二人の行進曲3
窓から差す月明かりが、麻央と悠佳に影をつけて濃淡を作り出していた。
悠佳は窓を閉めるわけでもなく、ソファに戻るわけでもなく、麻央を見ていた。
「…中年のオッサンが、まだうら若い十代に恋愛なんて叶うわけねェよな」
苦笑気味に呟く。
生まれてこの方、未だに彼女が2人しか出来たことがないなんて馬鹿馬鹿しい。
悠佳は麻央と会って話をするうちに、麻央のことを恋愛対象として考え始めるようになった。
ホモだ、駄目だ、と同性に恋する自分をなじっても、愛しさは消えずにますます濃くなっていく。
麻央のことだ。
それなりに年頃であるから、女のひとりくらい居るだろう。
自分に振り向くことはまずない。
叶わない恋。
なのに、諦められずに追いかけていた。
家庭のことや学校のこと、その他もろもろに悩む麻央の相談相手になることで、一緒に居られる時間を削り出した。
「…………………はぁ……」
――――……でも、これが限界。
自分の気持ちも知らずに、気持ちよさそうに眠り続ける麻央からようやく目を離し、朝食の準備をしようと思いキッチンに向かいかけたそのとき。
「……ゆーか……」
寝ぼけたような間の抜けた声が、名前を呼んだ。
「…?」
しかし、何度見ても麻央はまだ眠っている。
「ゆ………うか………悠佳………」
「!?」
麻央は眠りながら、何度も悠佳の名前を呼んでいた。
幸せそうに、少しだけ口元に笑みを浮かべて。
この控えめに笑みをたたえる唇に己の唇を重ねられたら、どれほど幸せだろうか。
しかし悠佳は必死の思いで、吹っ飛びそうな理性を押さえ込んだ。
それから、「…んん、」と短くうめいて寝返りを打った麻央からやっとの思いで目を離し、顔でも洗って目を覚まそうと思い立った。
きっと、そうだ。
寝ぼけていたせいだ。
ここまで麻央を襲ってやりたいという欲にさらされたことは今まで一度もなかったのだから。
この時の悠佳は、まだ〝惹かれていく〟という感覚を知らなかっただけなのだが。