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26:11:03 忙しない食事

三人称視点

 「あー、腹減ったなー。飯ねぇかなー」


 背を曲げ、ダルそうな顔をしながら、一人の青年がいる。

 函部楽重。大学生である。


 「あさ飯食い損ねたってーのはキツイわ」


 正味一人でいるということと、空腹から、独り言をしていなければ気がめいるのだが、やはり独り言をしていても気は滅入っていき、空腹もまた無視できないモノへとなっていく。

 悪循環ではあるのだが、それでも彼はその行為を終えることは出来なかった。


 「んー、なーんでオレっちのところだけなーんも起こんねぇんだろうなぁ」


 それは青年の確かな疑問であった。

 いくらまだ二十四時間しか経っていないとはいえ、あまりにも刺激が薄すぎた。

 何せ、最初の方で女性陣と別れてしまったために、潤いが無い。

 最初に見つけた食糧はその場で食ってしまったし、一応持ち歩いていた水も既に飲みほした。故に、昨夜から食事にありつけていないのである。そんな理由からか瞳の力も薄い。


 「暇だぜー、ちょー暇ー」


 とりあえずゲームにはクリアしなければ真偽の確かではなくとも生死にかかわりそうである。

 なので片っ端から扉を開けては散策しているのだが、出てくるのは空っぽの箱がほとんど。やっと手に入れた武器らしいものも、チンピラが持ってるような鉄パイプだ。彼としては激しく落胆した。

 それでも、一応持っていた方がいいと考えて持ち歩いてはいるのだが、何も起こらないというのに落ち歩くめんどくささを考えれば、捨ててしまおうかと思ってしまうぐらいである。


