江戸体験之巻 PART1
午前中、とはいっても、もう遅めの午前中に突入し、俺とチーちゃんは車で『江戸体験』に向っていた。
「まだ?」
俺は興奮を待てずにチーちゃんを急かした。中学校時代、社会のテストで70点以上を出したのは公民だけで、歴史と地理は50点いけば良い方だったのは関係ない。
「もう少しで着くと思うけど……。何? そんなに嬉しいの?」
「うん、まぁ、少しくらいはね? 折角の旅行だし、楽しまないと、心が壊れちゃうでしょ」
俺は本心を本音のまま吐き出した。元々、自分の意見を隠すのが苦手だった。
「ほら、見えたよ」
チーちゃんが右手をハンドルから離して指をさした。
「あっ……」
絶句。今俺が持ちうる語句を絶つ。正にそれだった。一昨日までここを馬鹿にしていた俺が馬鹿だ。大きな門を前にしてから心が揺れた。
「大丈夫?」
俺はそう口にした。理由がないのに、なんでだろう?多分、大きな門を前にして、自分でも怖がっているんだと思う。はは……餓鬼かよ、俺。
「大丈夫!」
何が!? 俺の質問に答えてくれたのは嬉しいけど、絶対意味わかってないと思うけど。
「いらっしゃいませ!」
バイト風の20代前半の係員さんが俺とチーちゃんを出迎えた。入場料は無料。それだけで何だかお得した感じだ。
「どこいく?」
チーちゃんが俺に尋ねてくる。何時の間に取ったのか、地図を手に持っていた。
「えっと……、ここでもいい?」
俺が指したのは江戸の城下町をイメージしたらしい場所だった。
「OK。じゃ、行きますか」
チーちゃんは地図にしたがって歩いていった。
そこに着くと、そこは江戸の風景、雰囲気その物だった。学校で教わったイメージと同じ、忠実に再現できている、と思う。でも、実際こんなだったかなんて、誰でも証明できないでしょ? だって、昔には戻れない。後悔なんて、ムダなだけなんだから。
「わぁ~! 思ってたより、豪華だねぇ」
チーちゃんは早速目を輝かせていた。
「あっ、あそこ行こーよぉ~!」
チーちゃんが指した先には『茶』の文字。しかも、その茶が丸で囲まれている。今でいう、喫茶店だな。商品までは同じじゃないで欲しい。それが、俺の望み。
『御品書き』
おっ、いいねぇ。雰囲気でるよ。
『抹茶。抹茶と芋羊羹。……』
その後にも色々続いていたが、俺は抹茶を頼んだ。チーちゃんはそれに芋羊羹も。
「お待ちどうさんね」
割烹着を着たオバサンが持ってきた。
「旅行かい? いいねぇ、若いってのは……」
オバサンは遠くを見つめながら行った。デートではなく旅行と言ったのは、江戸の雰囲気を出すためか? その疑問の前に俺には訂正する箇所があった。
「はい。まぁ、旅行っていうよりは合宿に近いですけどね」
「い~え~! 違いますのよぉ。これは、新婚旅行でございますのぉ」
「……」
オバサンの目が点と化している。
「チーちゃん、言葉遣い、間違っているよ……」
「え? マジで?」
マジとか言っている時点で間違っていると思ったが、俺は黙っていた。オバサンは愛想笑いを残して戻った。
「いただきます」
俺は1言だけ言って抹茶を啜った。
「美味い……」
本当に美味しかった。変な苦味もなかったし、スッキリしていた。後味もいい!
「ねぇねぇトシ。知ってる? 『おいしい』と『うまい』じゃぁ、どっちが丁寧でしょうか?」
チーちゃんがドヤ顔で俺に聞いてきた。いつもならスルーするところだけど、今は調子がいい。だから答える。
「普通に考えれば、『おいしい』、でしょ?」
俺が答えると、チーちゃんはニヤと笑った。
「残念♪ 正解は『うまい』でした!」
「え、何で?」
俺は思ったことをそのまま言った。おいしいのほうが、気品があるのに……。
「昔は、甘いものがとっても高価だったのね。それで、それが変形して、『うまい』になったってわけ。中学校で習わなかった?」
「いや、……知らないけど」
チーちゃんの豆知識はそこで終了した。そして、抹茶の方でもタイミングを計ったのか、飲み終わった。
「おいしかったでぇす」
チーちゃんがお金を置くと、さっきのオバサンが意外そうな顔をした。
「お客さん、ここでは日本円は使えないよ。ちゃんと換金しないと」
「え? どういうことですか?」
「ほら」
チーちゃんが聞くと、オバサンはパンフレットの下を見せた。
『注意。当施設内では、日本円を100円→1EDOとして、換金します。当施設を利用する際には、EDOでのお支払となりますので、入場しましたら、換金所で換金をしますようにお願い申し上げます。ご不便だとは思いますが、ご了承ください』
と。
「チーちゃん……?」
俺はチーちゃんの顔を見た。チーちゃんの顔からは、『知りませんでした』の文字が浮かんでいるようにも見えた。
「急いで換金してきます! あの、だから、ちょっと……」
チーちゃんの言葉が終わらないうちに、オバサンが声を出した。
「待ってるよ! それが、心意気だからね!」
「ありがとうございますっ。トシ、ちょっと待っててね!」
チーちゃんはそう言い残し、猛ダッシュで換金所に向った。
「いい娘だね。お客さんは良い女を見つけたよ……」
「俺、ですか?」
オバサンがいきなり俺に話しかけてきたから、正直驚いた。
「そうだよ。お客さん意外は、皆EDOを持ってるからね」
オバサン、いい年なんだから『EDO』って滑らかな発音じゃなくて『エド』って言ってください。 俺は心の中でそう祈った。
数分後、チーちゃんがお店にやってきて、300『EDO』を払った。
こんにちは。江戸体験篇、話を跨ぐ形となりました。すみません。でも、よりリアルな描写をしたいと思っていますので、このような形になりました(リアルさが、僕は出ていませんが(笑))。それでは、また書きあがりましたら、更新させていただきます。2011年2月5日。21時23分。