第50話 責任を負わないという罪
それは、
抗議という形をしていた。
管理施設の外に、
人が集まり始めたのは
夕方だった。
暴徒ではない。
武器も持っていない。
ただ、
声を上げている。
「説明しろ」
「なぜ、来なかった」
「協力しているんだろう?」
誰も、
俺の名前を叫んではいない。
それでも、
全員が同じ方向を
見ていた。
管理担当の女性が、
窓越しに様子を確認する。
「……想定より、
早かったわね」
「ええ」
俺は、
それだけ答えた。
調停局の男が、
淡々と指示を出す。
「警備は最小限」
「挑発するな」
「彼らは、
敵ではない」
その判断は正しい。
集まっている人々の顔には、
怒りよりも
困惑が浮かんでいた。
不安が、
行き場を失っている。
代表者らしき男が、
声を張り上げる。
「あなたが来れば、
助かった場所がある!」
「国家が守ってるなら、
なおさらだ!」
その言葉に、
ざわめきが広がる。
管理担当の女性が、
俺を見る。
「……出る?」
「いいえ」
即答だった。
「今、
俺が出たら」
「“応えなかった理由”を
説明する立場に
なります」
それは、
責任を引き受ける
ということだ。
彼女は、
唇を噛む。
「それでも、
彼らは納得しない」
「分かってます」
でも、
線は越えられない。
しばらくして、
外の声が変わった。
「逃げてるだけだろ!」
「都合のいい時だけ
出てくるくせに!」
初めて、
矛先がはっきりした。
怒りが、
形を持ち始める。
調停局の男が、
低く言った。
「……来たな」
夜。
集団は、
自然と解散した。
誰も逮捕されていない。
誰も傷ついていない。
それでも。
端末には、
大量の書き込みが
残っていた。
「助けられるのに、
助けないのは罪だ」
「責任を負わないなんて、
無責任だ」
「特別なら、
特別なりの義務がある」
俺は、
画面を閉じた。
責任。
その言葉が、
ずっとつきまとう。
管理担当の女性が、
静かに言った。
「……あなたは、
何も悪くない」
「でも、
世界はそう思わない」
その通りだ。
俺は、
世界を救うと
言っていない。
約束も、
保証も、
していない。
それでも。
“できるのにやらない”
という想像だけで、
人は他人を裁ける。
責任を負わない。
それは、
今や“選択”ではない。
罪として、
扱われ始めていた。
その夜。
俺は、
初めて思った。
(……このまま
何もしない、
は)
(世界にとって、
許されないのかもしれない)
それでも。
条件は、
撤回しない。
撤回した瞬間、
俺は“装置”になる。
そしてそれは、
もっと多くのものを
壊す。
だから。
責められても、
憎まれても。
俺は、
まだ動かない。
だが。
世界は、
もう待たなくなっていた。
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