第5話 無能相手に負けた優等生の評価は、こうして下がる
模擬戦の翌日。
教室の空気は、はっきりと変わっていた。
昨日までは、
「無能」「最下位」「空気」
――そんなラベルを貼られていた俺に、
今日は、妙に距離を測る視線が向けられている。
(あー……)
(完全に“触れていい存在か分からないやつ”になったな)
レオンは、まだ教室に来ていなかった。
その事実だけで、ざわつきが生まれる。
「……アルフェルド、遅くない?」
「珍しいな」
「昨日の件、効いてるんじゃ……」
ひそひそ。
ひそひそ。
――噂というのは、魔法より早い。
やがて、教室の扉が勢いよく開いた。
レオンだ。
だが。
昨日までの、余裕ある笑みはない。
視線が落ち着かず、歩き方もどこか硬い。
「……」
無言で席に着く。
取り巻きたちが、気を遣うように声をかけた。
「レオン様、昨日は不運でしたね」
「相手が無能すぎて、逆にやりづらかったというか……」
――ああ。
(それ、言っちゃダメなやつ)
レオンの眉が、ぴくりと動く。
「……そうだ。
あれは事故だ」
声に、焦りが混じっている。
「私は負けていない」
だが。
「でもさ」
別の生徒が、ぽつりと呟いた。
「結果だけ見ると……
ノア、無傷だったよな」
空気が凍る。
レオンが立ち上がった。
「それがどうした!」
「無能が、たまたま避けただけだ!」
……ああ、もう。
(完全に“負けを認められない人”のムーブ)
そのとき。
「静かにしろ」
ガルドが入ってきた。
「今日は昨日の模擬戦の総評だ」
黒板に、名前と簡単な評価が書かれていく。
そして。
「アルフェルド」
レオンが背筋を伸ばす。
「火力は優秀。
だが、制御と判断力に問題あり」
……ざわ。
「昨日の対戦は、明確なミスだ」
「なっ……!」
「無能相手に勝とうとして、
力を抑えられなかった」
――言った。
教室が、完全に静まり返る。
「よって、評価を一段階下げる」
レオンの顔から、血の気が引いた。
「そんな……!」
「文句があるなら、結果で示せ」
ガルドは冷たく言い放つ。
そして。
「次。ノア・エルディン」
……え?
一斉に視線が集まる。
(やめてくれ)
(こういうの、目立つから)
「昨日の対戦、
お前は何をした?」
「……何も」
正直に答える。
ガルドは、少しだけ口角を上げた。
「そうか」
それだけ。
評価も、称賛も、なし。
だが――
(それが一番効くんだよな)
レオンが、こちらを睨みつけている。
だが、何も言えない。
言えば言うほど、
自分の立場が悪くなることを、もう理解しているからだ。
昼休み。
廊下で、知らない生徒に声をかけられた。
「あの……ノア、だよな?」
「はい」
「昨日の動き……
偶然、じゃないよな?」
俺は、少しだけ考えて答えた。
「さあ。
運が良かっただけだと思います」
「……そうか」
納得したような、
していないような顔。
噂は、さらに広がるだろう。
――無能のはずの最下位が、
優等生に勝った(ように見えた)。
事実かどうかは関係ない。
人は、“物語”を信じる。
そして、物語はもう――
レオンにとって不利な形で動き始めている。
俺は席に戻り、机に突っ伏した。
(……まだ、小ざまぁ)
(でも)
(次は、確実に大きい)
優等生は、
評価が揺らいだ瞬間に――
取り返そうとして、最大の失敗をする。
それが、
この学園の“お約束”だった。
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