第6話 評価を取り戻そうとした結果、取り返しがつかなくなる
評価が下がった翌日から、
レオン・アルフェルドは明らかに無理をし始めた。
授業中、誰よりも早く手を挙げる。
質問に即答する。
教師の指示を待たずに前に出る。
(あー……)
(“取り返そうとして空回る”フェーズに突入したな)
優等生が一番やってはいけない行動を、
教科書通りに踏んでいる。
「次は班ごとの協力演習だ」
ガルドが言う。
「今回は“魔力配分”を重視する。
一人の火力より、全体の安定を見たい」
――完全に、昨日の件を意識した課題。
だが。
「私が指揮を取ります」
レオンが即座に名乗り出た。
「この班で、最も実力があるのは私だ」
周囲が一瞬、ためらう。
だが、誰も反論できない。
(……うん)
(“実力がある”と“指揮ができる”は別なんだけどな)
演習開始。
レオンは次々に指示を飛ばす。
「前衛、もっと出ろ!」
「魔力を惜しむな!」
「一気に押し切る!」
……全部、逆だ。
魔力配分が崩れ、
班全体の動きがバラバラになる。
ゴーレムが、暴れ始めた。
「まずい……!」
班員の一人が叫ぶ。
だが、レオンは止まらない。
「構わない!
私が全部焼き払う!」
(あ、これ――)
(本気で危ない)
俺は、また“ほんの少し”だけ動いた。
地面の硬さを変える。
風の流れを歪める。
目立たない。
気づかれない。
結果。
ゴーレムの突進が鈍り、
班員は辛うじて退避できた。
だが――
レオンだけが、前に出すぎていた。
「なっ……!?」
足元が崩れ、体勢を崩す。
ゴーレムの腕が振り下ろされる。
――直撃寸前。
「停止!」
ガルドの怒号が響いた。
結界が展開され、
攻撃は防がれた。
沈黙。
レオンは、地面に膝をついていた。
「……アルフェルド」
ガルドの声は、低かった。
「今のは、何だ」
「……」
「班員を危険に晒した。
独断専行。命令違反」
周囲の生徒が、完全に黙り込む。
「評価を、さらに下げる」
――二段階目。
これは、致命的だ。
「なぜだ……」
レオンが、呆然と呟く。
「私は……
正しいことを……」
(ああ)
(“正しい”と思ってるうちは、立て直せない)
演習後。
廊下で、取り巻きの一人が小声で言った。
「……最近、レオン様……
ちょっと危ないよな」
別の一人が、視線を逸らす。
「昨日も今日も……
正直、怖かった」
――崩れ始めた。
信頼は、音を立てずに壊れる。
一方で。
「ノア」
ガルドが、俺を呼び止めた。
(あ、来た)
嫌な予感。
「……お前、
本当に何もしていないのか?」
真正面からの問い。
俺は、少し考えてから答えた。
「何もしていません」
嘘ではない。
“ほとんど”何もしていない。
ガルドは、しばらく俺を見つめ――
「……そうか」
それだけ言って、去っていった。
(うん)
(疑われ始めたな)
だが、それでいい。
疑いは、
やがて“調査”に変わる。
そして調査は、
必ず“何か”を見つける。
レオンは、まだ気づいていない。
自分がもう――
取り返しのつかない位置にいることに。
俺は、無能の席に戻り、机に突っ伏した。
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