

 落ち着いたと判断したところで、その場に目をやった。


 「はぁ。やっぱ駄目ね」


 結果は失敗。

 シャッターとその周りに傷と焦げ跡は出来ているが、肝心のシャッターは傷を負っただけでぶち破ってはいない。目論見は失敗である。

 事実それもそのはずで、使われているシャッターは対テロ用に考案された、衝撃性及び頑丈性に特化しており、そう簡単に破れるような代物ではないからだ。つまり、シャッターを壊すよりも、いっその事周りのコンクリートをぶっ壊した方がいいんじゃないかと思えてしまうわけである。


 「手持ちは銃と食料と端末諸々……食うに困らないとしても、そろそろ装置の解除にも乗り出さないと」


 多分に焦っている。しかし、焦ったところでこれはどうしようもない。

 何せこのゲームを支配している者がこれを行っているのであれば、どうしようもない。

 だからこそ、逆らいたくもある。

 逆境であるからこそ逆らい、逆境であるからこそ実力を発揮する。

 できない状況であっても足掻き、反抗し、猫に噛みついてやると、窮鼠みどりは考え行動する。


 「いいわ。だったら、やってやるわよ」


 自分に言い聞かせ、これを聴いている奴らに聞かせる。

 この端末にインストールされた、装置の首輪の条件を憎らしく睨み付けて、己の感情を吐露する。


 「絶対に、殺してやらないわ……」


 ――ギシッ


 己の覚悟を、吐露する。

 手に収められた端末を握りしめ、軋みを上げようとも気にはしない。

 端末の画面に表示されている文章を読めば読むほど、覚悟は強くなる。

 画面には、ただ一文。


 ――『もっとも行動を共にしたプレイヤーを、最終日に殺害。手段は問わない』


 裏切れと。

 短い時間であっても、もっとも共にいた『親友』を、またも殺せと。

 画面の文字は碧に命令する。

 だがそれは、碧にとって全てを覚悟するに至るきっかけとなれた一文。

 未だに許せていない自分を殺すための、決意表明。


 「二度と、『さき』と同じような真似なんて起こさない」


 それは、過去かつての親友に向けて。


 「絶対に、なずなを救って帰して見せる」


 それは、現在いまの親友に向けて。


 「アンタたちなんかに、いいようになんてされない」


 それは、見えぬ何かに向けて。


 「あたしは、やり遂げて見せる!」


 これは弔い合戦。

 あの時犠牲となった『親友』のために。

 あの時『親友』を選べなかった自分とは決別するため。

 彼女は、再度この地獄ゲームに帰ってきたのだから。


 「こちとら、命捨てる覚悟は出来てんのよっ!」


 碧は、この状況を観て今尚ほくそ笑んでいる奴らに向けて、叫ぶのだった。

 己の中でそれが自己満足であることはわかっていても。

 それがただの犬死だとわかっていても。

 『親友』である『なずな』が、『さき』の代替だと自覚しても。

 己の犯した罪を、ただ自己犠牲によって洗い流そうとしていることも。

 そしてこれも、奴らがまた自分をこの場所に連れて来た理由だとわかっていたから。

 だからこそ碧という少女は、思う存分に暴れてやろうと決意した。

 奴らがもっとも嫌う退屈を、演出してやろうとした。

 誰も争わなくなるという結果でもって。

 それだけが、己の出来る精一杯の反抗だと、信じて。


手榴弾――しゅりゅうだん。または、てなげだん、てりゅうだん。文字通り手で投げる小型の爆弾であり、ここで用いられたのは攻撃手榴弾コンカッションに区別される。戦争など、歩兵にとっては必需品ともいえるだけの武器。ただし、信管を抜くなどして投げ、爆発するまでは数秒を必要とするため、時折投げ返されることもあるので扱いには注意が必要でもある。

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