第60話 再評価は、静かに行われた
学園からの通知は、昼過ぎに届いた。形式張った文面。
感情の入り込む余地はない。
「過去の適性鑑定および評価手法について、再検証を行った結果を通知する」
それだけで、内容はおおよそ察しがついた。
管理担当の女性が、資料を確認しながら言う。
「……学園評議会の正式決定ね」
「外圧じゃない。内部整理」
それは、ある意味で一番きつい。
誰かに責められたわけでも、糾弾されたわけでもない。
ただ、“間違っていた”と事務的に認めただけだ。
文書は続く。
「鑑定不能=無能とする判断は、科学的・魔術的根拠を欠いていた」
「当該評価に基づく処遇については、不当であった可能性が高い」
可能性、という言葉が使われている。断定はしない。それでも、十分だった。
最後の一文。
「ノア・エルディンの評価を、当時の基準から切り離し、無効とする」
無効。取り消しでも、謝罪でもない。
(……なかったことにする、が一番安いもんな)
ただ、なかったことにする。それが、学園らしい落とし所だった。
俺は、書類を静かに閉じる。
「……何か、言う?」
管理担当の女性が、気遣うように聞く。
「いいえ」
即答だった。
「今さら、言うことはありません」
学園は、俺を切り捨てたわけじゃない。ただ、理解できなかっただけだ。
理解できなかったものを、理解できないまま、誤って処理した。
それだけの話だ。午後。旧学園の関係者が、非公式に連絡を取ってきた。
謝罪でも、弁明でもない。
「当時の判断に、悪意はなかった」
俺は、返信しなかった。悪意がなかったことは、分かっている。
だからこそ、ここまで拗れた。管制室では、別の話題が流れている。
『境界域K、初動成功』
『通常運用にて収束』
俺の名前は、出ない。それでいい。
夕方。施設の廊下で、若い研究員が、俺に頭を下げた。
「……再評価、出ました」
「おめでとうございます」
祝福の言葉としては、少しズレている。だが、彼なりの精一杯だろう。
「ありがとうございます」
俺は、そう返した。それ以上、何も言わない。
評価が戻ったからといって、何かが変わるわけじゃない。
俺は、もう学園にいない。戻る理由もない。
夜。部屋で一人、ふと考える。
(……無能じゃなかった)
それは、昔なら欲しかった言葉だ。でも今は、それほど重要じゃない。
俺は、無能でも、天才でも、基準でも、例外でもない。
ただ、使われない場所に立つ人間だ。学園の再評価は、静かに終わった。
誰かの溜飲を下げることもなく、誰かを叩き落とすこともなく。
それで十分だった。
評価は取り消しではなく「無効」——学園らしい、いちばん安上がりな決着でした。
本人はもう、ほとんど関心がなさそうです。それが逆に、今の彼らしいところです。




