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学園で無能扱いされた俺、鑑定不能なだけで全属性最強でした ~面倒なので黙ってたら、なぜか学園と国に監視され始めた件~  作者: 黒羽レイ
第2部 選ばれない世界のその先で

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第65話 問題なしの内側

 境界域Rは、森の外縁に位置していた。


 到着した時点で、揺らぎは視認できる程度に薄い。

 空気がわずかに歪み、葉の揺れが不自然に揃っている。


「中央予測、問題なし」


 副官が確認する。


 端末には、安定を示す緑色の波形。

 誤差は許容範囲内。


「規則第三段階、通常展開」


 エルドは即座に指示を出す。


 部隊は迷いなく動く。

 結界杭の配置、観測式の展開、周辺住民の一時避難。


 すべて、教科書通り。


 数分後、揺らぎは収束を始める。


「収束率、上昇」


「問題なし」


 副官の声は明るい。


 だが、ミアが小さく眉を寄せていた。


「……波形が、揃いすぎてる」


「何か言ったか?」


 エルドが振り向く。


「いえ。誤差です」


 端末を見る。

 確かに、数値は安定している。


 だが、波の山が妙に整っている。

 自然の揺らぎというより、計算された振動に近い。


 中央からの通信が入る。


『境界域R、安定判定』

『撤収可』


「了解」


 エルドは頷く。


 撤収命令を出そうとして――

 ふと、足を止めた。


 森の奥。

 揺らぎの中心から、ほんの一瞬だけ、

 別の波形が混ざった気がした。


 極めて短い、鋭い脈動。


 端末には表示されない。


「……ミア」


「はい」


「今、何か検知したか」


 ミアは少し迷い、首を横に振る。


「記録上は、何も」


 記録上は。


 エルドは、森を見つめる。


 規則では撤収だ。

 中央は安定と判断している。


 ここに留まる理由はない。


「撤収する」


 命令は出された。


 部隊が動き出す。


 その瞬間。


 地面が、わずかに沈んだ。


 音は小さい。

 だが、明確な変化。


「待て」


 エルドが叫ぶ。


 次の瞬間、地表の一部が裂け、

 圧縮された魔力が噴き出した。


 爆発ではない。

 だが、衝撃で二人が吹き飛ばされる。


「負傷者!」


「軽傷二名!」


 揺らぎはすぐに消える。

 まるで、何もなかったかのように。


 中央からの通信が再度入る。


『予測範囲外の微小反応を確認』

『修正済み』


 修正済み。


 エルドは、負傷者の手当てを見ながら、

 胸の奥に小さな棘を感じる。


(撤収していたら)


 被害は、もう少し大きかったかもしれない。


 だが、これは大事故ではない。

 規則違反でもない。


 中央は「想定外の誤差」と処理するだろう。


 森を離れる前、

 エルドは一度だけ振り返る。


 揺らぎは消えた。

 波形も安定している。


 それでも。


(あれは、誤差だったのか?)


 夜。


 報告書をまとめる。


『境界域R、最終安定』

『軽微被害、予測誤差に起因』


 書きながら、手が一瞬止まる。


 予測誤差。


 便利な言葉だ。


 誰の判断でもない。

 構造の中の揺れ。


 端末を閉じると、外に気配。


 ノアが立っていた。


「軽傷で済んだらしいな」


「はい」


「撤収を止めたのは、お前か」


「……はい」


 ノアは少しだけ頷く。


「中央は、どう言っている」


「誤差の範囲だと」


「そうか」


 短い沈黙。


「それで、お前はどう思う」


 エルドは答えられない。


 規則通りなら、問題なし。

 中央判断も、間違っていない。


 だが。


「……分かりません」


 それが、正直な答えだった。


 ノアはそれ以上、何も言わない。


 ただ一言だけ。


「分からないままにするな」


 風が、森の匂いを運ぶ。


 境界域Rは、安定している。


 数値上は、問題なし。


 だがエルドの胸には、

 小さな揺らぎが残っていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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