翌日=よくひ
日曜日。津貫高等学校では日曜日の練習は特に強制的なものではなく、部活動のコーチが決めていいことになっている。男子卓球部は基本的には休みとなる。ので、日曜日はゆっくりと睡眠をとれる時間なのだが。俺は1本の電話で、俺は起こされた。
「はい」
家の電話だったので、相手が誰だかわからない。本当は表示できるって話だけど、面倒だからといってお母さんはそうしなかった。
「私、私立津貫高等学校1年主任担当の三里 小町(さんざと こまち)です。1年4組31番、村井利信くんのお宅でしょうか?」
電話慣れしている、そんな声だった。まぁ、学年主任ともなれば当たり前か。
「そうですけど」
「もしかして、利信くん?」
「そうですけど」
特に接点もない学年主任の教師と、俺はそこまで会話を楽しむ趣味はない。ようは、用件を早く言って欲しい、それだけだった。
「今、大丈夫かな?」
「大丈夫です」
「こないだの、通り魔事件のことなんだけど。少し、お話したいの」
「そうですか。で、どうしろと?」
そう言った後で、「どうしろと?」では少し口調が悪かったかなと思った。
「今から、学校これるかな? もしダメなら、明日学校に来てからでもいいんだけど。それじゃぁ、時間も短いし」
でも、今から行くのは面倒ですよね? と、俺は反発しかかった。だが、そこは高校生。教師の望みどおりの答えは知っている。
「いいですよ。通り魔のことだったら、憲吾も連れて行ったほうが良いですか?」
「そうね。今から文沢くんの家にも電話するつもりだったんだけど。連絡頼めるかな?」
「はい、大丈夫です。じゃ、今から行きます」
「はいはい。よろしくね」
「では、失礼します」
礼儀正しい返答。相手を不快にすることはなかっただろう。 俺は受話器を下ろすと、携帯の電話帳機能を使って憲吾の携帯番号を調べた。
「090の……」
電話を小型機に持ち替えて、電話を掛ける。
「はいはい。憲吾でぇ~す」
能天気な憲吾の声。奥から特番の声が聞こえるということは、まだ家だな。
「あ、憲吾? 俺だよ、俺」
「オレオレ詐欺ですか? 俺は引っかかりませんよぉ」
「いや、違うって。利信だよ」
「利信か。お前、詐欺ってんじゃねーよ」
「そんなつもりはさらさらない」
変な誤解をされたが、訂正したので大丈夫だろう。
「で、何だよ?」
俺から話題を出そうとしたところで、憲吾が自分から聞いてきた。
「今暇?」
「うん、まぁ、暇だけど」
「学校に行こうぜ」
「何で?」
即答だった。まぁ、理由も聞かずにだったら、そうなるか。
「こないだのさぁ、通り魔の事件あるじゃん? それで、学校が説明されたいんだって。その理由は知らないけど。ほら、あの時は警察には説明したけど、学校には説明しなかったじゃん」
「そうだな……。で、行くのかよ?」
「行くから連絡してる。今から家にこれる?」
「いいよ、分かった。今からいくから」
「オーケー。待ってる」
そう言って、通話終了のボタンを押した。
もしかしたら、俺は自分でも気がつかないうちに、話をしようと考えていたのかもしれない。そして、その想いが今回の呼び出しを起こしたのかも……。真実を話そう。そう、思った。