第79話 許容という選択
中央網・臨時審議。
議題は一つ。
――意図的揺動の制度化。
「差を残す?」
「揺らぎを許容する?」
会議室には戸惑いが広がる。
これまでの方針は明確だった。
差を削り、揃え、安定させる。
それが“進歩”だった。
エルドは静かに説明する。
「均一化が進むと、演算不能が増える」
「小さな差を残せば、
演算は継続できる」
理屈は単純だ。
だが受け入れがたい。
「意図的に揺らすのは危険だ」
セドリックが言う。
「人為的介入は予測を歪める」
「均一も歪みです」
エルドは視線を逸らさない。
「揃いすぎた世界は、止まる」
ノアが壁際から補足する。
「安定とは、静止ではない」
沈黙。
ミレイアが小さく頷く。
「制度は差を排除してきた」
「だが、排除しすぎたのかもしれない」
数日後。
中央網は新しい項目を追加する。
『許容揺動値』
ゼロではない。
微小な差を、あえて残す。
実験的措置。
その夜。
広域均一化傾向が再び発生。
中央は揺動値を調整する。
意図的に微細な魔力波を混ぜる。
波形に凹凸が戻る。
沈みは起きない。
演算は維持。
数値上、安定。
管制室に安堵が広がる。
「成功だ」
誰かが言う。
だがエルドは、端末を見つめる。
波形は、確かに乱れている。
だがそれは、
中央が作った差だ。
(これは、本当の差か)
夜。
ノアが屋上で言う。
「制度が差を作るか」
「はい」
「それは差ではない」
エルドは振り向く。
「作られた揺らぎは、
また揃う」
言葉が刺さる。
端末が震える。
『許容揺動値、吸収傾向』
揺らぎが、中央の差を吸収している。
均一に戻ろうとしている。
エルドは目を細める。
差は、与えられるものではない。
差は、
判断から生まれるものだ。
制度が作る差では、
揺らぎは学習する。
そしてまた、
揃う。
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