03:12:59 正体
三人称視点
『人間』の天敵とは、『人間』である。
それはほとんどの者に個性が存在し、理性が存在するからこそ成り立つ。
もし片方を『人間』が備えていなければ、この生物は自分たちが下に見ているであろう犬や猫となんら変わりない生物であった。
しかし、その両方を『人間』は備えていた。
本能の中から理性を芽生えさせ、自我と呼ばれるものを形成した瞬間に、ヒトという生物は『人間』に昇華する。
それは老若男女関係なく、全てが備えるであろう『人間』としての基本的『本能』。
『人間』は嘘を吐く。それは、『人間』自身が自ら嘘だということを把握しているからこそ出来るものだ。
もしこれが動物であれば、自らの行った『嘘』に関して自覚などない。
例えばカエルは、自らの姿を天敵に察知されないように、自らの表皮を周囲の色に合わせる。
例えばチョウチンアンコウは、自らの頭部に備え付けられている誘引器を用いて寄ってきた餌の魚たちを捕らえ食す。
しかしこの2つの例、どちらも自らの行った『嘘』に自覚などない。
カエルはただ周囲の色に表皮を合わせていれば天敵に襲われにくいと『本能』的に行っているだけであり、アンコウもまた誘引器が光っていると餌が食べられるから『本能』的に行っているのだ。
つまり、動物にとって『嘘』と呼ばれるものは全て本能において行われていることであり、自覚などなく、そこに『嘘』という意識など存在しない。
だがそういった意味では、『人間』という生物は『嘘』を意図的に吐けるし、作為的に『嘘』を暴ける。つまりそれは、『人間』の『嘘』は『本能』によって行われていることではないか。
ヒトは『嘘』を吐くことが出来ない。しかし、『人間』は嘘を吐くことが出来る。それが、小さな子供であっても。
『嘘』とは両者、または不特定多数に向けられて発せられるものであり、『嘘』の中に存在する『差』は知識と経験のみ。時折それらが全く無くとも『嘘』を暴ける者、『嘘』を吐く者がいるが、それは勘や偶然ではなく、『人間』としての『本能』によって、行われたものなのだろう。
では、『嘘』において最も大事なのは、なんなのか。
その答えは、見た目と経験である。
嘘を吐き、また嘘を多く暴いたものほど、その後さらに巧妙な嘘を吐き、嘘を暴くのだ。
そして、子供という存在は純粋な白であり、大人という存在は純粋な黒と捉えられるのだ。
子供は大きな部分を本能に準じて生き、大人は大きな部分を理性に準じて生きている。
それが、一般的な真理なのである。
ではそこに、まったく逆の者が存在すれば?
大人という見た目でありながら、知識も経験も乏しく、その瞳には子供の無垢な輝きを持つ者。
子供という見た目でありながら、知識も経験も豊富で、その瞳の奥にはどす黒い輝きを持つ者。
この両者を見比べて、どちらが恐ろしいであろうか。
『人間』の五感で最も優先されているのは視覚情報だ。なによりも見た目で『人間』は判断する。その後に、心の内に目を向ける。だがその見ためが子供だったとき、誰がその子供の内面を深く視ようとするだろうか? 前提に、子供は嘘を吐かないということを持ってくる人間は、それ以上探ることなどしない。
「あー、疲れた~」
そう、だからこそ彼女は――
「意図的に泣くのって、結構疲れるのよねー」
葛切萌香という女性は、このゲームにおいて最も恐ろしい存在なのかもしれない。
「でも、アレやると大体の人は簡単に言うこと聞いてくれるからな~」
萌香の見た目は完全に少女だ。それは発せられている声も同様に。
しかし、彼女はその見た目と経験には大きく差が生じている。
幼い頃より発育は良くなく、成長が完全に止まったのは年齢も二桁になったばかりの頃。それ以降、彼女の身長も体重も、声音すら変わっていない。
最初の頃は彼女自身そのことにコンプレックスを抱いていた。いや、未だに抱いてはいる。しかし、折り合いをつけた。どうせ変わらないのなら、その見た目によるメリットを思う存分に活かしてやろうと。それが、少女としての振る舞い。
意図せずして萌香と出会った人間はその見た目に騙される。
さらに萌香が見た目通りに振る舞えば確実に、相手は騙された。
自分の本性をみすみす他人などに晒すバカはいない。これまで一度もその考えを覆したことなどなく、逆に『人間』という存在に『嘘』が無ければそれは『人間』ではないと萌香は思っている。
「さーて、私に与えられた権利はあの男にあげてし、あの男は男で他の誰かを殺しに行ってるでしょうしね。あたしはその間に、装置の解除をするとしますか」
萌香ともう一人の男、藤袴修治。この2人は現在まで誰とも遭遇していない代わりに、様々な部屋を歩き回り、食糧や武器、また階の場所も大体把握した。
そして、戦闘が解除されたと同時に指名された萌香はその権利を修治に渡し、修治はその権利を譲渡ではなく解除するために、殺すことを決めた。そのためには確実に誰かと遭遇することが出来る場所の付近で待ち伏せすることで、その場所とは上へと唯一行ける階段ということだった。
萌香と修治はその場で別れ、萌香は2階へと進んでいる。
部屋を歩き回ったおかげにより、チップがそれなりに集まり、萌香の端末にはいくつかのプログラムと、手足の装置を解除するための条件もインストールされている。だからこそ、萌香はその制限時間に気をつけつつ、着実に解除すればいいのだった。
「でもやっぱり、この体は疲れるのがネックねぇ。もう少し休んでから動こう」
それでも、長い間歩いたことによる疲れはなかなかとれず、萌香はしばらくの間休むのだった。




