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24:29:45 ジョーカー

三人称視点

 「見てください! チップがこんなにありますよっ」

 「ええ、ホント。それもほとんどが解除用のチップみたいね」


 小さな小部屋に入ると、そこには彼女らにとってお約束なものがあった。

 人一人が入れるぐらいの木箱。

 重さは中に入っている物に依存するが、それが今まで罠だったということはない。


 「それじゃあ、降ろしていこうか」

 「あたしも手伝います」


 腕を捲り、忠邦が積まれている木箱に手を掛けると、その逆を碧が持ち、降ろして並べていく。


 「それじゃ、また開けますね」

 「今度はなんでしょうねー?」


 降ろしていく荷物を確認して、撫子が最初に降ろした箱を開けた。

 なずなの方はゲームなどで宝箱を開ける感覚に近いのか、その声は明るい。

 撫子となずながほぼ同時に中を確認する。


 「あ……」

 「これは……」


 しかし、入っていたものはとても喜べるようなものではない。

 二人の視界に入ったのは、この建物内でよく目にするようになった凶器。

 チップや食料が入っていたあれば嬉しいものとは逆転、凶器に関してはこのゲームから「これで殺しあいをしてください」とでも言われているような気がして、嫌な気分にもなる。


 「ふぅ。今回は結構重いものが多かったけれど、どんなのだったんだい?」

 「正直、運んでいる最中から嫌な音しかしてなかったんだけど」


 木箱を並べ終えた忠邦と碧が箱を開けて固まっている二人の下へと向かう。そして中身を見て、同じく難しい反応をした。


 「今は三階よね。それで、日本刀に拳銃、ナイフに手榴弾……」

 「なんというか、テレビなんかで観るヤクザとか極道のの出てくるやつで目にするようなものばかりだね」


 そう、入っていた物は凶器。普通、現実であれば一生間近で見もしなければ触りもしない。ましてや、使いもしない物たちだ。


 「オレが言える義理でもないが、今ここでそれを持たなければ、殺されるのはお前たちかもしれない」


 入口の扉、まともに立つことは叶わない修治が、壁にもたれながら喋る。

 傭兵である彼の身からすれば、ここは戦場だ。そこかしこに凶器が存在し、命を掛けるやりとりも行われる。そして何よりも、血臭の濃さはその戦場がどれだけ酷いのかということもわかりやすく教えていた。


 「そうね……誰かを殺すなんてことはしないけれど、かといってあたしたちが殺さないとはいえ、アッチがこっちを殺さないなんて決まっていないことだわ」

 「そういった意味では、この武器を持つことで、そういった者たちへの抑止力になる、ということか……」


 修治の言葉に応えたのは碧だ。彼女はこのゲームを一度経験している。

 その経験則から、例え相手を殺さないということがあっても、まず相手を止めるための抑止力が無ければ、言葉で通じない相手には殺されるだけだ。

 そしてそのことを、この場にいる全員は知っている。

 直接的に、今碧となずなと撫子と忠邦の前にいる修治が、それをよくわからせたのだから。


 「そ、そうだ! それよりもチップを調べてみましょうよ!」


 暗くなろうとしていた空気を、なずなが声を張って、明るく話題転換した。


 「そうね。表記欄には結構種類があるわ。それに、これならここにいる全員分の首輪の条件も手に入りそうよ」


 一つ一つチップを確認していき、碧が六種類に分けていく。

 そのチップの表面には、右から『Pillory』、『R Hand』、『L Hand』、『R Leg』、『L Leg』、と表記。その少し離れた場所に、『Ring time』、『Mail&Call』、『BPS』と表記されたチップが置かれていた。

 碧の分け方は、大まかに二つ。解除条件の入っているチップと、機能を増築するチップ。

 数は条件解除の為のチップが多く存在し、『Pillory』が人数分の5枚。『R Hand』が4枚。『L Hand』が2枚。『R Leg』が2枚。『L Leg』が3枚で解除条件のみのチップ総数は16枚。大収穫と言っても過言ではない。


 「それにしても、『BPS』ってなんでしょうね?」

 「なずな、無暗矢鱈に触らないのよ?」

 「あの……すいません、碧さん」


 ――『インストールを開始……インストール中……インストールが完了しました』


 しかし、なずなの差し出した端末には、既にそれが手遅れであることがよくわかった。

 それを確認して、碧は大きく溜息を吐くしかなかったのだった。


 「あなた、子供じゃないんだから拾ったものをホイホイと端末に突っ込もうとするの止めなさい」

 「反省してます……」

 「3度目で反省していると言われても困るわ……」


 実際、なずなが独断で端末にチップをインストールしたのは初めてではない。3回目である。

 これをするたびに碧は注意したものだが、なずなはどうも治せなかったらしい。


 「まぁいいわ。その機能については後で調べるとして、皆に解除条件用のチップを配るから、それをインストールしていって」


 碧はそういうと、まだ解除条件がインストールされていない者たちに配っていく。

 碧自身は5種。なずなは『Pillory』と『R Hand』の2種。撫子は『L Hand』と『R Leg』以外の3種。忠邦も撫子と同様の3種。修治は『R Hand』と『L Leg』を除く3種だった。

