第68話 三点の誤差
三地点同時。
境界域Wは、北・南・中央の三区画に分かれていた。
『中央予測:独立事象』
『連動性低』
表示はいつも通りだ。
だがエルドの胸の奥は、いつも通りではない。
「発生順は?」
「北、南、中央の順です」
「間隔は五秒、四秒、三秒」
「縮んでいるな」
ミアが小さく頷く。
「リズムが一定です」
中央は“独立”と判定。
だが現場の感覚は“連動”。
出動命令。
三班に分かれる。
エルドは中央区画へ向かう。
揺らぎは浅い。
だが脈打つ間隔が、規則的すぎる。
北から通信。
『安定化成功』
南からも。
『問題なし』
中央も、波形は許容範囲内。
それでも。
(終わっていない)
地面の奥で、何かが呼応している。
中央網から補正式が送られる。
『収束予測、二十秒』
秒読みが始まる。
十九。
十八。
十五秒を切った瞬間、
三地点の波形が同時に跳ねた。
今までより強い。
「補助展開!」
エルドが叫ぶ。
「中央は不要と判定しています!」
「展開しろ!」
南班が一瞬遅れる。
中央区画が沈み込む。
圧縮された魔力が、横方向へ走る。
北と南が引き寄せられるように震える。
三地点が、一本の波で繋がった。
ミアの声が震える。
「やっぱり連動してる!」
補助結界が間に合い、爆発的拡大は防がれる。
だが中央区画の地表が割れ、数名が転倒。
「負傷三名、軽傷!」
収束。
静寂。
中央からの通信は数秒遅れた。
『三地点の同期現象を確認』
『予測モデル更新中』
更新中。
後追い。
エルドは歯を噛みしめる。
(中央は悪くない)
計算は膨大だ。
完璧に先読みできるわけではない。
だが、三地点のリズムは明らかだった。
撤収後、報告会議。
セドリックの顔は険しい。
「三地点同期は想定外だった」
「だが補助展開で被害は抑えられた」
視線がエルドに向く。
「中央指示を待たなかったな」
「はい」
「なぜだ」
「連動を感じました」
「感じた?」
言葉が重く落ちる。
「数値上は独立でした」
「数値は更新される」
セドリックは淡々と言う。
「だが、現場判断は揺らぐ」
正論だ。
ミレイアも同席している。
「規則違反ではない」
「だが、記録の表現には注意を」
連動と断定するな、という意味だ。
エルドは黙る。
夜。
訓練場。
ノアが待っていた。
「三点か」
「はい」
「どう思う」
エルドは空を見上げる。
「中央は更新します」
「次は予測できるでしょう」
「そうだな」
ノアは肯定する。
「だがな」
少し間を置く。
「更新に追われ続ける仕組みは、
いずれ“追いつけない瞬間”を持つ」
風が強く吹く。
境界域Wは安定している。
だがエルドの中では、
三点の脈動が消えていない。
(誤差は縮まっている)
間隔が、短くなっている。
北・南・中央。
次は四点か。
それとも――
端末が震える。
『境界域群K-1〜K-4、同時微差検知』
四地点。
エルドは目を閉じる。
誤差は、もう偶然ではない。
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