第67話 連動する揺らぎ
境界域Vは、東西に分かれた二地点だった。
距離は離れている。
だが波形は似ている。
『中央予測:個別事象』
『相関なし』
端末にはそう表示されている。
エルドは地図を睨む。
「同時刻、発生間隔は?」
「誤差三秒以内です」
三秒。
偶然にしては、近い。
「中央は連動を否定している」
副官が確認する。
「はい。過去データとの一致率は低いと」
一致率。
基準は常に過去だ。
現場到着。
東側は軽微な空間歪み。
西側は魔力圧の上昇。
性質は違う。
だが、発生リズムが揃っている。
「通常手順で対応」
エルドは命じる。
部隊は分散。
中央網はリアルタイムで補正値を送り続ける。
『東側安定化』
『西側補正中』
順調だ。
だが西側の波形が、一瞬だけ跳ねた。
鋭い脈動。
それが東側にも、わずかに伝播する。
「……連動している」
ミアが小さく呟く。
「記録上は?」
「誤差範囲です」
誤差。
便利な言葉。
エルドは歯を食いしばる。
「西側、補助展開を追加」
「規則にはありません」
「追加だ」
命令は出た。
その瞬間、中央から通信。
『西側は安定予測』
『補助不要』
エルドは迷う。
中央を優先するか。
現場判断を優先するか。
三秒。
西側が再び脈動。
地面が波打つ。
「補助展開、急げ!」
部隊が動く。
魔力圧が跳ね上がる直前、
補助結界が間に合った。
爆発は抑えられる。
東側も同時に静まる。
収束。
被害なし。
中央から再通信。
『予測モデル更新済み』
『対応適切』
適切。
エルドは息を吐く。
だが胸は重い。
(中央は否定した)
だが連動はあった。
もし補助を出さなければ、
西側はもう一段跳ねていた。
報告書を書く。
『二地点微差、軽度連動を確認』
『補助展開により安定』
送信。
数分後、返信が返る。
『連動性は統計的に有意ではない』
『記述修正を推奨』
修正。
連動を削れ、という意味だ。
エルドは画面を見つめる。
削れば、何もなかったことになる。
残せば、制度に傷がつく。
ノアの声が頭に浮かぶ。
『分からないままにするな』
エルドは、修正せずに再送する。
『連動性の可能性あり』
短い追記。
中央からの返答は遅れた。
夜。
管制室に戻る。
リアナが静かに言う。
「中央、少しざわついてるわ」
「……規則違反ではありません」
「ええ。でも」
“でも”の先は言わない。
ノアは壁際で腕を組んでいる。
「迷ったな」
「はい」
「それでいい」
肯定でも否定でもない。
「制度は守られている」
「だが、制度はお前の代わりにはならない」
その言葉が、重く落ちる。
端末がまた震える。
『境界域W、微差検知』
『三地点同時』
エルドは顔を上げる。
三地点。
誤差は、連なり始めている。
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