久しぶりの真剣な会話。
今回はラブコメ要素ないです。(今までもあったかって言われると不安ですけど)
遠藤がいなくなり、俺1人になった保健室。俺は、近くに置いてあった鞄を持つと、保健室をでた。
廊下に出ると、遠くで遠藤の後姿が見えたが、さすがに声は掛けられなかった。
「失礼します」
職員室に入ると、そこにチーちゃんの姿は無かった。まぁ、この時間なら当然っちゃ当然だけど……。
「おっ、村井。もういいのか?」
「あ、はい」
俺に声をかけてきた中年の教師に、俺は頭を下げた。
「アイツは、そんなすぐに手を出す奴じゃないと思ったんだけどなぁ」
遠くを見つめながらそう言う教師。おいおい。でも、あの先輩、超簡単に手ぇ出したぜ?
「大丈夫です。じゃぁ、俺帰ります」
「うん。じゃぁな。テスト勉強頑張れよ」
「はい」
俺はそういい残すと、職員室を出た。
校門に出て、ケータイを開く。
『新着メール:3件 着信通知:2件』
と出ていた。どれも、憲吾たちだった。全部『なんでこねぇんだよ?』とかいう文だった。
「悪ぃことしたな」
反省をしつつ、校門を抜ける。空はもう暗かった。なんだか、虚しい気持ちでいっぱいだった。なんつーか、心っていうかさ? 分かる? 冗談でもいいから、分かるって言って?
家に着く。なんだか、入りづらい。 基本的に、チーちゃんは感情が顔で出やすい。怒っているときは顔を真っ赤にするし、嬉しいと、ニヤニヤする。だから、今日はどっちなのか分からなかった。俺が遠藤を助けたことしか知らなかったらほめてくれるだろう。でも、振ったことを知っているとするならば、「なんでもっと言葉選ばなかったの!?」と激怒するだろう。
「よしっ」
でも、だからって家に帰らないわけにはいかない。俺は覚悟を決めて鍵を取り出して、鍵穴にさした。ガチャン。金属の外れる音がして、ドアのロックが解除された。
「ただいま」
電気はついている。
「おかえりぃ」
どっちだ? チーちゃんの足音が近づいてくる。階段を下りる音がするから、寝室にいたのか?
「……」
「……」
しばらくの間、俺とチーちゃんとで沈黙が続く。
「何?」
「何って?」
チーちゃんの突然の発言に、俺は疑問符を疑問符で返すという荒業を行った。
「いや、ジロジロ見てきたからさ」
「見てないし」
「上がれば?」
「うん」
なんか、今日のチーちゃん、冷たい気がする。まぁ、本当はこれくらいなんだろうけど。チーちゃんは普通が意外だから、怖い。
兎に角、俺は家に入った。いや、正しくは『入れてもらった』だな。昨日のことを考えればわかると思うけど、チーちゃんの説教は玄関で行われる。反省するまでずっと玄関だ。だから、家に入れるのはめっちゃくちゃ嬉しいってわけ。
「夕飯、食べた?」
「まだ。トシと一緒に食べようと思って……」
そこまで言うと、チーちゃんはクルッと半周りして俺と向かい合った。
「あぁ~~~!! もう我慢できない! トシ!」
「はいっ!」
チーちゃんの声に、俺は気を付けの姿勢になってしまった。やばい……。怒られる。
「よくやった!!! 遠藤さんを守るなんて……私、感動しちゃった」
え? ほめられた?
「チー、ちゃん?」
「遠藤さんを襲った痴漢野郎から守ったんでしょ? 偉いよ!」
「いや、うん。ありがとう。でもね」
ここで止めておけばよかったのかもしれない。
「フッタんだよ、遠藤のこと」
俺の発言に、チーちゃんは笑顔を崩さない。
「怒らないの?」
「なんで怒るしかないの? だって、トシは私のモノなんだから、振って正解に決まってるじゃん!」
あぁ、そうゆうこと。
「もし遠藤さんの告白にOKしたら、怒ってたけどね」
「でも、昨日は応援してたじゃん」
「それはそれ。これこれ! さすがに、私の恋敵になったら容赦しないよ」
ハハ……女って奴ァ。怖いってもんじゃねぇよ。
「そうだ! 明日って土曜日でしょ? 久しぶりに2人でどっか行こうよ!」
「いや、でも俺月曜日テストがあるんだけど……」
俺のささやかな抵抗。皆さん、応援してね?
「大丈夫! なんとかなるって!」
「いや、でも課題残ってるしさ」
「それも大丈夫。さっき私が片付けたから。それも、トシと全く同じ字でね」
「でも、勉強が……」
「私が教えてやるっての! 帝國大学の脳みそ、舐めちゃやーよ!」
うん、応援ありがとうございました。抵抗は、虚しく散りました。
「分かりました。で? どこいくの?」
「う~んと。ショッピングでしょ? ゲーセンでしょ?」
1人で明日の予定をポンポン出していくチーちゃん。つーか、ショッピングにゲーセンって、ただチーちゃんが行きたいだけじゃん。
「あっ」
突然、真剣な顔つきになって俺を見つめたチーちゃん。
「明日、これも行こ」
? をつけずにチーちゃんはチラシを見せた。そこには、『大学卓球親善試合』と書かれていた。そこには招待ゲストチームとして『帝國大学』の名前もあった。俺は、体が熱くなるのを感じた。正直、体が熱くなるのって、漫画の世界だけかと思ってたけど……本当にあるんだな。
「チーちゃん、これもって、帝國大学が出るなら、最初から行ったほうがいいんじゃないの?」
「帝國大学っていってもさ。Sチームが出るのは、3時からなんだよね」
「そうなんだ」
俺は冷静さを保っていられるか心配だった。チーちゃんはどうやらSチームしか見ないらしい。
「じゃぁ、明日ね。俺、風呂入ってくる」
「あっ。ご飯は?」
「ごめん。今、喉通らないかもしれない」
「分かった。じゃぁ、明日の9時にリビングで」
「うん」
俺は心の奥からチーちゃんに謝って風呂場に向った。