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『紅葉日和』

 「奈津子、何すんだよ?」

俺はこれでもデートの心得を得ている自信がある。中1の時のデートでテンションがおかしいくらいに上がったのは関係ない。

「どうするって、利信が行くところに行くよ」

「マジで? 俺、行きたいとこ特にねぇぞ」

それに、俺は家に帰るつもりだったしな……とは続けないほうが良いみたいだな。

「全く、それでも思春期の男子? こんなに可愛い女の子が一緒に歩いてやるって言ってんのに……。私は心配だよ」

「心配してくれて、どーも。でも、結構でございますです、はい」

俺は日本語が少し狂ったかな? と感じたが特に気にもせず奈津子に続けた。

「それに、女子の方が欲求が多いんじゃねーのかよ? お前、欲しいもんとかねぇの? あっ、買ってやるとか気前の良いことは言わないからな」

「はいはい。分かってるわよ。でも、女の子に何も買わないって……」

「お前は彼女じゃねーだろう? それとも、彼女になってくれるのか?」

嫌味全開で奈津子にぶつける。――でもまぁ……真面目な話で。奈津子って、可愛いよな。普通に彼女でありだと思うけど――。

「はぁ?! 利信がこんな冗談言うと思わなかったぁ」

まぁ……コイツ――いや、もしかしたら他の女子全般を含む?――に嫌味で勝てる気は全くしてなかったわけで。

「うっせ。で? どこ行くんだよ?」

話を無理矢理にでも戻そうと試みる。だって、そうでもしねぇと俺の心折れちゃうかもだから。

「ん~と……。映画でも観る? 一番楽じゃん」

「映画か……たまにはいいかもな」

俺たちはそう即決すると、外に出た。図書館から出るときに気が付いたんだけど、周りの高校生や大学生、中学生が俺たちを見て少し気まずそうにしていた。 本当に、お騒がせしました。勉強、頑張ってください!! 俺はそう強く念じた。

 映画館。受付の前に、今上映されている映画のタイトルが7、8個あった。洋画から日本映画まで様々だ。奈津子はその内の1つを指さした。

「これ、一回観たかったんだけどさ……。ほら、こうゆうのって彼氏持ちが多いからさぁ」

へぇ。意外な一面もあったもんだ。あの奈津子が人目を気にするなんてな。俺は目をタイトルに移した。『紅葉日和』。恋愛映画だな。自分で映画で了解しといて悪いとは思うけど、多分寝る。俺は恋愛系のものは受付ないんだ。

「おら、チケットくらいは俺が払っといてやるよ」

「本当!? ありがとう」

ん……。何か、素直にありがとうって言われるのって、照れくさくなんない? 俺だけ?

 席につくと、奈津子の予測どおり、カップルで席は埋まっていた。しかも、映画館側の遠慮なのか、1カップルの隣は1つ席が空いていた。正直、そんな気遣いはいらない。

「面白いよ、きっと」

「俺は、奈津子を信じるよ。お前とは結構趣味合うからな」

うん、我ながら変な台詞だと思う。

 1時間50分くらいがたった。映画ももうクライマックスに近づいている。

「美千子(みちこ)!! 僕は、お前しか見えてない」

へぇ、視力障害かなんかですか?

(ただし)さん……。愛してるわ」

僕もだよ。

「僕もだよ、美千子」

当った。なんか、ほら、うん、普通にさ、えっと……。めっちゃスタンダードです。今どきこんな恋愛中の恋愛映画の方が珍しいからか? 皆目をうるうるさせてる。つーかさ、文句言っていい? なんで映画の彼女って彼氏が浮気しても許すの? どんだけ寛大な心持ってんだよ?

