第9話 鑑定水晶は、嘘をつけない
王立魔法学園・地下資料室。
普段は鍵のかかったその部屋に、
数名の教師と技術顧問が集められていた。
「……再検証の理由は?」
白衣姿の老技師が、眼鏡を押し上げながら尋ねる。
「鑑定結果と、実技評価の乖離です」
答えたのは、学園副長だった。
「特に――
鑑定不能とされた生徒について」
老技師は、静かに息を吐いた。
「……あの水晶は、
“反応しない”ことはあっても、
“誤魔化す”ことはありません」
「つまり?」
「鑑定不能=適性なし、とは限らない」
室内が、しんと静まる。
技師は、水晶の台座に手を伸ばした。
「過去にも例はあります。
極端に高い適性を示した場合――
処理が追いつかず、沈黙する」
「……そんな事例が?」
「百年に一度、あるかないかですが」
副長が、眉をひそめる。
「なぜ、その情報が共有されていなかった」
「必要がなかったからです」
老技師は、淡々と言った。
「そのような事例が、
この学園で起きるとは――
誰も、想定していなかった」
別の教師が、口を開く。
「再鑑定は?」
「慎重に行うべきです」
老技師は、首を横に振る。
「鑑定水晶は万能ではない。
無理に測れば、
水晶が壊れる可能性もある」
「……では」
「まずは、間接的に確認する」
技師は、資料を取り出した。
「演習記録。
魔力残滓。
周囲への影響」
ページがめくられる。
「この生徒――
直接的な魔力行使の痕跡が、ほとんどない」
「それが、問題なのですか?」
「ええ」
老技師は、指で一点を示す。
「“ない”のに、
結果だけが出ている」
沈黙。
「つまり……」
「誰にも観測されない形で、
環境に干渉している可能性がある」
副長が、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「それは……」
「鑑定対象としては、
最も扱いづらい部類です」
老技師は、はっきりと言った。
「敵か、味方か、
現時点では判断できない」
その言葉に、
教師たちの表情が強張る。
「では、どうする」
「――見守る」
老技師は即答した。
「刺激せず、
圧をかけず、
現状を維持する」
「評価は?」
「変えない方がいい」
副長は、苦い顔をする。
「無能扱いのまま、ですか」
「はい」
「……それは、あまりに――」
「だからこそです」
老技師は、静かに言った。
「過剰な評価も、
過剰な排除も、
最悪の結果を招く」
資料室の空気が、重く沈む。
「ひとつだけ、確かなことがあります」
老技師は、水晶を見つめながら言った。
「鑑定水晶が沈黙した生徒は、
“無能”ではありません」
副長は、ゆっくりと頷いた。
「……分かった」
「では、この件は――」
「極秘扱いとする」
そう宣言され、会議は終わった。
その頃。
当の本人は、
学園の端で、黙々と基礎訓練を繰り返していた。
――何も知らずに。
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