疲れた後の車ってやつぁ、眠気を誘うのにピッタシだ。
江戸のイメージで作られた町並み。そこを俺とチーちゃんはキチンとコスプレしながら歩いている。
「うわぁ~! やっぱり何回見ても、トシは似合うね、その格好♪」
正直、この格好をほめられても嬉しくない。俺の格好は実に地味。町民。うん、ゲームだったら確実に『町民:A』ってなるな。
「ところでさ。私のはどう?」
「いや、うん。似合ってるけど」
チーちゃんの格好はお茶屋の娘。こちらはゲームでも変わらずの『お茶屋の娘』もしくは『娘』で表示されるな。
「つーかさ。いざ着てみれば、あんまさっきと変わんないよね?」
俺の言うさっきとは、メインで使われる広場だ。俺とチーちゃんが抹茶を飲んだ所。
「そう? 私はそう感じないけど」
能天気なチーちゃん。考えようによっては、こっちが『サブコート』あっちが『メインコート』って考え方かな? よく見れば、あっちには無かった店もあるし。
「ここは普通の『EDO』でいいんですよね?」
「あれ?」
いつの間にか、チーちゃんが横を走っていた籠屋さんに聞いていた。まぁ、俺の予想では、使えるでしょ。
「はい! 使えやす!」
やっぱりね。つか、言葉まで気にする人、いるんだなぁ。
「ありがと。これ、少ないけど」
チーちゃんは、さっき貰った金平糖を渡した。
「いや、もらえませんよ」
「いいって♪ 教えてもらった、お礼ですから」
「すいやせん。では、アッシたちはお客を待たせてるんで。お嬢さん方も気が向いたら是非」
籠屋さんは、にこやか笑顔を残して消えた。
「だってさ」
「何俺がさっきまでのチーちゃんと籠屋さんとの会話を聞いてるってことを前提で話してるのさ」
「だって、聞いてたでしょ? 聞き耳立てて」
そう言いながら、両手を少し丸めて耳につけるチーちゃん。
「うっさい」
俺は照れ隠し(なんで俺がやる必要があるのかさっぱりだけど)をしながら後ろを見た。改めてそのクオリティを確認する。
「何してるの?」
照れ隠しをしてるのを分かっているくせに俺に聞いてくるとは、コヤツ、性格が悪いな?!
「テスト勉強だよ、日本史の」
「あれ? トシって現代……」
チーちゃんが俺の矛盾を指摘し始めたので……。
「あぁ! あれだよ、ほら……。一応の勉強はしないとって思ってさ」
なんて、誤魔化しを入れる。
「――ねぇ、あの人達、チョーラブラブじゃね?」
「――俺とミサチンの方がもっとラブラブだよ♪」
近くで若い20代のバカップルの発言を聞いて、俺は速攻でチーちゃんの手を引いた。
「行こっ」
「へ? どこに?」
そんなもん、
「知るか!」
「トシ、ここに来てからテンションおかしいよ?」
「……」
そりゃそうだろうよ。原因は、俺にだってわからないんだから、無言になるしかない。
『サブコート』に名残惜しさを感じながらも、俺とチーちゃんは『メインコート』に帰ってきた。時計の時刻を見ると、出かけたのが遅かったからか、もう結構な時間を示していた。本当はもう少しいても大丈夫らしいんだけど、チーちゃんが行きたい場所があるらしい。
「お土産だけ買ってこうか?」
「……うん」
多分、チーちゃんはお土産なんて買う予定は無かったと思う。俺がお土産のコーナーを見ていたから、多分、気にしてくれたのか、な?
「これは憲吾で、これが元樹……後は……」
友達に買うお土産を探している途中で、懐かしい友の名を思い出した。長らく憲吾と元樹とは話をしていないような気がする。この連休が終わったらこのお土産でも肴に、話を盛り上げるかな。
「ねぇねぇ、トシ! コレ、お揃いで買おうよ!」
と、チーちゃんが差し出してきたのは、侍と町娘の2つのキーホルダー。1つのキーホルダーに、侍、もしくは町娘の模型と、半分になったハートの欠片が付いている。
「これね、持っていると幸せになれるんだって! 私とトシはもう幸せだけどぉ……」
チーちゃん、なんでそこで顔を赤らめる。
「まぁ、いいんじゃない?」
俺はここに入った礼を含めて、購入を許可した。
「やった♪ トシならきっと頷くと思った」
チーちゃんはステップを踏みながらレジに向った。
お土産のコーナーも後にして、駐車場。
「で、最後にどこ行くの?」
車に乗った瞬間、ドッと疲れが沸いてきた。風呂に入ってベットに潜りたかったが、今日は俺のわがままも言ってしまったため、最後くらいはチーちゃんに付き合う。
「秘密♪」
なぞめいた笑顔、怖い怖い。
そんな俺を横に、チーちゃんは嬉しそうに車を走らせた。……ヤバイ。車って、眠くなる……よね?
今回の話で江戸体験の話は終わりです。次回の予告を少しだけします。 次回は、ラブの入ったお話となっています。多分、2011年2月15日の日に更新できるのでは?と思っています。
2011年2月12日23時57分