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せっかち転生令嬢は乙女ゲームのモブだと思い込んでいる

作者: bob

歩行スピードを落とすことなく、次の授業へ向かっていた時だった。


「イザベル様ったら酷いわ! ノア様を悲しませるなんて」


甘ったるい、けれどどこか計算高そうな声。


ノア様とは我が国の王太子殿下。

そしてイザベル様とは、ノア殿下の婚約者――そして私の友人である公爵令嬢だ。


嫌な予感がして、私は反射的に物陰へ身を寄せた。


そこにいたのは、難関の編入試験を突破して最近入学した転入生ミレイユと、その手を握られ、困ったように眉を下げるノア殿下。


——ああ、この並び。


胸の奥に、説明のつかない既視感が広がった、その瞬間。

前のめりになった私はバランスを崩し、縁石に頭をぶつける。


(……思い出した)


これは、乙女ゲームの定番イベント。


そして私は――


(あ、これ。異世界転生だわ)


◆◇◆


頭部の痛みで目を覚まし、起き上がる。

鼻に付く消毒液の匂い、どうやら医務室に運ばれたらしい。


「…ルチア様、目を覚まされまして?」


枕元に血相を変えたイザベル様が私を覗き込んでいた。

握られる手にイザベル様の気遣う気持ちが込められているようで、心が和んだ。


「…ええ。私はどうしてここに…?」


そこでハッとした。


(そうだ!イベント現場を見て転けたんだ!)


気まずくなった私は伺うようにイザベル様を見る。

イザベル様は苦笑いを浮かべ口を開いた。


「ノア様が倒れた貴女を見つけてね。

頭を打ってるようだったし念のため医務室に…」


「…ご面倒をおかけしました」


恐縮し頭を下げる私にイザベル様は口を押さえて笑う。


「ふふふ。ルチア様がお転婆なのは知っていてよ?」


イザベル様の綺麗な笑顔に胸が痛んだ。

前世の記憶が蘇ったとはいえ、イザベル様と友人になり過ごした時間も私の大切な記憶だ。

イザベル様の手を握り返し、瞳を見つめる。


「私が必ずイザベル様を幸せにします!」


◆◇◆


それから私は影のように動いた。

確かめるべくは、誰ルートなのか…。


◆攻略対象その①のノア殿下。

あの日以来、ミレイユと二人きりで会ってないようだ。

私は物陰から、ノア殿下とイザベル様がお茶を楽しまれている様子を眺めた。


「……あれ、何してるの?」


「ふふふ。ルチア様は私を幸せにしてくださるそうよ」


二人の会話が聞こえてない私は、ただ見守っていた。



◆攻略対象その②騎士団長の息子。

学内の修練場、ミレイユと二人きり。

ミレイユは何かを差し出す。


(あれは、タオル?…受け取ったーーー!!)



◆攻略対象その③宰相の息子。

陽が陰る図書館、何かが始まりそうな雰囲気。

ミレイユと二人、勉強をしている姿があった。


(え?!こっちも!?)


毎日のルーティンである、ヒロインウォッチングを終えた私は帰宅し、自室のベッドに倒れ込んだ。

枕に顔を押し付け叫ぶ。


(ちょっと待って、同時進行ルートなんて聞いてない!)


これはハーレムエンドという、けしからん展開では!?

混乱する私は机に向かい、整理するように紙に書く。

書く内容もあんまりないが。


ミレイユを囲むように配置された男たち。

全ての矢印がヒロインへ向き♡を記す。


(終わってるやん!)


頭を抱え突っ伏すが、解決案は閃かない。

それならば、大人の力を借りよう!


