20:13:22 自決
三人称視点
「た、助けてぇ! お願いだから、助けてくれよぉ」
許しを請う声が、コンクリートの壁に反響してしていく。
「悪いが、出会ったのを不運だと思え」
対峙する男は撃鉄を起こす。
その瞳に迷いは一切なく、今目の前にいる少年の身体を捉え、確実に命中する場所――胴体に狙いをつける。
「地獄で会えたら逢おう」
――パァン! パァン!
「ぎぃやぁああああああああああああ!!!」
狙い違わず、胴体へと吸い込まれた一発の銃弾。次いで放たれた銃弾は右足を貫く。
風穴の開いた胴と脚からは血が吹き出し、床を紅く染めていく。
もしかしたら将来有望な少年だったのかもしれない。もしかしたら、将来は大きな悪事を起こした少年かもしれない。
しかし、それは起こりえない未来。このまま放っておけば、数分後には少年は血が足りなくなり衰弱死するだろう。そして、男は痛みで叫ぶ少年を後に去って行った。
それが、数時間前に起きた話。
「ぐっ……」
右足を引きずりながら、感覚の無い左腕のバランスをとって歩く。
傭兵である男は――藤袴修治は、有り体に云えばピンチであった。
少年を撃った後に一人の青年と対峙し、男は勝利を確信していた。
しかし、結果はこのザマ。
装置に負荷を掛けると発生するペナルティを逆手に取られ、左腕を使い物にならなくなった後、動揺している修治を気にすることなく、振り抜いた鉄パイプは右足の装置と、男の右足を使い物に出来なくした。
あれだけの戦場を潜り抜けながらも、たった一人の一般青年に遅れをとる。あまりに滑稽だと、男は自嘲する。
「無様にもがき死ぬぐらいなら、いっそ自決した方がマシか」
幸いにも、片方の腕は使える。そして、持っている銃にはまだ弾が装填されている。額に銃口を添え、引き金を引けば一瞬で死ねるだろう。
ホルスターに納められてる拳銃のセーフティを片手と歯を用いて苦戦しながらも外し、こめかみに銃口を添える。
「ふっ、案外呆気ないものだな」
死ぬという実感が無い。
それは不思議なことだ。戦場では常に死に追われていたというのに。
だが、恐怖があるよりはいい。銃口がぶれなくて済む。
――パァン!
そして修治は、引き金を引いた。
・グロック17――オーストラリアの『グロック』社が開発。分類は自動拳銃。装填数は17+1。使用弾薬は『9mmパラベラム弾』。




