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20:15:31 希望と復讐

傭兵視点

 「貴方は、何をしているんですかっ!?」


 ――パァン!


 「がっ、は!?」


 鳴り響いた銃声は俺を殺すことは無く、少し離れたところから聞こえた。

 そして、どうして頭を撃ち抜けなかったのかを疑問するよりも早く、オレの手は細い別の手によって捻りあげられたことで銃を溢し、その手は放すことなく動きを連続させ、一瞬浮遊感を覚えたと同時に固い床に体を叩きつけられていた。

 叩き付けられた衝撃で、肺から空気が無理やり吐き出されたことで、呼吸が上手くいかない。


 「命を簡単に捨てるようなことが、あっていいと思っているんですかっ? 貴方は!」

 「ぐっ……お前は……あの時の」

 「無茶し過ぎよ、撫子! いきなり靴と靴下脱いで渡して走り出すなんて」

 「というより、撫子さんその人って確か……」

 「っ!? 彼は僕たちを襲った人間じゃないか!」


 ぼやける視界に、女の声と、続けて一緒にいた連れのヤツの声が聞こえてくる。

 肺にどうにか酸素を送り込むことが出来て返答できたことは、その女たちに見覚えがあった。

 そう、確かオレをこの状態にした原因である男と一緒にいたヤツ等だ。


 「なぜ、殺させない……」


 殺そうとした人間を助けるなどと気が触れているとしか思えん。

 自分が再度襲われるかもしれないなどと思わないのか?


 「貴方は! 萩原さんをっ、殺した人です! 殺した人の命を無為にして、自分だけ死ぬなんてことを、許せるわけがないでしょう!?」

 「死ん……だ?」


 何を言っているんだ、この女は?

 アイツは生きているはずだ。だからオレは今この状態なわけなんだがな。


 「そうですっ、あの時、貴方は萩原さんを刺したじゃないですか!?」

 「待、て……誤解が生じている」


 そうか。確かオレがあの男を刺した瞬間にシャッターが閉じたのだったな。それなら、普通は死んだと考えるのも頷ける。

 ……息は出来るようになった。体は押さえつけられて起こせないが、致し方ない。


 「何を言ってるんですか?」

 「オマエの言う『萩原』は、死んでいない」

 「な……でも確かに、貴方はあの人を刺したのを私はあの時見ました!」

 「確かにそうだな。……だが、死んでいない」


 事実だ。

 奴に向けてナイフは刺した・・・が、刺さっては・・・・・いない。

 出なければまず、オレの服にその返り血が付いていないのがわかるはずだが、気が動転していれば気も付かないか。

 いや、それでも利き腕と片足が言うことを利かないとはいえ、オレに悟られなく組み伏せているのは一般のそれではありえないことなのだが。


 「どういう……ことですか?」

 「……悪いが、解放して欲しい。安心しろ、オレの右腕と左脚は装置による毒で使い物にならぬし、そもそも抵抗する気はない」

 「………………」

 「感謝する」


 解放されたことで、上体を起こす。

 さすがに、立ち上がるというのは難しいな。利き腕が使えないのと足に踏ん張りが利かん。


 「それで、どういうことなのか聞かせてもらえるかしら?」

 「ああ」


 気の強い女だ。

 押さえつけられている間に銃を拾い、突きつける。

 まぁ、確かに今のオレでは抵抗のしようもない。そもそも死のうとしていたのだから、撃たれたところで変わらん。


 「オマエたちが確認しているのは、その萩原という男が、刺された瞬間まででいいか?」

 「そうです」

 「なら、その後の話をしよう」


 今思ってもさっぱりだ。

 アレを狙ってやっとしたとしても、確実に骨は数本持っていかれて相当な痛みなはずだ。それなのに、痛みを無視して攻勢に出るなど、痛みに慣れている者でしか到底出来ん。

 加えて、焦っている状態での見境ない攻撃ではない。全てを把握したうえで予定通りだと言わんばかりに、あの二発は狙い澄ましたものだった。もし、本気で殺しに来ているならわざわざ狙いにくいところを狙うよりも、オレのこめかみを殴打することで確実に失神には出来たはずだからな。


 「――というわけだ」


 簡単に、事の真相を告げ終える。

 知りたいのはあの男の安否。それさえ伝える根拠を与えれば、信じるだろう。


 「よかった……よかった……! 萩原さんは……生きているんですね」

 「撫子さん、良かったですね!」

 「本当だよ。生きているということが分かれば、きっと会えるだろうからね」

 「………………」


 オレを取り押さえた女が泣きだし、それに学生の女と社会人の男が励ましの声を掛けている。

 だがそんなことよりも、オレには険しい顔をしたままオレに銃を突き付けている女の方が気にかかった。


 「どうした? 男が生きているんだ。喜ぶなりをしないのか?」

 「アンタのそのことが本当だとして、信じるならば……」

 「今ここで嘘を吐くメリットは無いな」

 「そうね、信じてあげるわ。でもだからこそ……最悪よ」


 女の吐いたその言葉は理解できなかったが、その表情と瞳は、オレのよく知る復讐者のソレだった。



・脱いだ靴と靴下――撫子の身に着けている物。靴は革製。靴下は綿やポリエステルなど。靴は茶色で手入れがよくされている。靴下は紺色で膝までの長さと伸縮性に富んでいる。ほのかに温い。

・社会人――大体二十歳を超えた人が当てはまったりする。荒波に負けずに幸せを模索したり堪能したりする。

・学生――青春真っ盛りな職業。大体十代後半辺りがそう。灰色の青春という言葉があり、歳を経て振り返った際に思い出がほとんどないことを指す。別に実体験があるとかそういうことではない。



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