イモバイト
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
おこづかい。
この言葉を聞いて、胸が躍らない人は少数派じゃなかろうか。
人間、金銭の価値は身に沁みているもの。生まれたその時からずっとお金に恵まれていたもの以外は、どうにかして確保しておくべきものであると、全身に刻まれてしまう。
人を釣り、動かすにもやはりお金は重要だ。これほど目に見える報酬はそうそうないからな。言葉とかの礼は、その場限りではうれしいものだし、あとで思い出してほくほくすることはできるが、その間もお腹は減るもんだ。
お腹を満たすには、たいていお金を支払うもので、心身を整えるにはあったほうがいい。そのため、世にはさまざまなお金稼ぎの方法があり、度が過ぎたものを取り締まる法だってある。金への関心は、もはや世界がいっぺんにどうにかなるまでは失われることはないかもしれない。
私のむかしの体験なのだけどね、聞いてみないか?
「ねえねえ、お金稼ぎに行こうよ」
そう誘ってくれたのが、当時の友達。お互いに、まだ小学生くらいのときだった。
まだまだ、親の手伝いでお駄賃がもらえるかどうか、というのが似つかわしい年ごろ。そのようなときにこう誘われては、頭に「?」がまず出てくるのも無理からぬものだろう。
稼ぎ、とつけるからには、他人様のお財布からくすねるような後ろめたそうな手段ではないらしい。その点では安心できるけれど、稼ぐということは労働に従事するということだろう。
いったい、何をやらされるのか。そして今は日曜日の午前中と来ていて、ここから飛び入りでやれるものとかが存在するのか?
そのような言葉を返すと、友達はさっと指を西側にある小山へ向けた。
「あそこのてっぺんでやるんだよ。時間が限られるから行くなら今。そして今だけ。どうする?」
小山そのものの存在は知っている。某高等学校の校舎とその運動場が面積を占めているものの、みんなが使う公園も存在していた。そこのことを指しているのだろう、と。
予想していた通り、友達の先導に従ったところ件の公園へたどり着く。
山の上ということで、低いところに新しい公園ができてからは、ほとんどの子供はそちらへ流され気味だった。私もそのうちのひとりだったから、かの公園に行くのは久しぶりだったよ。
遊具やベンチなどの位置は変わっていない。けれども普段と違うのは、友達のお母さんがリヤカーを用意しながらそこで待っていたことだ。私たちの姿を認めると、手を振ってくれる。
「悪いねえ、手伝ってもらえるのかい? きっちりお金は払うからよろしくお願いするね」
小学生にこういう形でお金を払っていいのだろうか? という考えもちらりと頭をよぎったけれど、細かいことはうっちゃっておくことにした。
それにしてもリヤカーとは。二つのタイヤに四方を板で固めた、当時としては見慣れたものだったが、友達の家からここまでがけっこうな高低差があったはず。人力で運ぶには、そうとう苦労したと思われるが、それだけの価値あることがこれから起こるのか?
私は友達とその母親に促されるまま、空を見張るようにいわれる。
「今日は空から『紫イモ』が落ちてくる。そいつをキャッチして、あたしに渡してほしいのさ。その数に応じてお金をあげよう。気を張っていくんだね。30分ばかししか時間はないから」
なるほど、と私は友達とやや距離を離して身構える。
やがて私の頭上の空に黒点があらわれた。ぐんぐんと大きくなってくるも、ソフトボールくらいの大きさにおさまったそれは、私がキャッチするのに抵抗ないくらいだった。
見た目に、皮のついたさつまいもによく似ていたけれど、光の向きによって皮が紅色から青色、緑色に変わる……得体のしれないものだった。
それを私は誘導されるまま、リヤカーへ入れていく。そのたび母親が紫イモを手に取って見定め、そのうえで小銭をくれた。
一つあたり、最大で500円まで払ってもらえる。友達もまた、もりもりとイモを回収してはほくほく喜んでいたっけ。
そうして30分ほどが経つころには、二人してリヤカーの半分が埋まるくらいの紫イモを確保することができていた。私たちも小銭をたっぷりせしめることができたのだけど……。
「じゃあね二人とも。今日はありがとね」
そうやってリヤカーを押し、足早に去っていく母親を見送って……気づいた。
友達の家は、父子家庭ではなかったか? 母親はとっくの昔になくなっていて、私は面識がないのだ。なのに、私はどうして彼女を友達の母親と思った?
友達もまた我に返ったようで。先の女性が何者だったか、私に尋ねてきたよ。どうやら、友達には彼が母親ではない、もっと別の誰かに見えていたようだ。
あの紫イモも、実際にどのようなものだったのか、今となっては分からない。そもそも友達があのようなことを切り出したのかも不可解なままだ。彼自身も私に声をかけてここまでの間のことを覚えていないようだ。
お金は一応、使えることを確認したけれど、気味悪くてね。家の使わない貯金箱に突っ込んだきり、そのままなのさ。




