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12:09:21 ひと時の休息

再訪者視点



 多分、いま空は真っ暗で、月や星が見えるのだろう。でももしかしたら、雲がかかっていて見えないのかもしれない。雨も降ってるのかもしれない。

 この閉鎖されているであろう施設に入ってから約半日。現実の時間を見ると、『22:09:58』とデジタル時計は表示しており、それで夜だと判断しているに過ぎない。


 「ふぁ~」

 「眠い?」

 「あ、すいません……」


 大きな欠伸をなずながして、さすがに疲れているのがわかる。

 わけもわからない空間で、突然命の危機に晒されたのだ。肉体的によりも、精神的に参っているのだろう。それに、まともな食事が出来ないというのも一つの原因だと言える。


 「いいのよ。それに今は夜だし、疲れているんだもの。寝てしまってもいいのよ? 見張りはあたしがしとくから。安心して」

 「でも、そうしたら碧さんが眠る時間短くなっちゃいますよ!?」

 「数時間ぐらいなら平気よ。それに、いざというとき動けないといけないんだから、なずなの今できることは、しっかりと休むこと!」


 なずなは優しいからね。ごめんなさい。


 「安心しなさい、今のところは近くに誰かいるというわけでもないわ。それとも、あたしが信じられない?」

 「そ、そんな!? 信じてます、凄く信じてます!」

 「それじゃ、おやすみなさい」

 「はい……。おやすみなさい」


 渋々だけど、どうにか寝てくれたわね。


 「忠邦さんも、撫子さんも、休まれてください」

 「そう……だね。わかった」

 「…………わかりました」


 二人とも、寝てくれた。


 「はぁ……」


 小さく、小さく、ため息を吐く。

 嫌になる。

 一人も死なせないと言い聞かせたのに、このザマ。

 見ず知らずの人が死んで、目の前で知りあったばかりの彼を見殺しにしてしまった。


 「なにが、誰も殺させないよ……!」


 彼が――萩原啓一が死んでから、撫子さんを見るのは辛かった。

 30分以上は泣き続け、泣き終えてからは、瞳に力が宿っていなくて、それでもみんなで励ましてそれで、やっと少しだけ喋れるようになってくれた。

 あの時は忠邦さんや萩原君の話を聞いた限りでは、彼女は初対面の人だと言っていたけれど、それでもわかる。撫子さんは萩原君を想っていたということが。そして彼女は目の前で、刺されたのを見てしまったのだもの……。


 「あたしは、これでいいのかしら……」


 あの時のようなことがまた起きないように。

 ただ一人になったあたしが、あの人に託されたあたしが。

 決意し、帰ってきたこの場所。

 あいつ等の思い通りにさせないために。無為に人が死なないように。


 「それで、いいんだと思います」

 「撫子さん……」

 「私も、寝ずの番をします」

 「寝てなくて大丈夫なの?」

 「はい。それに、今寝てしまうと、あの光景が蘇って来そうで、寝るのが怖いんです」

 「……ごめんなさい」

 「碧さんは、悪くないです」

 「でも、あたしがあの時――」

 「『あの』とか、『もし』とか、後悔したところでやり直せるわけじゃありません」

 「………………」

 「碧さんが誰も死なせたくないという気持ちは凄いです。でも、もう2人も死んでしまったことに変わりはないんです。だったら……これから誰も死なせなければ、いいんだと思います」

 「そう、ね」

 「それに、見たことない人がどこかで死んでいるというだけで辛いのに、目の前でまた誰かが死んでしまうなんて、2度と視たくないです。だから、もうそれを視ないために、頑張りましょう?」

 「もう、だれも死なせない……」

 「はい」


 ああ、この子は強いのね。

 想い人が目の前で刺されて、死んでしまったのに。

 それなのに、立ち直って、今度はあんなことが無いようにと頑張ろうとする。

 二人も死んでしまったこの場所で、誰も死なせないと意気込んで、玉砕したあたしとは違うのね。


 「そうですよ、碧さん!」

 「なずな!?」

 「三条さんの言うとおりだね」

 「忠邦さんまで!」

 「碧さん、そんなに気負わなくたっていんですよ。本当だったら、自分が生きるために必死なはずなんです。それなのに、皆を救おうとしている碧さんが諦めちゃったら、それこそこのゲームを作った人たちの思う壺なんですから」

 「そうだよ。僕は、こんな非人道的な許せない。人の命をゲームの駒のようにしか扱わず、人の生き死にを盗み見て笑っている奴らは、人間として最低の行為なんだ。だから、君のやっていることは、間違っているわけがないんだよ」


 もう、なによ二人とも。起きてたなら、起きてたって言いなさいよ。

 本当に、これじゃあ、あたし……。


 「うん。頑張るわ……あたし、皆を絶対に無事に返すから……!」

 「はい」

 「だからって、背負い込まないでくださいよ?」

 「僕たちは、力になるからね」


 ああ、よかった。

 こんなにも、温かい人たちが一緒で。

 一人だったら挫けていたのに。

 本当にありがとう。


 「ありがとう……みんな」

 「ああ、もう、泣かないでくださいよ碧さん!?」


 慌てふためいたなずなが、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭ってくれる。


 「ごめんなさい、なずな」

 「いいんですよ。泣いてくれたあとは、キリッとした碧さんに戻ってくれるなら」

 「はっはっはっ。うん、芹宮さんが落ち込んでいては、僕らは成り立たないのさ。だから、今は泣きなさい」

 「大丈夫ですよ、これからは皆さんで協力し合えばいんですから」

 「うん……うん……」

 「それじゃあとりあえずは、今日からの休むときのことを決めましょうか」

 「それだったら、最初は僕がやろう」

 「えー、でも忠邦さん怪我してるんですから、最初は若い私がやりますよ」

 「ぐぁ! 痛いところをつくなぁ……」

 「ふふ」


 うん、きっとこの人たちとなら大丈夫。

 絶対に守るから。

 例えあたしが死ぬことになろうとも。

 絶対に、この人たちだけは日常に返してみせる。

 それが今からの、あたしの目標。



再訪者……つまりゲーム経験者

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