第55話 条件は、世界に通らない
制度化の作業は、思ったよりも早く始まった。
だが、同時に――
それを待たない動きも、確実に存在していた。
最初に逸脱したのは、国外だった。
『隣国東部、独自の安定化作戦を実施』
『“媒介者”を中心とした運用を確認』
管制室に届いた報告を見て、
誰もが同じことを考えた。
――真似したな。
アレクが、冷静に言う。
「ノアの存在を前提にした運用だ」
「ただし、本人はいない」
つまり。
形だけをなぞった。
宗教評議会も、ほぼ同時だった。
> 「祝福は、人を選ばない」
> 「正しい儀式と配置があれば、再現できる」
聖職者たちは、
“代替の媒介”を立てた。
適性があると判断された者を、
境界域の中心に置いた。
結果は、報告を読むまでもなかった。
『儀式途中で魔力暴走』
『代替媒介、重体』
『周辺被害、拡大』
机の上に落ちる報告書の音が、
やけに大きく響いた。
「……なぜ、止められなかった」
若い職員が呟く。
調停局の男が、淡々と答えた。
「止める権限がない」
「国家の外側だ」
俺は、黙って地図を見ていた。
境界域。
被害が出た地点。
そして、俺がいない場所。
線を引けば、簡単だ。
だが、その線を越えてくる者は、
必ずいる。
午後。
さらに報告が入る。
『地方都市E、独自判断で運用変更』
『ノア同行を想定した配置を実施』
聞き覚えのある構図だった。
結果も、同じだ。
対応は遅れ、
被害は拡大した。
管理担当の女性が、
唇を噛む。
「……世界は、待たないわね」
「ええ」
俺は、短く答えた。
「条件は、
守る人にしか通らない」
ミレイアが、資料を閉じる。
「だからこそ、制度が必要です」
「“善意”を信用しない仕組みが」
アレクが、静かに言った。
「皮肉だな」
「ノアを使わないために」
「世界が、一度壊れる必要がある」
否定できない。
だが、それは――
俺が望んだことじゃない。
夕方。
外部の情報網は、騒がしくなっていた。
> 「なぜ、本物は来ない」
> 「代わりでは、意味がなかった」
> 「国家は、隠している」
怒りと混乱が、混ざっている。
俺は、そのどれにも反応しない。
反応すれば、
“本物”という前提を
補強するだけだ。
夜。
管理担当の女性が、
疲れた声で言った。
「……あなたの提案は、正しかった」
「少なくとも、因果ははっきりした」
「はい」
俺は、窓の外を見る。
世界は、俺の条件を守らない。
守る気がない者もいる。
それでも。
「だから、
引き下がる理由にはなりません」
世界に通らない条件なら、
世界の側を変えるしかない。
それは、
俺が前に出る理由になった。
使われないために。
もう一度、
はっきりと。
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