第49話 条件が、通用しない相手
最初に動いたのは、
国家ではなかった。
管理施設に届いた一報は、
どこか場違いな文言を含んでいた。
「境界域における安定現象について、
宗教評議会が見解を発表」
宗教。
その単語を見た瞬間、
管制室の空気が変わった。
「……来たか」
調停局の男が、
低く呟く。
評議会は、
王国の公式機関ではない。
だが、
無視もできない。
影響力がある。
発表内容は、
一見すると穏やかだった。
「近年観測される安定現象は、
人の在り方が
世界と調和した結果である」
「特定の個人に宿るものではなく、
祝福は“その場”に降りる」
名前は、
出ていない。
だが、
次の一文で、
はっきりした。
「祝福が現れる場所には、
必ず“媒介”が存在する」
媒介。
その言葉に、
嫌な感触があった。
「……装置扱い、
ですか」
俺が言うと、
管理担当の女性が
苦い顔をした。
「彼らなりの
配慮よ」
「個人崇拝を
避けてるつもり」
つもり、
というのが重要だった。
午後。
さらに追い打ちが来る。
隣国からの
視察団の到着。
表向きは、
技術交流。
だが、
議題に含まれていた。
「安定事象の再現性について」
「……再現、
って言いました?」
俺は、
思わず聞き返す。
通訳を通して伝えられた
視察団の言葉。
「ええ」
「貴国では、
特定条件下で
被害が抑制されている」
「その条件を、
共有できないか」
調停局の男が、
即座に答えた。
「できない」
「その条件は、
管理下にあり」
「個人の権利に
深く関わる」
正論だ。
だが、
相手は首を傾げただけだった。
「理解している」
「だが、
再現性がある以上」
「研究対象では?」
その視線が、
一瞬だけ
俺に向いた。
評価ではない。
敵意でもない。
好奇心だ。
それが、
一番危険だった。
会談後。
管理施設の廊下で、
管理担当の女性が
疲れた声で言う。
「国家の約束は、
国家にしか
効かないのよ」
「宗教も、
他国も」
「あなたの条件を
守る義務はない」
その通りだ。
彼らは、
悪くない。
自分たちの論理で
動いているだけだ。
夕方。
外部の情報網に、
新しい言葉が
流れ始めていた。
「祝福の媒介」
「安定を呼ぶ存在」
「歩く結界」
どれも、
俺の知らない名前だ。
だが、
指しているものは一つ。
俺は、
窓の外を見る。
遠くで、
教会の鐘が鳴っていた。
(……約束とか、
条件とか)
(守る気がない相手には、
意味ないよな)
この世界には、
国家の外側がある。
そして今。
その外側が、
俺を見つけ始めていた。
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