第8話 無能は、知らないところで話題にされているらしい
最近、俺に直接何かが起きることはない。
相変わらず授業は普通に進むし、
課題も出るし、
成績が急に上がることもない。
ただ――
(妙に、静かなんだよな)
レオン・アルフェルドは、以前ほど前に出なくなった。
発言も控えめで、取り巻きの数も減っている。
その代わり。
教師たちが、よく視線をこちらに向けてくる。
露骨ではない。
一瞬だけ。
確認するような目。
(……見られてる、よな)
だが、理由は分からない。
分からない以上、
考えても仕方がない。
実技の時間。
ガルドはいつも通り、淡々と指示を出す。
「今日は個別演習だ。
各自、指定された課題をこなせ」
名前が呼ばれていく。
――最後。
「ノア・エルディン」
来た。
「お前は……基礎動作の反復」
周囲から、くすっと笑いが起きる。
「無能向けだな」
「今さら基礎かよ」
うん。
知ってる。
「了解です」
俺は指示通り、
一番端のスペースで魔力操作の基本を繰り返す。
派手さはない。
成果も目立たない。
ただ、失敗もしない。
――それだけ。
だが。
「……安定しているな」
小さな声が聞こえた。
ガルドだ。
独り言のように呟いただけで、
こちらに話しかけてくることはない。
(気のせい、か)
演習が終わり、
次の授業へ向かう途中。
廊下の向こうから、
知らない教師二人が歩いてくるのが見えた。
会話が、少しだけ聞こえる。
「……例の件だが」
「鑑定水晶の反応、やはりおかしい」
「だが、本人は――」
俺は、足を止めなかった。
聞いてはいけない気がした。
(関係ない、はずだ)
無能の俺が、
何かに関係する理由はない。
昼休み。
例の平民の生徒が、また近くの席に座った。
「なあ、ノア」
「はい」
「最近、教師に呼ばれたりしたか?」
「いえ」
「……そうか」
少し考え込むような顔。
「いや、なんでもない」
それ以上は聞いてこない。
(……なんだ、それ)
放課後。
校舎を出るとき、
背後から視線を感じた。
振り向くと、
事務棟の窓から、誰かがこちらを見ている。
――すぐに、カーテンが閉じられた。
(……気のせいだろ)
そう思うことにした。
思うしかない。
俺は、特別なことをしていない。
しているつもりもない。
なのに。
(……面倒なことに、なりそうだな)
その予感だけが、
胸の奥に残っていた。
理由は分からない。
分からないままでいい。
今はまだ。
俺は、無能として、
今日も学園を後にした。
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