学生の仕事は勉強っしょ?
結局、俺の知らないところでチーちゃんの存在は確定していたらしく、昨日俺を残したのは風習というのもあるが、本当のことを知っていたのでチーちゃんのことを任せていたらしい。
「全く。チーちゃんはもっとと大人らしくなろうよ」
朝練の時でもチーちゃんは俺に敬語を許さない。コーチに敬語を使わないからと言って、先輩達も変な目で見ることはしなかったのでありがたい。
「うるさいなぁ。私はもう大人なの。トシみたいにお風呂で鼻血出したことないもん」
「えっ!? 村井、城峰コーチと一緒にお風呂入ったんスか!?」
寿先輩が聞いてきたが、俺に聞いているのかチーちゃんに聞いているのか分からない言い方だったので、一応俺が答える答えることにした。チーちゃんが答えたら誤解が生まれる気もするし。
「いや、入ってませんよ。チーちゃんが無理矢理……」
「でもその後は故意的だったよねぇ」
「「「「「!!!」」」」」
先輩達の視線が痛い。痛すぎる……!!
「大鉄先輩、嘘ですからぁ!」
俺は一番引いている大鉄先輩に必死で説明した。でも、先輩達は俺よりチーちゃんのことを信じるみたいで。
「うぅ~。俺のこの半年はなんだったんだぁ」
「ま、まぁ。俺達は村井がどんな性格でも文句は言わないし言えないしな。……でもな? まだ未成年なんだぞ」
「大鉄先輩、よけい傷つきますって」
大鉄先輩は俺のことをフォローしてくれているらしいが、余計なんだよなぁ。
兎に角、俺達はそんな冗談を入れながら朝練を終えた。
「ん~! ……眠ぃ」
朝のホームルームに始まる前に、元樹が背伸びをする。
「俺の方が疲れたっての」
「?? 何々。遂にノブも卓球に違和感を感じ始めたって感じ?」
「そんなんじゃねぇけどよ」
元樹のハイテンションにも、今日はついていけない。朝からあんな重大な事実を知ったうえに変態扱いだ。
「ほら、元樹。今日は利信疲れてるっぽいからさっさと課題やるぞ」
「サンキュ、憲吾」
「You'er weicome」
憲吾のナイスフォローによって、俺は机を枕にして寝ることが可能になった。つか、憲吾、そんなに英語上手かったっけ?
数分後。俺は一気に眠気が覚めることになる。
「は~い! ホームルームを始めます」
「――誰、あれ?」
「――てか、超可愛くね」
「――うんうん。女優並っしょ?」
「――臨時かな?」
俺は教室内がざわついていることに気がつき、体を起こした。
「……へ?」
俺はそこに立っている人をみて、そんな言葉しか出なかった。俺が困惑しているうちにその人は言葉を続けた。
「今日から、1年4組の木野 泉美(きの いずみ)先生に代わって臨時担任兼第1学年英語担当教師兼男子卓球部コーチになった、城峰 千鶴です。よろしく」
パチパチパチッ!! 教室内に、こえでもかってくらいの拍手が鳴り響いた。
「と、いうわけで。質問時間は後で設けます。今日の6時間目くらいにね。じゃぁ、ホームルームを始めます」
チーちゃんは、淡々とホームルームを続けた。女子は真面目に聴く。男子はニタニタしている。……つーか、チーちゃんってそこまで可愛くないでしょ。慣れか? それとも、俺だけなのか?
ホームルームは俺の考えがまとまる前に終わり、1時間目の授業になった。今日は木曜日だから……数学Aか。
「おい。ノブ! なんであんな可愛いコーチいること俺達に言わなかったんだよ?」
俺が授業の準備をしていると、元樹が声をかけてきた。
「……そこまで可愛いか?」
俺は元樹に率直な意見を言った。
「お前って奴は……目が腐ってるんじゃないのか!?」
「腐ってねぇよ。俺の意見だよ。俺とお前達の価値観が違うだけかも知れないだろ」
「う~ん。それもそうか……」
元樹は俺の抵抗にすぐに納得したが、その後すぐに「あの可愛さが分からないとは……」とか言っていきやがった。
「性格が問題だよ」
俺は誰にも聞こえないように呟いた。元樹は俺の前からいなくなると『価値観があう同級生』と盛り上がっていた。憲吾はっていうと。律儀に予習してる。憲吾は真面目過ぎなんだよなぁ。
「おら。もう席着け」
数学の教師が入ってくると、皆逃げるように自分の席に戻っていった。
「今日は最初にプリント回すぞ」
俺は前の席の生徒からプリントを貰う。1番後ろの席だから後ろに回さなくていいのは楽だ。授業も私立だからわかりやすいし。これで、奨学金で通えたら『楽園』だろ。
「……メールだ」
ケータイが鳴っていることが分かったが、まだ先生が黒板に文字を書いていないため、開けない。 やっと、先生が後ろを向いたのでケータイを開く。いつもなら元樹辺りの友達なのだが、クラスの生徒は真面目に授業を受けている。俺もシャーペンを持ちながら『受けているフリ』をした。
『From:チーちゃん ……』
その後も本文が続いていたが、そこで俺は1つの疑問を持った。
「なんで、アドレス登録されてんだ?」
家に居るときはそんな暇はなかったし。……もしかして、俺が鼻血出して寝ているときに。
「あれか……」
「大丈夫? さっきから1人言言ってるけど」
「えっ? あぁ、ゴメン。先輩からメール入っちゃって」
俺は隣の女子生徒、遠藤 春奈(えんどう はるな)に心配されたが、何とか誤魔化した。
「ならいいけど。バレないようにね?」
「あ、あぁ。分かってる」
俺はそれだけ言うと、メールの続きを読んだ。
『From:チーちゃん ヤッホー! 一生懸命勉強してるぅ? 好きだよ』
最後の文に、ハートマークの絵文字がついていた。
「馬鹿じゃねぇの?」
誤解するとでも思ってんのかよ。小さいころは真に受けていたけど、今はもう大人だぞ? 嘘告白に騙されるような俺じゃねーっての。
そう。小さいころは良く、一緒にいたんだ。
というわけで、次話は過去話です。