誘拐。それから、最近卓球もラブも足りてないと思います。
生徒指導室。中学校の時に1度も入ったことがないから、俺のイメージでの説明になるけど……。俺のイメージの生徒指導室とは、音が漏れない壁紙を使っていて、テーブルが1つ。黒いカーテンが敷かれていて、電球が寂しげに灯されている。
「入れ」
「……はい」
つーか。いつも思うんだけど、なんで生徒指導室の先生って、体育会系の教師なんだろう? もう少し、話し合いのできる教師を希望したい。
「座れ」
……そこにあった部屋の雰囲気は、俺の想像とは真逆だった。白いカーテンは敷かれていないし、電灯が明るく灯っている。テーブルは何個かあるし、壁には何も加工されていない。
「……村井」
「はい」
部屋の雰囲気があまりにも違っていたので、緊張は解けていた。ただ、何で呼ばれたのかは分からない。
「城峰先生のことなんだが……」
「? チー、じゃなくて城峰先生ですか? 知りませんけど……。っていうか、何で俺なんですか?」
その疑問はもっともだ。俺とチーちゃんとの関係はバレていないはずだし、部活として俺に聞いているのだとしたら、大鉄先輩に聞けばいいんだ。
「いや、だって……。一緒に生活しているんだろう?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
長い沈黙の中で、俺が導き出せた答えはその1文字だった。
「いや。城峰先生が言っていたんだよ。ほら、こないだここに赴任してきたときに。校長先生も、理事長も知っているとは思うが……」
「あの人が言ったんですか!??」
俺の我慢は一気に爆発された。先生に突きつける言葉でないことは明白だったが、チーちゃんが自分で言うなんて、想像もしていなかった。だとしたら、俺の今までの苦労は水の泡だということだ。
「う、うん。城峰先生が言っていたぞ」
「そうですか……」
俺はすでに諦めていた。何より、チーちゃんのことで諦めないことの方が珍しいことだ。
「で、何か知ってるか?」
「何かって……学校来てないですか?」
俺の質問に、先生は頷いた。
「少しいいですか? 連絡取ってみます」
「あ、あぁ。頼む」
俺は先生の許可を貰い、携帯を開く。電話帳機能を使って、『チーちゃん』の欄を開く。それから、いつもは『メール作成』を押すんだけど、今日だけは『音声電話』を押す。――プルルルプルルル――機械音が聞こえて、しばらくそれが続く。
「どうだ?」
「……いつもなら、速攻で出るんですけどね」
俺の答え、それは『出ない』と言いたいんだ。先生はもう少し続けてほしい目線を送った。
「はぁい?」
本当にしばらくして、チーちゃんの声が聞こえた。
「はぁい? じゃないよ! 今どこにいるの!?」
俺は先生の手前、ゆっくりと喋る余裕はなかった。
「あっ。もしかしてトシ? 今? えっとねぇ……。ここ、どこですか?」
「どこですか、って、誰かといるの?」
「うん!」
元気に答えるチーちゃんだったが、俺にそんな余裕はない。
「誰!?」
「知らない人。私、誘拐されたの」
ゆうかい? ユウカイ? ユーカイ? 誘拐?
「誘拐!?」
俺は、自分の声が震えているのが分かった。誘拐といえば、あのあれだ。犯罪だ。
「なんで電話できてるのか聞いてくれ」
俺とチーちゃんとの話を聞いていた先生が俺に言った。それもその通りだ。
「なんで電話できてるの?」
「誘拐犯の人が優しいの」
「優しいの、って……」
俺の声が途切れないうちに、チーちゃんの声が聞こえた。
「あっ、ちょっと……!!」
チーちゃんの声が聞こえたと思ったら、今度は低い声に変わった。
「おい。警察には言うなよ。大丈夫。1発犯したら解放してやるよ」
犯す? それって、完璧なる犯罪じゃん!
「チーちゃん! 逃げて!」
「聞こえてねぇ~よ」
そう聞こえたと思ったら、携帯はもう、途切れていた。
「と、とえりあえず俺は警察に電話してくる!」
先生が、部屋を出た。
「やばい……」
俺は、なんでか冷静だった。
さてさて。本当に変な話になったと思います。しかし。このような犯罪というジャンルでも、何かを伝えられると思います。なので、バットエンドにはしない程度で、チーちゃんを操りたいと思います。
私事ですが、高校の入学式が近づいてきました。新入生の皆様。共に頑張りましょう!
そして、まだまだ被害の大きい被災者の皆様は……。争うことなく、協力して頑張ってほしいです。
このあとがきを読んでくれている方は、募金箱を見かけた際には、1円でもいいので入れてください。2011年4月5日21時07分。