認められた。
「もぉ、ムリ……です……!」
最初に我慢が出来なくなったのは、服部先輩だった。元々体力ないからなぁ……でも、それは服部先輩に限ったことじゃない。分速250メートルは全員、諦めた。まず、最初のテンションで走った時点で俺らの敗北は決まっていた。
「先輩、あと、何周ですか?」
「ん? 5周だ。服部、辛かったらムリするなよ?」
「う、うん」
服部先輩は、大鉄先輩の言葉に従ってスピードを落とした。津貫高校の周りは750メートル。だから、20周走れば15キロになる。あと、5周か……。短いのか、長いのか。
「ほら~! 集中しなさ~い。この後の練習考えて動くのよぉ」
チーちゃん曰く、この辛さの後に通常メニュー、チーちゃんが個人個人に与えたメニューを行うらしい。そうすることで、自然と体が体力と時間のバランスを整えるらしい。
「ハッ! ……きっちぃ、どころじゃねぇよ……!!」
次にスピードを落としたのは荒木先輩だ。
「卓球人は元々体力、ないし……」
次は森崎先輩だった。森崎先輩、俺、結構体力自信ありますよ? 足腰を鍛えるために走りまくったし。
「おいおい、後は、俺に暁に村井ッスかぁ。まだまだダネ。村井も、無茶すんなよ?」
「先輩にも、負ける気しませんけどね……!!」
「言うようになったなぁ、1年のくせにっ」
大鉄先輩は、いつも以上に元気を振りまいていると思う。こんな状態で、これだけの声を出せるなんて、凄い。
「はいっ。終了ぉ~~!!」
「「「ハッ、ハァァァァァァァァァァァ!!!」」」
俺達は、息をこれでもかってくらい吐き出した。少しでも、体を軽くしたかった。
「これから、毎日体力トレーニングだな……」
大鉄先輩、さっきチーちゃんが言ってたこと、言わないでくださいよ。今は、現実逃避中なんで。 でも、予想以上に辛い。走り込みって、こんなにキツかったっけ?
「よしっ。練習するよ」
チーちゃんも……。なんで皆、休まないの? 寿先輩も、大鉄先輩も、もう立ち上がってる。やっぱ、格が違うよ。
「じゃ、今日の練習相手発表します」
チーちゃんの声に反応して、俺はチーちゃんを見つめる。
「今日は、服部くんと荒木くん。寿くんと森崎くん。大鉄くんと、トシです。メニューは各自でいつもどおり練習してくれれば結構です」
チーちゃんは言いたいことだけ言うと、さっさと部室を後にした。 大鉄先輩と、卓球……。嬉しい、それが第一に湧き上がった感情。それで、次に来た感情が……『不安』。今の時点の俺でどの辺りまで通用するのか。それが気になる。今までだって、大鉄先輩とは練習を幾度となくやった。でも、今回は違う。
「大鉄先輩、よろしくお願いします」
「あ、あぁ。負けねぇぞ」
試合。
「もちろんです。俺も、勝つ気ですから」
大鉄先輩との試合は初めてだ。チーちゃんがいつもどおりの練習、と言ったのだから間違いない。この時間なら、もう試合の時間だ。
「じゃんけんぽんっ」
俺がグーで先輩がパー。勝った。けど、
「じゃぁ、レシーブで」
あえて、サーブは選ばない。まずは、相手の球質を見る。それが、俺の、中学時代に日本1位に輝いた、村井利信の、戦術!!
「ファーストゲーム。ラブオール」
大鉄先輩の口から、流暢な英語が流れる。先輩の左手のが上がった。トス。ボールが上がる。……来る!!
「ぐっ」
正直、サーブでここまで重い球は初めてだった。本当に、返すだけで、言葉が漏れる。
「悪いな。ここからが、俺の、戦法だ……!」
大鉄先輩が笑った……?
「嘘……ですよね?」
「出たッスねぇ♪ 暁の、得意戦術。サーブで相手の動揺を誘って、ドライブ|(回転がかかった強打)で決める」
ドライブ……? それこそ、嘘だろ。今の感触は、スマッシュ|(強打)。これが、
「高校1位実力、ッスかねぇ?」
寿先輩が横で解説をしてくれていなければ、間違いなく、俺はスマッシュと判断して、また同じ過ちを繰り返すとこだった。有難う御座います、寿先輩。
「ビビったか? 少しくらいは」
「……先輩には悪いですけど。全然ですよ」
わざと強がる。相手が強ければ強いほど、俺は、高みを目指せる。
シュンッ……! ラケットが、風を切る音。冷静になって考えてみれば、それが下回転ってことが分かる。だから……俺はツッツキ|(下回転のレシーブ)を、的確に、俺からみて右。先輩からみると左に返す。
「ふつうなら、ムリですよね?」
でも、先輩は普通じゃない。絶対に、拾うはずだ。ボールを。
「普通だよ。執着心くらいな」
先輩は、ドライブのモーションに入った。 ラケットがボールを捕らえた瞬間、先輩の口が緩んだ。
「甘いですよ。先輩」
ダンッ!! もしかすると、『ダンッ!!』よりも『カンッ!!』の方が良かったかもしれない。でも、今は『ダンッ!!』って聞こえたんだから仕方ない。
「おぉ……!」
大鉄先輩が、初めて俺を認めてくれた日だった。
ラブが最近ない気がしますね(スミマセン)。
どうしても、卓球と恋愛を結びつけると、僕の性格上、卓球に偏るような気がします。
でも、大鉄先輩との試合が終わったら、ラブにいく予定なので! もう少しまってくださいね?
それでは、また次話で。