病室
富樫拓さんの登場です。
……。気がつくとそこは、真っ白な背景だった。俺、死んだのか? なんて、死んでたまるかよ。それに、死んだら意識もねぇばすだ。
「……あ」
一応、声は出た。それの確認。でも、誰も返事をしない。誰もいないのか?
「……」
暇だ。誰もいないのに声を出すのも面倒だし、一人言ってのはおかしい。だから、暇を持て余す。じゃぁ、今の状況を整理しよう。
まず、俺は憲吾と『ミッツ』を出た。そんで、踏み切りに行った。そしたら、憲吾が倒れて……。
「刺されたんだな」
意外と、精神的ショックはなかった。まぁ、俺としては先輩(仮)の方が怖い。
「よいしょっと、痛っ!」
起き上がろうとして腹筋に力を入れると、いきなり痛みが襲った。やっぱり、刺されたってことが分かる。
「……利信か?」
隣、右から憲吾の声が聞こえた。誰もいないと踏んでいた分、驚きがある。
「あ、あぁ。憲吾?」
分かってはいるけど、一応の確認はする。
「そうだ。悪ぃな、俺のせいで」
「は? 憲吾のせいじゃねぇよ。あれは、アイツのせいだ」
俺は顔を思い出す。思い出すだけで、吐き気が来る。
「いや、俺が刺されなきゃ、お前はケガしなかったのに……!」
憲吾の声が、震える。
「お前もケガしなかっただろ、それならさ」
俺は本当に思ったことを言った。友達だから、こうゆうときも気兼ねない。
「でも」
「それ以上言うな。ケガ、痛いだろ?」
さっきから、憲吾の顔は見れなくても、痛がっているのは、何となく分かった。
「……」
憲吾は俺の言葉で、喋ることを少し止めた。
「俺さ、犯人見たんだよね」
「……! 犯人って、もしかして」
小説みたいなことを聞いてくる憲吾。まぁ、そうなるか。
「通り魔」
俺も、単語だけで返す、小説らしい表現で返した。
「誰だよ? 俺、我慢できねぇ」
「何の?」
「友達を傷つけられて……。ぶっ飛ばす!」
そーいや、まだ書いたことなかったけど。憲吾は中学校時代、そうとうな不良だった。今は落ち着いているが、昔は、学校にもこないほど、悪だった。根がスッキリしているから、俺は友達になれたが、周りの生徒は格好だけで決め付けていた。『クズ』だと。
「やめとけ。結局、犯人は俺たちじゃなくて学校が決める」
俺は、少し犯人を香らせた。
「……意味、わからない」
憲吾は、考えたらしいが、直ぐに諦めた。怒るとすぐにこうだ。
「先輩だよ、内の学校の。しかも、内のクラスの遠藤っているだろ? 遠藤に告ったやつだよ」
そう、アイツ。思い出したくもない。あの、俺を気絶させた奴だ。
「ん。俺はよく知らないけど。まぁ、利信が言うんだったら間違いはないか」
「そっ。で、まだやるって言うのか? そんなバカのタメに馬鹿になる必要なねぇ」
「……少し、考える。ところでさ」
憲吾はそう言ってから少し間を開けて起き上がった。その時、横目で見たときには、かなり痛がっていた。
「ここどこ?」
「病院、……だと思う」
ここがどこだかは分からない。だから『たぶん』。
少し時間が経ってから、憲吾はまた寝た。寝息がたっているのから、もうねたことが分かった。壁掛けの時計を発見し、時刻を確認。『8時43分』。2時間は寝ていたと思う。刺されたのが何時だかなんて、記憶にない。
「ガラガラッ♪ 失礼しまーっすっと♪」
その声が入った瞬間、悪感が背を通過した。痛みも忘れて、俺は起き上がる。憲吾はまだ寝ていた。
「何しに、……来たんですか?」
俺は、自分の目が泳いでいることが分かった。眼をあわせれば、確実に、壊される。こないだ生き延びたのは『マグレ』。自信は、簡単に壊れた。まだこの人と戦うのは『早い』んじゃなくて『ムリ』。
「何って、決まってるでしょ? 心の奥底から、馬鹿?」
そう呟いたのは、先輩(仮)。
「なんで、ここが分かったんですか?」
「おっと、もう次の質問かぁ♪ 心の奥底から、答えてあげよう。俺には情報網がある。それこそ、キミの考え付くアイデアでは浮かばないほどの情報網がね♪ 心の奥底からの驚きをプレゼント♪」
「ふざけるな! どうしてここに来た! 答えろ」
俺は自分の感情が抑えきれなくなり、つい大声を出してしまった。だが、憲吾は起きない。
「あ~ぁ。うっさいなぁ。心の奥底から、迷惑だね♪ ふふ、とゆうか、最初の質問に戻ったね♪ 心の奥底から、大丈夫? 精神?」
「先輩(仮)に心配されるほどじゃ、ありませんけどね」
俺はただ強がった。この人を前にして、戦うことは無謀。ならせめて、心を折られないようにしないと……!
「なぁ~んだ……」
「まだそんな強がり言えたんだ? 心の奥底からイラつく」
「だったら、今日は壊すよ。心の奥底から一気にね♪」
「折角今日はキチンとお見舞いに来たのにさ。心の奥底から勿体無い」
マシンガン方式のこの言葉。そして、最後のが俺の心をへし折った。
「嘘♪」
実に簡単に人を裏切れる言葉だ。それだけで人間は、人を信じられなくなるというのに。
「じゃね。今日は、どうだったかな? まだまだ前半戦♪ 中盤戦は、試合でね♪ 心の奥底からお悔み申し上げますっと♪」
そう言って先輩(仮)は、病室を出て行った。
「……あっ、」
言葉がまだ出ることに、俺は喜んだ。
次にドアが開いたとき、俺と憲吾はまだ寝ていた。結局、ここがどこの病院なのかすらも分からなかった。つーか、チーちゃんは俺がこうだってこと、知ってるのか? まぁ、心配されすぎても嫌だけど、心配されなさすぎってもの、ね。