邸宅内を走り目当ての部屋の扉を勢いよく開けた。


バンッ


「お父様!助けてください!」


「うおッ!…ルチアちゃん、いつになったらノックを覚えるの…?」


「お父様が葉巻をやめてないとお母様に言いつけられたくなければ黙ってください!」


伝家の宝刀を決め、お父様を黙らした私は本題に入る。

お母様に弱いお父様は『ぐぬぬ』と言いたげに黙り込んだ。


「お友達の婚約者がアバズレと仲良しなんです!権力者が多数いるのですが、どうすればお友達を守れますか!?」


「淑女が“アバズレ”は言ったらダメでしょぉ…」


子育てに失敗した親と言った面持ちで肩を落とすお父様に経緯を説明した。


「……ルチアちゃんのいつもの勘違いじゃない?」


「わからないわ!でももしそうだったら何かしないとイザベル様が悲しまれるかも…」


室内に沈黙が降りる。


「……え?お友達ってイザベル様なの…?」


失策である。

名前を言ってしまった私は目を泳がせ口を継ぐんだ。


「…うーん…。ノア殿下は人格者だから心配ないと思うけど…。そこまで言うんだったら」


お父様は手紙をしたため、蝋印を押す。

そして、その手紙を私に差し出した。


「これをノア殿下に渡しなさい」


「これは…?」


「ルチアちゃんが迷惑をかけてるみ… 「わかりましたわ!」 え?」


お父様の言葉に被せるように私は声を上げた。

そして手紙を高く掲げ見せつけるように口を開く。


「ノア殿下を脅して反省させるのですね!」


私の発言に再び肩を落としたお父様。

手をヒラヒラさせている。


「…もうそれでいいから…早く出ていきなさい」


◆◇◆


月日は流れ年度末のパーティー。

学園では毎年の年度末にパーティーを行い、素晴らしい成績を収めた者を表彰したり、婚活に励む。


私は婚約者がいないため、本来なら婚活に励むべきだが…。


(よく覚えてないけど、断罪はこう言うパーティーで行われるのよ!)


鼻息荒くイザベル様の周りを警戒していた。

イザベル様はノア殿下にエスコートされ、ほんのり頬が赤く染まっている。

軽めに言って女神である。


そんな時だった。


ツカツカとこちらに向かってくるピンク色のドレス。

可憐な雰囲気とは似つかわしくない表情のミレイユが目の前で止まった。


「イザベル様!ノア様を解放してあげてください!」


ヒロインの登場である。

ミレイユの発言に顔を見合わせるイザベル様とノア殿下。


「何を… 「お待ちなさい!」…」


(おや?ノア殿下が何か言いかけていた気が?)


まぁいいかと気を取り直し、ミレイユは向き直った。

私の登場にミレイユは唖然とした表情を浮かべる。


「ミレイユ様、色々な殿方と懇意にされているようですね」


私は顎をあげ、強く見せるようにミレイユを見る。

ヒールを履いているにも関わらず、ミレイユより背が低い私。

誤算である。


「な、何を…!?私はノア殿下を想って…」


「黙りなさいな。ノア殿下がいくらお優しいからって付け上がるのもそこまでよ!」


そう言うと手に持っていた紙の束を、目についた宰相の息子に押し付けた。

宰相の息子は目を白黒させ私を見る。

私はそんな宰相の息子を顎を上げ、見下すように見返した。


(あの女の回し者め!それを読んで絶望しろッ!)


