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城峰コーチは酔っ払い?

 「あのぉ、城峰コーチ。知ってますか? 未成年を連れまわすのは罪なんスよ?」

寿先輩! 俺には寿先輩が神様のように感じられた。そうだ。こっちは未成年なんだ。

「大丈夫♪ まだ7時だから。保護者がいれば11時までは大丈夫なんだよ?」

城峰コーチも法律で対抗してくる。

「はぁ。諦めました」

俺は白旗を振った。あぁ。今月のお小遣いがぁ。俺は財布の中身を確認する。 俺の降参宣言に、他の先輩達も財布の中身を確認した。

「どうした生徒諸君! 私はこれでも大人だぞ? 今日は奢りだぁ」

「ラッキィ!」

荒木先輩は財布を即効でしまうと「カラオケ、カラオケ」と口ずさんでいた。他の先輩達も幸せそうな顔をしている。津貫高校に推薦で入った生徒はアルバイト禁止。だから皆親から貰ったお小遣いでなんとかしている。だから、奢りという言葉には弱い。

「じゃぁ、いざカラオケに出陣じゃぁ!」

「おぉ!!」

城峰コーチの言葉に、全員が反応した。もちろん俺も。

 

 場所は移ってカラオケ。城峰コーチがカウンターで受付をすませると、部屋に向った。人数も人数なので、割と広めの部屋だった。

「始める前に1言」

城峰コーチがどこと無く真面目な雰囲気をかもし出していた。大鉄先輩達含め、俺も、真剣に聞くことにした。

「私のこと、襲っちゃダメだよ?」

……。馬鹿なのか、この人は?

「誰も城峰コーチのことは襲わないに決まってんじゃん。だって、彼女いないの村井だけだもんな」

荒木先輩が余計な1言まで言ってしまった。

「へぇ。以外だねぇ。キミみたいのは可愛いからモテると思ったのにさ」

城峰コーチが俺に顔を近づけてきた。なんか緊張するんだよなぁ、こうゆうの。

「そりゃぁ、今は居ませんけど。前はいたんですよ!」

俺は荒木先輩と城峰コーチに言った。

「へぇ……」

荒木先輩は信じていないといった風にニヤニヤしていた。正直、キモい。

「と、とにかくっ! カラオケ来たんだから歌いましょうよ」

俺は照れ隠しにマイクを大鉄先輩に渡した。

「俺が最初!?」

大鉄先輩は半分戸惑いながらも、タッチパネル式のリモコンで曲を選択すると、歌いはじめた。

 その後も、全員でマイクを回しながら歌いまくった。先輩後輩コーチ関係なく。皆笑顔だった。スゲー楽しい!! これはお世辞とか顔色伺いとかじゃなくてさ。本当に、この先輩達でよかったと思う。

「ヒッ……! 若者ぉ。もっと歌え馬鹿ヤロー」

誰も彼も歌い疲れ、マイクを持たなくなった頃、1人の酔っ払いがマイクを持って叫んだ。

「うるさいですよ、コーチ」

いつもは自分の意見をハッキリといわない服部先輩が言ったのをみて、もう限界だなと思い始めた。

「じゃあ、今日は終わりにしますかっと」

時間を見計らってか、寿先輩が終了の合図をかけた。

「んじゃ、先生。財布預かりますよ」

城峰コーチが完全に無防備の状態で、森崎先輩が鞄の中になる財布をとった。

「いいんですか?」

俺は良心が痛むのは嫌なので一応注意を促す。

「いいのいいの! この人が奢りっていったんだしさ」

「……」

森崎先輩の軽い返事に、俺は頷きしかなかった。

 「ありがとうございましたぁ!」

店員さんの言葉を背にして、俺達はカラオケを出た。大鉄先輩は欠伸をしていた。

「んじゃ、今日は解散だ! じゃな」

「はい、さようなら」

森崎先輩は大鉄先輩に挨拶をしていた。それに続いて、荒木先輩と俺もお辞儀をした。

「じゃ、俺達も帰るか」

「そうだね」

寿先輩と服部先輩は同じマンションに住んでいるので、いつも一緒に帰っている。

「さようならぁ」

俺は2人に挨拶をした。後輩が残るのは当然の約束事として、男子卓球部に受け継がれている。

「俺と荒木は一緒の方向だから、じゃね、村井」

「おぉ! じゃぁ~な!」

荒木先輩と森崎先輩がカラオケから姿が見えなくなるのを待って、俺は鞄を背負いなおした。

「さてと、俺も帰るか」

自分にそう告げると、後ろに違和感を感じた。

「ん?」

後ろを見ると『酔っ払い』がいた。

「ハァ……どうしよ?」

俺は1人で困っていると、一応声をかけた。

「城峰コーチ、もう終わりですよ。帰りましょ」

「ん~? もぉ、終わりぃ? や、だ……」

「やだって、子供かよ」

俺は本当に困った。俺は今使える最大限の頭脳を使って、ケータイを取り出すことを考えた。

『今日、帰ってくる?』

そうメールを送ったのは、母親の村井 幸子(むらい さちこ)だ。

 俺の電話帳の『身内グループ』に『父親』という文字はない。父親は俺が生まれる前に他界したらしく、お母さんがここまで育ててくれた。普通、母子家庭は苦労が多いんだろうけど、家は幸福なことにそんな心配はない。お母さんは医師で収入も多い。だが――あんまり俺と顔を合わせることはない。夜勤が多いことが一番の理由で、俺が帰ってくる前に仕事に出かけて、俺が帰ってくる前に行く。休みの日でもない限り会うことはない。

 俺のそんな考えが終わった頃、ケータイが鳴った。

『帰れない。多分、明日は休みになるかもしれない。あっ! 彼女とか連れ込んでもいいけど、襲っちゃだめよ。まだ未成年なんだから』

『彼女いねぇし』

俺は長々と書かれたお母さんのメールに短く返した。つーか、その未成年にそんなメールすんなよな。

「とにかく、今日は大丈夫みたいだな」

俺はそう言いながら『酔っ払い』をみた。

「よっこらしょ」

俺は『酔っ払い』という名の『城峰コーチ』を背負いながら帰路に着いた。

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