チーちゃんの注意は・・・
ゲームセンター『ミッツ』店内。店の中ではクレーンゲームだのプリクラだのカードゲーム機だのカーゲームだの格ゲーだのの音で入り混じっていた。こないだチーちゃんと行ったゲーセンとはまた違う雰囲気が出ていた。
「なぁ! これやろうぜ」
憲吾が声をかける。
「何だよ、それ?」
基本的に中学校の規則で『遊戯場への出入り禁止』となっていたから、高校に入ってその威圧感に驚いた。しかも、財布やハンカチ、デジカメまでもが取れるというんだから驚きは増す。しかも、店では売っていない特殊な景品まである。今憲吾が指さしているのは俺にとっては特殊な景品の1つだった。
「ケータイホルダー」
そう。憲吾が欲しいのはキャラクターの絵が抱えている布と綿のケータイホルダーだ。俺は携帯くらい自分のポケットに入れれば良いと思うが、憲吾は違った。
「これをつけてれば女子の目が向く!」
何という不純な動機だろうか。俺は頭を抱えたくなった。それにしても……。女子というのは、憲吾がいうように、そんなに良いものなのだろうか? 俺の経験が少ないこともあるが、周りにいる女子が目立ちすぎる。チーちゃんに遠藤、それに奈津子。全員タイプは全然違うのに、凄い印象に残る。チーちゃんは卓球。遠藤は勉強。奈津子は、Sっ気。すごい……。
「とればいいじゃん」
俺は素っ気無く返した。どうせ、1回やってみればアームの強弱が分かる。さすがに、アームが弱いのにやるはずもないだろう。
「OK、OK。俺は絶対とる!」
そう言って憲吾は、財布から100円を取り出した。
「いっくぞ!」
100円玉が機械の中でバネに引っかかる音がしたと同時に、流れた音楽、光るボタン。
「……」
しばらくの沈黙。音楽の音が、ボタンを離すと変わる。それだけでも、憲吾の集中力は削れる。
「……おりゃっ」
2つ目のボタンを離すと、アームが下がった。アームが景品を掴むと同時に、離した。いや、正確に1回は握ったかのように見せた、だ。
「はぁ……」
ゲームセンターの景品はあんまり取れない。ちまちま金を掛けていく内に売値を超える。そんなこと、分かっているはずなのに、憲吾は止まらない。
「利信! この位置キープして! 俺、くずしておくから」
憲吾はそれだけ言い残して、両替機の前に立った。
「少し、動いたのか?」
動いたとしても数ミリ。しかも、俺の目では動いたことすら分からない程度なのか。憲吾のあの自信はどこから来るんだ? 結局、その景品には1000遣った。あっ、正確には1100円かな。
「あぁ、大損だよ……」
ゲームセンターの雰囲気で、いらないものまで取ってしまうのは、人間の性だろう。後々考えれば、そこまでいらない。今の憲吾の状態がそれだった。
「でも、女性の目はむくんだろ?」
俺は少し気にかけて、呟いた。
「まぁ、な? でも、良く考えれば、そこまで可愛い子がそこら辺にいるわけがない」
うんうん、明確は推測だな。人の価値観はそれぞれ違うけど、好みのタイプがそこら辺にいるなんて奴は、『変態』か『ストライクゾーンが広すぎる』のどちらかだろう。基本的に、人間なんてものはバランス良く作られる。
「利信は? 何か欲しいのないの?」
「いや、さっきから見てるけど、これといってはないな」
俺の正直な感想。俺はもともとあんまり欲がない。もちろん、卓球のときには欲はでる。でも、物を欲しがるとか、そういうのはないと自負している。
「そっか。じゃ、帰るか。俺も、今日は運がねぇみてぇだからさ」
「いつもだろ」
「うっせーての」
憲吾の発言に俺はつい口を開いた。やっぱりたまにはこういう息抜きも大切なんだな。俺はそう思った。そして、俺と憲吾は店を後にした。
交差点。踏み切りを前にして、俺と憲吾は自転車を止めた。
「2人で帰ると、中学思いだすよな」
不意に、憲吾が話し掛けた。
「そうかもな……。高校入ったら、元樹いたし」
「久しぶりだな」
周りには誰もいない。空は少し暗く、憲吾の顔すら少し見づらい。
「つーかさ……グッ!」
ガシャン! 自転車が横に倒れた時の部品が地面に触れる音がした。
「おい、どうしたんだよ?」
その時俺は、自分でも驚くくらい冷静だった。でも、
「おい、憲吾!」
憲吾の自転車から地面を伝って生温かい液体が俺の足に触れた。――血だ――。一瞬でわかった。だが、頭は動かない。やっと動いた行動が、携帯を取り出すということだった。なんで憲吾がこうなったかなんて、考えていなかった。
「大丈夫か、憲吾! くそっ、どうなって――」
それ以上は続けられなかった。自分の腹部に違和感を感じて、そこに触れる。熱い。憲吾とは違って、まだ熱かった。
「くそ、やろう……」
俺は自分の中にあった違和感を抜かれた途端に、上を見てハッとした。 それは、一番思い出したくなかった単語だった。まさか、自分が巻き込まれるなんて、想像もしてない。『通り魔』。
「チーちゃんの、注意は、確かだったな……」
メを瞑った。だが、確かに顔を見た。それは、俺が思い出したくない顔でもあった。犯人を、俺は、見――。
さてさて、利信がどうなるのか。それは僕自身もまだ分かりません(おいおい)。でも、確かなことは行っておきます。この『卓球&好きの物語』は、確かに恋愛小説です! では、次回をお楽しみにぃ。次回は、もう1人、意外な人物が出る予定です。 2011年2月18日23時51分。