02:00:00 エクストラステージ
主人公視点
――ブッー ブッー ブッー
「なんだ?」
「始まったわね」
「どういうことですか?」
「時間、二時間たったわよ」
「っ!?」
碧が言ったことは、今この瞬間から戦闘を……つまり人に暴力を振ろうと、殺してしまおうとルールに反しなくなるということだった。
今俺たちは、出来る限り上の階に移動しようと碧が提案し、そのための階段を探すために移動していた。そのおかげで扉があろうと入らず、あの男が持っていたような身を守ることのできる道具を何一つ持っていない。また、男は俺と忠邦さんだけであり、三条さん、碧、峰垣さんは女性だ。碧は自ら運動神経は良い方だと言っており、三条さんもまた驚いたことに運動神経は良いことが判明している。よって――
「わ、わたしだけ運動神経が微妙なんですよね……」
しょんぼりと落ち込んでいるのが、峰垣さんだった。
いざというとき、誰かを置いていくわけにはいかない。
また、力ずくということになると忠邦さんは腕に怪我を負っているために、俺一人となる。
「とりあえず、誰が何をしてくるかはわからないから、急ぎながらも慎重に行きましょう。罠にも気を付けてね」
「そうだな」
とりあえず、今の状態で争うというわけにはいかない。
それに、いきなり戦闘行為が解除されたからといって、いきなり誰かを襲うというのは非効率的である。
「それにしても広いな。結構歩いたはずなんだがな」
「そうですね。いま、お昼頃でしょうか?」
「あ、本当だ。三条さん時計見ていないのによくわかりましたね?」
「体内時計が正常に働いていることでしょうね。規則正しい生活は大事だもの」
「う、なんか心がいたい……」
「はっはっはっ、若い子ほど最初は無理が利くけれど、やはり健康な生活を送るのは大事だよ、峰垣さん。特に、寝不足というのは女性の敵だからね」
「気をつけます……」
話はいろいろな方向に飛ぶけれど、空気は緊迫感はなく、リラックスしている。これぐらいの方がいいのかもな、こういった時は。
――♪~ ♪~ ♪~
「今度はなんだ!?」
突如鳴り響く、先ほどなったブザー音とは違う音の羅列。
それは明るく、この空間においてはバカにしているようにしか聞こえないメロディ。
全員が端末を取り出し目を向けると、電源の落ちていた端末は勝手に起動しており、真っ暗な画面だけが映る。
『やぁやぁみんな! 初めまして、ボクはピエロの案内人さ! よろしくねっ』
その画面にスポットライトのようなものが映し出されたかと思うと、これまた小ばかにした口調で、一体の二頭身ピエロが姿を現した。
ピエロは仮面をかぶっており、道化師に恥じぬ笑顔の仮面を顔に張り付けている。
全員の意識は、そのピエロへと集中していた。
『おや、皆挨拶は無しかい? 寂しいなぁ、でもボクはピエロだからね、笑いは崩さないよ!』
「いいから、本題に移ってくれないかしら?」
『ハハッ! 結構剛毅な子もいたみたいだね。うん、じゃぁその言葉に免じて本題に移るとしよう! ボクは案内人としての仕事を忠実に遂行するだけだから、みんなボクへのご意見ご感想は止しておくれよ?』
ピエロの言葉に、一瞬呆気にとられた。そもそも、このプログラムを組んでいるのはお前らであろう? この言葉を吐かせているのもこれを今使っている奴らだろう? それで、意見すると?
