私立津貫高等学校男子卓球部
――今思えば……偶然ってくらい偶然だったのかも知れない。――
初めまして。俺の名前は村井 利信(むらい としのぶ)、高校1年をやらせてもらってます。俺のクラスは1年4組。中々良いクラス。中学校時代からの友達もいるしな。で、今は掃除の時間。俺の通う『私立津貫(つぬき)高等学校』は、全日程を終えてから掃除をする。あっ。私立って聞いて公立落ちたって思った人、それは間違い。俺は進んで私立に入ったの! 俺の部活は卓球で、この高校は卓球で全国大会までいってるから、この高校を選んだってわけ。そこんところ、間違えないでよ。と、前置きはこんくらいにしとこうかなぁ。
「なぁ、ノブ? 今日も部活行くの?」
「ん? あぁ。多分、つーか絶対いく」
大会が近い俺にこんなことを聞いてくるのは、高校になって友達になった津川 元樹(つがわ もとき)。コイツは中学時代からの帰宅部らしい。
「何で高校行ってまで部活に燃えるかねぇ? 俺にはその神経は分からん!」
元樹は帚(ほうき)を振り回した。
「分からんって、お前は部活やったことねーだろ」
元樹の発言に、後ろからツッコミを入れるのは中学時代からの親友の文沢 憲吾(ふみさわ けんご)。元樹と憲吾は高校に入ってからボケとツッコミって感じ。んで、俺はそれを観る観客って所だな。
「そーいや、そろそろ掃除終わりじゃね?」
「そうだな。あてと、終わり終わり」
俺は憲吾の意見に賛成し、帚をしまう。机の移動をしなくていいのは楽だが、3人教室の掃除で3人とも帚って……。まっ、俺も雑巾をしようなんて率先していうほど優等生じゃない。
「帰ろぉぜ」
生徒が全員帰ってきてなくても終わったら帰っていいっていう制度も嬉しい。元樹は鞄を持って帰る準備をしている。
「そーだな。俺も帰る。じゃなっ、利信」
「あぁ。じゃ」
俺は2人に挨拶を交わした。2人が出て行ったのを見計らって、鞄を持つ。
「こんにちわ」
「うん、こんにちわ」
名前も知らない先生が横を通ったので一応形式だけ挨拶をする。この高校に入学してから随分と経つけど、名前は仕方がないとして、顔も知らない先生がいるとは思わなかった。だけど、その先生の顔は印象がとても強かった。美人ではなかったと思う。どちらかといえば『普通』。髪はもちろん黒。眼もそこまで大きくはないし、顔を包むくらいの髪の長さ。鼻も低くも高くもない。なのに、印象に残った。自分じゃあ、説明はできない。
兎に角、俺は部室に向う。
「こんちわーっ」
俺はドアを開けると同時に声を張り上げた。
「おぉ! 村井」
そう俺を出迎えてくれたのは私立津貫高等学校男子卓球部部長の大鉄 暁(おおてつ さとる)先輩だ。中には大鉄先輩以外にも、3年の服部 勇介(はっとり ゆうすけ)先輩に寿 流(ことぶき ながれ)先輩。2年の森崎 茂(もりさき しげる)先輩に荒木 渉(あらき わたる)先輩がいた。部員は俺を含んで6人だけ。しかも全員推薦だ。(えっへん! とかいってみる) 津貫高校は卓球を始めとした運動部活動に力を入れている。しかも全部活の部員は推薦だ。もちろんサッカー部とか野球部、バレーボール部、バスケットボール部には補欠を含む人数を推薦で入れているのだが、卓球部のみは少しおかしくて。団体戦ギリギリの6人しか入れない。今年スポーツ推薦で入ったのは俺だけ。 高校に入ってから部活に入れるのは文化部だけだ。
「どうだ? 今日は俺とやってみる?」
森崎先輩が誘ってくる。この人は先輩後輩関係なく話しを持ってくるから親しみやすい。
「はい。お願いします」
俺は鞄をその辺に置くとラケットを持って台についた。
「じゃぁ、イクゼ?」
「はいっ」
一瞬、森崎先輩から風を感じた気がする。
もうそこからは玉が打たれる音しか聞こえない。俺も実力がある方だとは思っていたが、この高校に入ってからは愕然とした。自分の力不足を心底感じた。推薦なんてまだまだ。試合にでても最後の5番手で試合が回ってきたことがないんだもんな。
「ハァ……ハァ……」
「どうした? もうバテたか?」
「はい、すみません」
「仕方ねぇて。最初はな」
「ハハッ……最初ッスか? すみません、少し、水飲んできます」
「おお、行って来い」
森崎先輩から許可を貰った俺は、外に出て水を飲みに行った。
部室を出て行くときに周りの先輩を見たんだけど、やっぱ凄い……! いつもはヘラヘラしている先輩達が(言い方不味いかな?)本気になっていた。実力もそうだけど、一番感じたのは『楽しんでやってる』ということ。この5人の先輩を観ていると、本当に卓球が好きなんだと思う。俺も負ける気はしないけどね。
「……ップハァ! ……うめぇ」
この高校は私立のためか水は井戸水らしい。だからめっちゃうまい。こういうときに推薦だと嬉しい。卓球頑張れば、奨学金が出るんだからさ。他の5人の先輩は全員奨学金で通っているって噂だ。もちろんそんなこと聞かないけど。
俺が部室に戻ろうとしたとき、あの人が、部室に入っていった。
「大鉄先輩、新しい顧問来るって言ってなかったよな?」
俺はそんな疑問を持ちながら部室に戻った。
1話目です! (そんなこと分かってるよ、とかツッコまないでください)
久しぶりの恋愛物なんですが、どうでしたでしょうか?
この話では初恋の女性は出てこなかったのですが……。
次話では出てくる予定です。
今回の話はなぜかスラスラ書けました。(やっぱり好きなんでしょうね、こうゆう系のやつ)
では、次話をお楽しみにぃ~!