第47話 責める理由は、必要なかった
境界域Cの後始末は、
思ったよりも静かに進んでいた。
死者は出ていない。
補償も決まった。
復旧の目処も立っている。
表向きには、
問題は解決したように見える。
だが。
管制室に集まった報告を見て、
俺ははっきりと違和感を覚えていた。
どの資料にも、
同じ言葉が散見される。
「もし、あの人が来ていれば」
「今回は、運が悪かった」
「仕方がない」
誰も、
俺の名前を出していない。
それでも、
意味は一つだった。
“来なかった”
という前提だけが、
共有されている。
「……責任追及は?」
俺が聞くと、
調停局の男は即答した。
「ない」
「誰かを罰する案件ではない」
それは事実だ。
虚偽情報を流した“個人”は特定できない。
自治体も、意図的ではなかった。
責める相手が、
いない。
だからこそ。
「空気が、
責めてるな」
隊長が、
ぽつりと言った。
誰に向けた言葉かは、
分からない。
だが、
その場にいる全員が
同じことを感じていた。
午後。
俺は管理施設内の通路を歩いていた。
遠くから、
作業員たちの会話が聞こえる。
「次は、
ちゃんと来るよな」
「さすがに、
今回は例外だろ」
例外。
その言葉が、
妙に引っかかった。
例外ということは、
本来は来るはずだった、
という認識がある。
俺は、
足を止めなかった。
振り向きもしない。
彼らは、
俺が近くにいることを
知らない。
だが、
俺がいない前提で
話をしている。
管理担当の女性が、
後ろから声をかけてきた。
「……聞こえた?」
「ええ」
「誰も、
あなたを非難していない」
分かっている。
「でも」
俺は、
静かに言った。
「“期待を外した”
空気にはなってますね」
彼女は、
否定しなかった。
小さく、
息を吐く。
「責める理由は、
もう必要ないの」
「期待があるだけで、
人は勝手に
失望するから」
夕方。
境界域Cの住民代表との
記録映像を見せられた。
中年の男が、
落ち着いた口調で話している。
「誰かを責めたいわけじゃない」
「ただ……」
「次は、来てもらえると助かる」
その言葉は、
穏やかだった。
怒りも、
憎しみもない。
だからこそ、
重い。
“次”を、
当然のように含んでいる。
俺は、
映像を止めた。
(……断る理由、
どこにあるんだろうな)
断っていない。
約束もしていない。
それでも。
期待だけは、
もう成立している。
夜。
部屋で一人、
端末を閉じる。
俺は、
何もしていない。
約束も、
判断も、
責任も。
それなのに。
「次は来る」
という前提だけが、
世界に置かれていた。
責める理由は、
もういらない。
期待がある限り、
空気が勝手に
責任を作っていく。
それが、
一番厄介だと
ようやく分かってきた。
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