 これで、碧は全部の装置の解除条件が判明し、なずなは左手を除く解除条件が判明。撫子は今回手に入れた条件以外で既に2つは入手していたため、全て揃った。忠邦は貰っていない2つの条件が無い。修治は神経毒に侵されていない場所が判明した。


 「あれ、そういえば修治さんの右手と左脚は、条件を解除されたら毒も消えないんですか?」


 そこで、なずなが疑問を発する。


 「無理だ。端末を確認したところ、2つは条件解除失敗となり、解除ができなくなっている」


 その答えは、当事者である修治が返した。どうやら、すでに確かめていたらしい。


 「壊すというのは?」

 「さらに何かしようとすると今度は首輪の方が爆発する」


 そして、なずなの提案をわかっていたように、対策もとられていた。


 「そういえば、端末には番号というか、トランプの柄があるけど、これはゲームに関わってくるのかい?」

 「番号に関しては、クリア条件を達成するために用いられています。例えば、『Aの端末を手に入れる。手段は問わない』などですね」

 「つまり、状況によっては端末を狙って襲ってくる輩もいるということか」

 「そうなります」

 「あ、それじゃあ皆さんの番号を確認しておきましょうよ! もしかしたら、条件を解除するための者があるかもしれませんよ!」

 「そうですね」


 なずなの言葉に全員が頷き、端末を取り出して見えるように置いた。


 「修治さんは、3つ持ってるんですね」

 「そうだな」


 全員が一つずつ置く中で、修治は3つ取り出した。

 そのうちの2つの端末は血が付着しており、それが彼が人を殺しているという証拠の裏付けでもあった。

 修治の言葉に、空気は否応なく沈む。

 いくら今はそういうことをしないとはいえ、怖いものはある。殺すことに躊躇いの無い人間は、あまりにも危険であるからだった。


 「大丈夫よ、いざとなればあたしが守るわ」

 「碧さ~ん」


 その空気を払うように、碧がきっぱりと言い切る。

 なずなは、その言葉を聞いて安堵していた。若干だが目が潤んでいる。


 「それじゃ、確認を続けましょ」


 計7つの端末。

 すべてに番号と英文字が表記されており、一見してトランプで扱われている数字であるということがわかる。

 若い順に、碧が『A』。修治が『2』。忠邦が『4』。さらに修治の手に入れている『6』と『8』。なずなの『J』。最後に撫子の『K』だった。


 「あれ?」


 その表記を一通り確認して、撫子は何かが引っかかった。

 何かが見たことあるのだ。


 「どうしたんですか、撫子さん?」

 「いえ、その……修治さんはその8番の端末をどこで手に入れたんですか?」


 それは、撫子たちに見覚えがある番号だった。

 エクストラステージというふざけたものが始まった時に、お互いの番号を確かめたからこそ印象に残っている。

 そう、修治によって知らされた、未だに生きている人の番号なのだから。


 「これは、オレが少年を殺した際に、持っていた物だ」

 「ちょっと待って!」

 「碧さん、それってもしかして……?」

 「ええ、少年っていってあたしが知っているのはただ一人。ざくらくんよ。その少年、黒いパーカー着てませんでしたか?」

 「着ていたな」

 「やっぱり……」

 「知り合いだったか?」

 「年上の言うこと聞けない反抗期真っ盛りのガキよ。それ、いつ?」

 「お前たちを襲う直前だ」

 「それって、確か撫子さんの機能だとまだプレイヤーの数が13の時でしたよね?」

 「はい、そうですね」


 なずなが記憶を掘り返して、撫子に投げかける。

 撫子はその言葉に機能欄を確認すると、『Counter Player』には12と表示されている。

 つまり、修治の話したことは正しいと言えるだろう。


 「確か、最初の死亡者って……」

 「僕たちを襲った、彼だろうね」


 ここにいる全員が名前を知らない人物。

 ゲームのルールに踊らされ、訳も分からずに死ぬこととなった最初の犠牲者。

 その次の犠牲者が櫻である以上、まず櫻が誰かから端末を盗んでいなければ、それは犠牲者から手に入れたものとみて間違いないだろう。


 「あの、それって……」


 全員が思い当たり、考えられること。


 「つまり、カレ・・が、嘘を吐いていた、ということよ」

 「そんな……!?」

 「それは確かなのかい!?」


 悲痛の声を上げる撫子と、疑念の声を発した忠邦。

 信じていただけあり、その一言は、信じられないものだった。

 その二人を一瞥して頷き、碧は言葉を続ける。


 「ええ。彼は――萩原啓一は、『ジョーカー』よ」


 その口から発せられたのは、全てを欺く仮面を被った、道化師ジョーカーの単語だった。



・Ring time――身に着けている装置の残り時間を表示する。消費バッテリー量:小

・Mail&Call――半径100m内にある携帯端末にメールを送れる。メールを対象に一度送れば、どこでもその対象にメールが送れる。電話は半径200m内。消費バッテリー量:小~大。

・BPS――正式名称『Building Positioning System』。建物内のインストールしている端末の現在位置をリアルタイムで表示する。消費バッテリー量:大。



開示ルール

・10:『メモリーチップというものが存在する。チップは端末にインストールすることで使用できる。種類は様々存在し、使用者にとって有利となるが、端末のバッテリーを消費する』

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