 「だれかー、いませんかねぇー?」


 少し声を大きめにして、叫ぶ。


 ――……ぇー


 帰ってきたのは返事でなく反響した自分の声のみだった。


 「空しっ! すっげ―空し!」


 これはひどい。

 ゲームなどとのたまっておいて、これほどまでに誰にも会わず、スリルも感じられず、潤いもない。

 楽重がやってられない気分になるのは、そう遠い未来ではなかった。


 「……ん?」


 それは歩いて云十分か。

 もはや空腹も感じられなくなってきた時に、それは聞こえた。

 本当に、耳を澄ませていなければ見逃してしまったであろう程に小さな音。

 それこそ、楽重が一人でいたからこそ聞こえた音だ。


 ――カタカタ、ガタンッ


 ――『うわっー!』


 「(声……それも、女の子の声じゃない!?)」


 人の声だ。それも、性別女性に分類される方の。

 しかも、今のところこの声は聞いたことの無い声だ。つまり、彼の知っている二人とは別の女性である。

 やっと潤いが出来上がる。

 内心ほくそえみながら、楽重はその場所へと急いだ。


 「だーれだっ!」

 「ひうっ!?」


 物音のした部屋へとたどり着き、勢いよく扉を開く。

 それと同時に、背中を向けている女の子が、女の子座りをしながら全身を飛び上がらせるという珍芸を見せてくれた。

 どうやら、女の子は女の子でも、それは少女だとか、幼女だとかに分類される女の子であった。

 楽重はいきなり逃げられるのは嫌であったので、とりあえず怖がらせないように、いつも通りに笑顔を浮かべながら、明るい調子で話すことに決める。


 「あー、ごめんごめん。怖がらないで! だいじょーぶだから」

 「……ほんと?」

 「ほんとほんと。どこから見ても、優しそうな青年だろ?」

 「………………」


 両手を上げて、何も持っていないことを示し、敵意をまず見せない。それが大事なことだ。

 つい先ほど、鉄パイプを捨てておいてよかったと、楽重は自分の判断に満足する。

 何事も、信頼から得ていかないとままならない。それは、友達付き合いや学業で学んだことだ。


 「おじょーちゃんもさ、こんなところにいきなり連れて来られて、怖がっただろう? だけど安心、オレが付いてればーダイジョブさ」

 「………………」

 「ん? どうしたんだい? ああ、そういえば名乗ってなかった。オレは函部楽重。楽くーんとか呼んでくれてもいいよん」

 「……じゃないもん」


 少女がうつむいて、戦慄く。

 なんというか、今すぐにでも泣きそうな感じがして、楽重は何かミスったのではないかと警戒する。


 「どうした?」


 とりあえず、聞いてみるしかない。


 「私、子供じゃないもん! これでも24歳の成人なんだから!」


 だが涙目の少女が発した言葉は、あまりにも合っていない。

 故に――


 「へ? …………っぷっはっはっはっは!」


 一しきり呆けた後に、楽重は腹を抱えて笑った。


 「ほ、ホントだもん! 私24歳だもん!」

 「くっくっくっくっ! いやいや、うん、そうだね、大人だねー。くはっ」

 「信じてなーい!」


 無論楽重は信じているわけがない。

 両手を上げ、顔を赤く染めながら喚き、姿は少女なのである。だれがそんなことを言われて信じるであろうか。


 「うん、それじゃーお名前はー? 言えるかいー?」

 「ば、ばかにしてっー! 葛切萌香。くずは葛葉に、切断の切る。もえは萌ゆるのもに、かは香るのか!」

 「よくできましたー」

 「うにゃー!」


 もはや幼児あつかい。

 自称大人としては、さすがに子ども扱いが嫌なのだろう。

 それに、女性という生き物は男性よりも精神年齢が上なのだ。そういった見栄っ張りかもしれないと憶測をつけた楽重は、とりあえず合わせようと考えた。ただ、顔はにやけている。


 「わかったわかった。萌香ちゃん。信じるから」

 「むかっ、なんか上から目線。あと、信じるんだったらちゃんつけるな」

 「おっけー、萌香。で、君は何をしてたんだい?」

 「なにって、お腹空いてたからご飯食べていただけだよ。それが?」


 萌香のその言葉に、楽重の目が光った。

 加えて、涎とか腹の音とかが発生した。


 「マジでっ!? 飯? メシあんの? どこどこ、ドコドコドコドコ?」

 「うわっ、涎拭いてよ! がっつかなくてもたくさんあるよ!」

 「ひゃっはー! 久々の飯だ―!」

 「うわっ!?」


 楽重の視界に、すでに萌香は映っていない。あるのは、自分の胃を満たしてくれる食糧だけだ。

 乾パンの缶を開けると、手に取って貪るように食う。


 「あぐっ、もぐっ、はぐっ!!」

 「なんて素早い……」


 乾パンを一貫平らげ、次はお湯も入れていない乾麺に齧りつく。

 行儀の良い喰い方ではないので、そこらじゅうに食べかすが飛び散る。


 「即席ラーメン旨すぎるだろっ!」

 「いや、それただのチキンなラーメンだから」

 「いいやっ、関係ないね! 食べむぐっ!?」


 そしてお決まりのように、保存食などの水分の無い食い物を一気に口に放り込めば、唾液では追いつかなくなり、口の中の水分は奪われ、喉に詰まるということも当たり前であった。


 「むぐっ! むぐぉぅえ!(水! 水をくれ!)」

 「がっついて食うからでしょ。ほら」

 「んぐ、んぐ、んぐ。……ぷはっー生き返ったー! サンキューな」

 「はいはい。食べんのはいいから、落ち着いて食え」

 「りょーかい」


 萌香に水を渡されて一気飲みすることで事なきを終えた。

 落ち着きを取り戻してからは楽重も普通の速度に戻り、萌香もまた食事を再開するのだった。

 二人が落ち着いたのは、その後30分ほど後の事だった。



・乾パン――保存、携帯の目的で固く焼き締めた、ビスケットの一種。氷砂糖なども入っている。

・チキンなラーメン――某傭兵さんもお湯なし直接で上手いと言われたらしい保存食。パッケージにはひよこがいるが、別にひよこは原料には入っていない……はず。※なおこれらは真偽不確定な部分が多分に存在するので真実は皆さんの目でお確かめください。

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