「あっ。この曲知ってる」

エンディングをむかえて、主題歌と共に出演者一覧が流れる。この映画の主題歌はCMで少し聞いたことがあった。 あんんまり有名な人が出ていなかったけど、その分なんか現実みたいだったなぁ、とは思う。でも、話は俺向きじゃなかったな。隣を見ると、奈津子も納得がいかないいみたいだった。

「なぁ~んか、名前負けしてる感じだったなぁ。紅葉あんま意味なかったし」

映画評論家のように奈津子は真剣な眼だ。

「そうだ、上の本屋みていい?」

「いいけど、何か欲しいものでもできたか?」

俺の問いに、奈津子は黙って頷いた。

 本屋に着くと、奈津子はすぐに小説のコーナーに動いた。少し探していた様子が見えたけど、すぐに1冊の本を手にとった。

「何の本だよ?」

俺は本を覗いてみてみる。『君と見た四季』。

「今日の映画の原作だよ。タイトルが違かったからさ、少し迷ったけど」

奈津子は少し笑った。

「映画には文句言ってたくせにな」

「でも、小説は面白いかもしれないでしょ?」

「そうゆーもんかねぇ」

基本的に好きな作家の本しか読まない俺にとって、映画の原作を探してまで読む神経が分からない。

「じゃ、買ってくるね」

「おぉ、ここで待ってる」

俺はそこで一旦奈津子と別れた。

 「お待たせ」

奈津子は支払いを済ませると、俺の所に小走りで走ってきた。

「じゃぁ、帰ろうよ」

奈津子の意見に俺は黙って頷いた。時間はもう4時をさしていた。何でこんな時間が経ってるかって? それは、俺が真面目に勉強したからです。

 「……」

「……」

帰り道で、何も話さない。自転車だったら何か話題は出るとは思ったけど、今は歩きだ。元々図書館で終了の予定だったから自転車でこなかったんだ。

「何か話せよ」

「利信が話してよ」

「話題ねーんだ」

俺が言うと、奈津子は少し考えたようで、すぐに話題を出した。

「利信さ、もし、もしだよ? 私が彼女だったらどうする?」

「何言ってんだよ?」

俺は奈津子の悪い冗談かと思い、特に考えなかった。

「いや、だからもしよ」

「ん~。そうだなぁ」

奈津子だったら申し分はほとんどないな。小学生の頃となんら変わんないで接することもできるしなぁ。でも、どっちかって言うと、キョウダイ的な感じなんだよな。だからと言ってそう言うと、奈津子はこれでも『女性』だからさ……。

「今はよく分かんないな。今は今で卓球が楽しいし、もっとやりこみたいからさ」

「そっか。だよね。私も、頑張らないとね」

今思いだすと、奈津子は陸上部だったんだよな。

「高校でも陸上やってんのか?」

「うん」

「そっか」

俺は自分でも思う。『俺は単語で返答する!』。でも、俺の性格だから仕方ないよね?

「利信、卓球、頑張ってね。新聞のったら『良い子良い子』してあげるからさ」

「バッ! もぉ子供じゃねーんだ。冗談にしろよ」

「いや、冗談だって……。そうやって本気にするからまだ子供なのよ」

コイツゥゥ!! 

「変わらねぇな~。お前さ」

何か、今日は嫌味連発の気がする。

「利信は、変わったよ。なんか、たくましくなった」

「そうか? うれしいよ」

それに、今日はなんか素直になれた。奈津子――つーか懐かしい人――と会うと、素直になれんのか?

「あっ、私ここ左だから。じゃね、頑張って」

「お前もな」

「うん、じゃぁね」

「あぁ、バイバイ」

俺は奈津子が左に曲がったのを確認して、右に曲がった。 ……今思うとさ、女の子を1人で帰させるのって、マナー違反じゃない? まっ、今までも違反してたようなものだからいいかな。

 家に着くと、電気はついてなかった。

「チーちゃん、帰ってきてないのか?」

咄嗟にケータイを開く。『新着:1件』と表示された画面。メールの内容はこれだ。

『ごめん! 今日、仕事が入っちゃってさぁ(笑)。今日は帰れなくなっちゃった。もう1人でも大丈夫だよね? 戸締りよろしく。帰ったら話すこともあるし。じゃ~ね~。 byトシが好きな人』

冗談満載のメールを閉じた俺はある疑問があった。

「話すことってなんだよ?」

チーちゃんの場合、こうゆうときは怖いんだよなぁ……。

 俺は少しの不安を持って家に入った。

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