宰相の息子は取り敢えずと言った様子で紙の束をめくり、目を見開いた。


「こ、これは…!?ミレイユ令嬢、これは本当ですか!?」


「な、なに…?」


宰相の息子は食ってかかるようにミレイユへ問い詰める。

そんな雰囲気にミレイユは怯むように後ずさった。

会場の参加者は騒ぐ私たちに目を向ける。

その様子に私は内心微笑む。


宰相の息子は紙の束をノア殿下に渡すと、ノア殿下はイザベル様にも見えるように紙をめくった。


「試験問題を故意に流出させる…。教員と体の関係」


「まぁ…」


書かれている内容を静かに読むノア殿下と驚くイザベル様。

周囲はミレイユに視線を向けた。


「そ、そんなの嘘に決まってるじゃない!」


焦るように言うが、顔色や態度に、会場中が疑うようにミレイユを見ていた。


「成績がいいのってそう言うこと…?」

「お盛んなのね」


周囲のヒソヒソ声にミレイユは顔を赤くし伏せる。

尚も読み進めるノア殿下。


「ん?宰相の息子と騎士団長の息子とも内通…?」


自信満々に胸を張る私を、宰相の息子は怒ったように睨んだ。

そんな時、笑い声が過剰に響く。


「ふふふ、もうルチア様ったら!ふふふ」


イザベル様が堪えるように笑っている。

それを見たノア殿下も笑い、宰相の息子に至っては疲れたように溜息を漏らした。

よくわかっていない私とミレイユは置き去りである。


「実は気になる報告をもらっていてね」


ノア殿下がそう言うと冷たい表情でミレイユを見る。

続けるように宰相の息子も口を開いた。


「殿下と私たちは内密に調査を行なっていたのですよ。

それを…」


また私に怒った表情を向ける宰相の息子。


(おや?何やら空気が…)


混乱する私の肩に手を添え、イザベル様は私に女神のように微笑む。

よくわからないが、どうやらイザベル様を守ることに成功したようだ。

ノア殿下は私が作った紙の束に目を落とした。


「ルチア嬢の父上から貰った手紙と、ルチア嬢が行ったミレイユの素行調査結果、退学処分はできそうだ」


「…?あのお手紙はノア殿下へのおど…嘆願書では…?」


「ははは。あの手紙はミレイユ嬢の家に関する調査書だよ。

まぁ、君のことも書かれてたけど」


どうやらミレイユの家もきな臭く、お父様が調査していたそうだ。

もっと早く言ってくれればいいのに、絶対に帰ったら葉巻の件チクる。今決めた。


「ま、待ってよ!家は私と関係ないじゃない!」


焦ってノア殿下に縋るミレイユ。

ノア殿下は距離を取り、騎士団を呼んだ。


「この者を連れて行け。関係者を洗い出すんだ」


ノア殿下の指示を受け、騎士団長の息子率いる騎士たちが連れて行った。

すれ違い様に騎士団長の息子に睨まれた気がする。


「や、やめて!触らないでよ!なんで!?ルチアは私の、ヒロインのお助けキャラじゃないの!?」


いきなり名前を呼ばれて私は動きを止める。


(そうだった!私ヒロイン側の人間だった!)


ここでようやくゲームの全容を思い出した。

貴族として家格の低いヒロイン。

そんなヒロインのシンデレラストーリーを可能にしたのがお助け役のルチア。

家の力を使い、時には助け、時には導く。


しかし今は…。

私は隣で微笑むイザベル様を見てニッコリと笑った。


(私は悪役令嬢のお助け役だ)


ミレイユの退室により会場が賑わいを徐々に取り戻す。

今になって気まずくなった私はイザベル様を見た。


「私の勘違いで、お二人の名誉を傷つけたかもしれません…」


私の発言に目を丸くしたイザベル様は次の瞬間笑っていた。


「あの二人は怒っているのではなくて、自分たちでは探れなかった内容を暴いたあなたに競争心が芽生えてるだけよ」


「私も疑われていたとは心外だが…。ルチア嬢の働きに助けられた。ありがとう」


イザベル様の慰めに、ノア殿下の謝意。

どうやら私はイザベル様を救うことに成功したようだ。


「そうだわ!ルチア様って婚約はまだよね?私の兄なんてどうかしら?」


イザベル様の兄とは公爵家次期当主。

今は留学中と聞いたが…。


「ユリウスって言うの。お父様もルチア様を気に入ってるから、既にお手紙送ったかもしれないわ」


楽しそうに笑うイザベル様。

私は絶句し固まった。


(ユリウスってゲームの隠れキャラやんけーー!!)


私の奮闘はどうやらまだまだ続きそうだ。

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