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00:07:15 出会い

三人称視点

 「きゃぁぁぁあああああああ!!!」


 それが彼女自身が発した声だと自覚するにはさほど時間を要しなかった。

 足は地についておらず、落ちたときの余韻か足は振り子のように揺れている。

 身体は右手の五指だけで現状を保っており、この指が離れた瞬間には底も視えない穴に落ちていき、只では済まなくなることは明白であった。


 「わたくし……落とし穴に落ちて」


 少女は自分に起きたことを整理する。

 目覚めたときには誰もおらず、他に人はいないかと彼女は思い、自分を此処に連れてきたかもしれない者に遭遇するかもしれないことはわかっていたが、それでもじっとしているよりは行動した方が現状が改善すると見込んだ上での行動であった。

 そして簡素で冷たい廊下を歩いている最中、それは起こった。

 床を踏んだ瞬間に違和感を覚え、それが罠だと気づいたときには手遅れであった。

 床の外れるような、すぐ近くにいる者にしか聞こえないほどの大きさで彼女のいた場所は無くなっており、一瞬の浮遊感を得た瞬間、身体はすぐに重力につかまり落下を開始した。

 だが彼女の身体は底の視えない穴に吸い込まれることは無く、穴の淵にその身体はあった。

 彼女自身無自覚によるものだったが、咄嗟に右の腕を伸ばして淵を掴んでいたのだ。


 「んっ!」


 そして状況が整理できてくると、突如右の肩が痛んだ。

 恐らくは、淵を掴むときに痛めたのだろう。

 落ちていく際の加速によって、自らの体重を支える以上の衝撃を右肩が受け止めたのだ。女性の身である彼女には酷過ぎた。

 ただ幸いというべきは肩は脱臼していないわけだが、それでも肩の筋は痛めており、長くはもたないだろう。

 どちらにしろ、絶体絶命である。


 「左手は……だめですか」


 左の腕で淵を掴めればまだ落ちるまでの時間を先延ばしに出来たが、左手を上げようとすれば右手に負荷が掛かり、下手をすれば左手が淵を掴む前に右手が限界を迎えるかもしれない。それを考慮すると、どうにも行動には起こせなかった。


 「くぅっ」


 そうこうしている間に、右腕の限界も近づいているようで、指の感覚は痺れてわからなくなってきている。

 ここまで、なのでしょうか。

 彼女の中にその思いが蔓延し始めた。

 人は一度思い込んでしまえばそのままそれを正当化する思考へと移行する。既に彼女中では、落ちて死ぬことが確定し始めており、足掻いて限界を迎えた状態で落ちるぐらいであれば、いっその事潔く落ちてしまった方が諦めも簡単につくかもしれない。


 「あっ」


 その一瞬の不安。

 それが、彼女を支えていた指の限界の引き金となり、今度こそ彼女はその身を宙に投げだした。

 ああ、これで終わりなのですね。

 彼女は目を瞑り、来るべき衝撃を恐れぬよう、身体から力を抜いた。そこには恐れよりも、妙な清々しさの方が勝っていた。

 だからこそ――


 「大丈夫か!?」

 「えっ」


 自分に与えられる衝撃は、思いの外小さく、引っ張られるものだった。

 そしてその衝撃が、自分が助けられたと気づいたのは、腕が誰かによって掴まれていてその部分から小さな痛みと温もりを得たことと、幻聴でなければ男性の声が聞こえていたからだった。

 それは安否を問う声であり、彼女を間一髪で救った声。


 「無事か?」


 幻聴でないことを証明するように、男性の声が頭上から聞こえてくると、影によって彼女の視界は薄暗くなる。


 「今助ける! しばらくの辛抱だ、諦めるな!」


 男が叫ぶと同時、彼女の身体は大きな腕によって引っ張られ、徐々に徐々にその体は上へと昇っていく。

 

 「ちょっと我慢してくれ」


 彼女の身体がそれなりの位置までやってくると、男は彼女の両脇に腕を通し、引き揚げやすい体勢になる。


 「せーっ、の!」


 掛け声とともに勢い強く彼女の身体は引っ張られ、遂に彼女の身体は穴からの脱出を果たした。

 が――


 「うわっ!?」

 「きゃっ」


 ちょっと、勢いがあり過ぎた。

 男は引っ張り上げたところで彼女を支え受け止めきれず、倒れ込んでしまう。

 そこに、彼女の身体が男に覆いかぶさった。


 「「あ……」」


 二人の視線が重なる。

 至近距離に顔はあり、彼女は男の胸元に顔をうずめていて、男を見るということは自然と上目遣いになる。垂れて少し乱れている髪と服が、清楚そうな彼女を艶やかな姿にしていた。

 だがそれも長くは続かない。


 「ご、ごめんなさいっ」

 「いや、俺の方こそ。怪我は無いか?」


 顔を赤面させた彼女は咄嗟に男から飛び退くと、慣れた動作で正座をして謝った。

 男もまた、心拍数が幾分か走っていたが、どうやら彼女にそれは気づかれていないようだった。


 「だ、大丈夫です!」

 「本当に?」

 「は、はい――つっ!?」


 大丈夫だと、そう言った直後に、彼女の右肩に痛みが走った。動かさなければ痛くないのに、なぜ痛いかといえば、男が彼女の肩に触れたからである。


 「んー、外見はあまり目立ってないが、僅かに肩が張れてるし、熱を持っているな。もしかして、穴に落ちたときに?」

 「はい……」


 さすがに、もう言い繕うことはできないので、素直に彼女は認めた。

 男はその言葉を聞くと、肩から手を放す。


 「医療道具は無いし、間接とかの痛みだったら安静にしていた方が治りが早いからなぁ。」

 「私は大丈夫ですので」

 「……わかった。その代わり、ちゃんと安静にしてくれ。ここには何があるかわからない。俺たちを攫った奴らが襲ってくることだってあるかもしれない」

 「わかりました」

 「うん。それじゃあ、自己紹介をしよう。俺は萩原はぎわら啓一けいいち

 「私の名前は三条さんじょう撫子なでしこといいます。よろしくお願いします、萩原さん」

 「ああ。よろしく、三条さん」


 こうして、このえも知れぬこの空間の、窮地ともいえる場面で、二人は出会った。



開示ルール

・1:『貴方の両手足、首には特殊な装置が仕掛けられている。これに負荷を与え、尚忠告を無視した場合、首に装着されている装置が爆発する』


・2:『制限時間は97時間。残り時間は端末の最初の画面に表示されている』


・3:『ルールは全部で12存在する。上記に加えて、端末ごとにランダムで3つ加えられている』


・4:『この装置にはそれぞれ制限時間が設けられており、右足:49:00:00、左手:37:00:00、右手:25:00:00、左足:13:00:00、首:01:00:00。までに装置を解除できなければ、両手足には神経性の毒による四肢の自由の拘束。首の装置は爆発する』


・8:『ジョーカーが存在する。これは1~13の数字全てに偽装が可能。偽装しているときはその番号のルールを確認することが出来る。ジョーカーは一度番号を変えると六時間の間番号を変更できない。なお、この端末によっての装置の解除は最初の持ち主の身に適応される』


・9:『端末にはそれぞれ、A、2、3、4、5、6、7、8、9、10、J、Q、K、の数字が画面に記載されている』



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