「バカげているわね」
『それじゃ、本題を話すよ。せっーの、エクストラっステージ!』
「エクストラ、ステージ?」
峰垣さんが鸚鵡返しして口に出したが、確かに気になった。エクストラステージとは、どういうことだと。
ピエロはその言葉を言ったところで止まることは無く、話を続ける。
『さてさてみんな、せっかく戦闘行為が解除されたというのに、あまりに積極性が無いじゃないか? それじゃあつまらないよ。退屈だよ』
誰も、お前たちを楽しませるつもりなどない。
そのことは、周りのみんなも思っていたことらしく、苦々しい表情をしている人や、怒りをあらわにしている人もいる。
『な~の~で~。ちょっとみんながこの先楽しめるように、ちょっとしたミニゲームを用意したんだ! その名も~……『見つけてTouch! チキチキ爆弾ゲーム!』だ』
『さてみんなの内から、今から一人だけこちらかランダムに人を選ぶんだ。そしたら、そのプレイヤーの首輪の装置が、なんと本来の半分の時間で爆発してしまう権利を得るんだ! だけど安心して、選ばれたプレイヤーはその権利を他のプレイヤーへ譲渡がすることが出来るんだ。その条件が、Touch!』
『それは手で行おうと、足で行おうと構わない。とりあえず、自分とは違うプレイヤーに触れたらオッケー! それでも、解除したい人はいるよね? それなら簡単! 自分以外のプレイヤーを殺しちゃうか、自分の首の装置を解除すればいいのさ! 簡単だろう? だけども、この広い空間どこに誰がいるかなんてわからないだろう? だから、一つだけ嬉しいメリットを用意したんだ! それは、30分に5分間、プレイヤー全員の位置が機能の『Map』でわかるようにするんだ。すごいだろう?』
『とまぁ、以上で説明は終了~。それじゃ、これから最初のプレイヤーの選定をするね。いくよ~!』
『じゃん! 最初のプレイヤーは、端末番号『9』! 君だ!』
『それじゃぁ皆、ばいばい~!』
「え、ちょ、ちょっと待ちなさい!」
碧が叫んでピエロを引き留めようとするが、ピエロは止まることなく消えた。
そして残されたのは、何とも例えにくい空気。
かき乱すだけかき乱して、去って行った。
「とりあえず、この中に該当番号の人はいないのか?」
「そうね……みんな、端末の『Rules』を見て。そこに番号かローマ字が書かれているはずだから」
碧の言葉に、全員が端末に再度目を落とす。
俺も同じように端末の『Rules』項目を覗いて確認する。
「あたしは『A』よ」
「あ、わたしは『J』って書いてあります」
「私は『K』です」
「僕は『4』だね。大丈夫だ」
「アナタは?」
「俺は……『8』。危なかったな」
全員が違う番号ということに、俺たちは安堵した。
しかし、安心はできなかった。
誰があの該当番号なのかはわからないが、もしその選ばれた人間が権利を『移す』ではなく、『解除する』行動を起こすかわからないのだ。加えて、30分ごとに5分間こちらの居場所が知れてしまう。それはつまり、集団行動している俺たちは危険だということである。
「でもより一層、気をつけなければいけないわね。あまり人は疑いたくないけど、他のプレイヤーと出会ったら注意を払いましょう」
その言葉に俺たちは頷き、当初の目的である2階へと行くための階段を探すことにしたのだった。
開示ルール
・1:『貴方の両手足、首には特殊な装置が仕掛けられている。これに負荷を与え、尚忠告を無視した場合、首に装着されている装置が爆発する』
・2:『制限時間は97時間。残り時間は端末の最初の画面に表示されている』
・3:『ルールは全部で12存在する。上記に加えて、端末ごとにランダムで3つ加えられている』
・4:『この装置にはそれぞれ制限時間が設けられており、右足:49:00:00、左手:37:00:00、右手:25:00:00、左足:13:00:00、首:01:00:00。までに装置を解除できなければ、両手足には神経性の毒による四肢の自由の拘束。首の装置は爆発する』
・5:『開始から2時間の戦闘を禁じる。もし正当防衛以外の戦闘を行った場合、首の装置を爆発させる』
・7:『このゲームで97時間生存した者は勝者となり、50億円を山分けする』
・8:『ジョーカーが存在する。これは1~13の数字全てに偽装が可能。偽装しているときはその番号のルールを確認することが出来る。ジョーカーは一度番号を変えると六時間の間番号を変更できない。なお、この端末によっての装置の解除は最初の持ち主の身に適応される』
・9:『端末にはそれぞれ、A、2、3、4、5、6、7、8、9、10、J、Q、K、の数字が画面に記載されている』
・11:『装置の解除には、解除条件の入力されているチップをインストールした後、条件を満たすことで解除できる』
・12:『この空間内において、己の良心が許す限りは何を行おうと構わない』




